意味
「引く手あまた(ひくてあまた)」とは、ぜひ来てほしいと声をかけてくる人が大勢いるという意味です。
あちこちから求められている様子をいいます。
- 引く手(ひくて):自分の方へ来るよう誘う人。
- あまた:数が多いこと。
語源・由来
この言葉の「あまた」は、漢字で「数多」と書き、「引く手数多」とも表記します。
古くは『伊勢物語』の歌に詠まれています。
ある男が熱心に思いを寄せた女性は、男が浮気者だといううわさを聞いて、かえって冷たくなりました。
そのとき女性が詠んだのが、次の歌です。
大幣の引く手あまたになりぬれば思へどえこそ頼まざりけれ
(大幣のように、あなたは引く手あまたになってしまったので、恋しく思ってはいても、とても頼りにはできません)
「大幣」は、大祓(= 身のけがれを清める行事)で使う、大きな串につけた幣のことです。
お祓いのあと、人々がこれを引き寄せて自分のけがれを移し、川に流したといいます。
歌では、多くの人の手に引かれる大幣に、あちこちの女性から誘われる気の多い男をたとえています。
使い方・例文
- この資格を持つ人は少ないので、どの会社からも引く手あまただ。
- 腕のいい大工の兄は、春の工事の時期になると引く手あまたになる。
- 話の面白い先生で、講演の依頼が続き引く手あまたらしい。
類義語
- 引っ張りだこ(ひっぱりだこ):
多くの人から争って求められること。
大幣の歌には男の返歌がある
女性の歌に、男は次の歌を返しています。
大幣と名にこそ立てれ流れてもつひに寄る瀬はありといふものを
(大幣だという評判は立っていますが、川に流される大幣にも、最後に流れ着く瀬はあるというではありませんか)
お祓いのあと大幣が川に流されることに掛けた返事です。
浮気者と言われていても、最後に身を寄せる相手はあなただ、と言い返しています。

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