ふんわりとした毛に包まれ、穏やかで群れを成して暮らす「羊」。
その温和なイメージから、平和や安泰の象徴とされる一方で、弱者の代名詞や、内面を隠す比喩として使われることもあります。
2027年(令和9年)の干支は「丁未(ひのとのひつじ)」。
この機会に、私たちの生活の中に潜む「羊」に関する表現へ、今一度、目を向けてみましょう。
日常会話で使えるものから、人生の指針となる四字熟語まで、意味や由来をシチュエーション別に紹介します。
1. 見かけと本質・油断ならない様子を表す言葉
羊の「おとなしい外見」を逆手に取った、鋭い人間観察の言葉です。
羊頭狗肉(ようとうくにく)
- 見かけだけ立派で、中身が伴っていないことのたとえ。
- 由来:中国の仏教書『無門関』などの記述より。店頭に立派な「羊の頭」を掲げて客を呼び寄せながら、実際には安価な「犬の肉」を売っていたことから。
看板倒れや、誇大広告を批判する際によく使われます。
羊の皮を被った狼(ひつじのかわをかぶったおおかみ)
- 親切そうで穏やかな振る舞いをしているが、本性は凶悪で油断ならない人物のこと。
- 由来:
『イソップ童話』や『新約聖書』に由来します。狼が羊の皮をまとって群れに潜入し、油断した羊を襲おうとした物語から、隠された悪意を警告する言葉として世界中で使われています。
看板に偽りあり(かんばんにいつわりあり)
- 外見や主張と、実質が一致していないこと。
- 直接「羊」という文字は入りませんが、「羊頭狗肉」を日本語で平易に表現した慣用句として、セットで覚えておきたい言葉です。
羊質虎皮(ようしつこひ)
- 外見は虎のように強そうだが、中身は羊のように臆病であること。
- 「羊頭狗肉」と似ていますが、こちらは「虚勢を張っている」「見かけ倒し」というニュアンスが強く含まれます。
2. 迷い・選択・人生の教訓を表す言葉
羊の習性や物語を通して、人生の選択や時間の儚さを説く言葉です。
多岐亡羊(たきぼうよう)
- 方針が多すぎて、どれを選べばよいか迷ってしまうこと。また、学問の道が多方面に分かれすぎていて、真理をつかむのが難しいこと。
- 由来:『列子』の故事より。逃げた羊を追いかけたが、道がいくつにも分かれていたため(多岐)、どちらへ行けばいいか分からず、結局見失ってしまった(亡羊)という話から。選択肢が多すぎることの弊害を説いています。
亡羊補牢(ぼうようほろう)
- 失敗した後でも、すぐに改めて対策を講じれば、これ以上の損害を防げるという教え。「転ばぬ先の杖」の対義的な意味合いを持ち、「遅すぎることはない」と励ます言葉。
- 由来:
『戦国策』より。「羊が逃げた後に、囲い(牢)を修理しても遅くはない」という意味。失敗を放置せず、次に活かすことの重要性を説いています。
羊の歩み(ひつじのあゆみ)
- 死期が刻一刻と近づいていることのたとえ。
- 由来:
仏教経典『大般涅槃経』より。屠畜場へ引かれていく羊の歩みのように、人間の命も知らず知らずのうちに終わりに近づいているという無常観を表します。
羝羊触藩(ていようしょくはん)
- 行き詰まって、進退窮まること。
- 由来:『易経』より。「羝羊」はオスの羊、「藩」は垣根のこと。力の強いオス羊が勢いよく垣根に突っ込んだものの、角が引っかかってしまい、進むことも退くこともできなくなった様子を表します。
3. 弱さ・犠牲・集団心理を表す言葉
群れる性質や、捕食される側としての性質に焦点を当てた言葉です。
迷える子羊(まよえるこひつじ)
- どう生きていけばよいか分からず、不安の中にいる人。また、罪深き人。
- 由来:キリスト教の聖書に由来します。神や指導者を「羊飼い」、人間を「羊」に見立て、導きを失って群れからはぐれた羊のような状態を指します。
群羊を駆って猛虎を攻む(ぐんようをかってもうこをせむ)
- 弱い者を大勢集めて、強い者に立ち向かわせること。無謀なことのたとえ。
- いくら羊(弱者)を集めても、虎(強者)には勝てないことから、指導者の作戦ミスや無謀な挑戦を批判する際に使われます。『史記』などに類似の記述が見られます。
屠所の羊(としょのひつじ)
- 死が目前に迫り、元気をなくしてしょげている人のたとえ。
- 屠殺場(屠所)に引かれていく羊が、力なくうなだれている様子から来ています。
生贄の羊(いけにえのひつじ)
- 他人の罪や失敗の身代わりにされてしまう人。スケープゴート。
- 古代ユダヤ教で、人々の罪を負わせて荒野へ放った羊(スケープゴート)の儀式に由来します。
組織の不祥事などで、責任を一人に押し付けられる人を指して使われます。
4. 座右の銘に使える「羊」の四字熟語
ネガティブな言葉が多い羊関連ですが、学びや美しさに関連する言葉もあります。
羚羊掛角(れいようかかく)
- 詩や文章の表現が優れており、跡形(形式的な不自然さ)が全くないこと。
- 由来:
「羚羊(れいよう)」とはカモシカの一種。寝る時に角を木に引っ掛けて宙に浮くため、地面に足跡を残さないという伝説から、芸術やスキルの完成度が極めて高いことの比喩とされます。
告朔餼羊(こくさくきよう)
- 実質が失われても、形式だけは残しておくこと。また、形式だけでも残しておけば、後で復活させる手がかりになるということ。
- 由来:
『論語』より。儀式自体は廃れたが、供え物の羊だけは続けていたことに対し、孔子が「儀式を完全に忘れてしまうよりは、羊だけでも残しておいたほうが礼の精神を思い出す縁(よすが)になる」と肯定した故事から。
十羊九牧(じゅうようきゅうぼく)
- 民(羊)は少ないのに、役人(牧=世話係)ばかり多いこと。また、命令する人ばかり多くて、実行する人が少ないため物事が進まないこと。
- 「船頭多くして船山に登る」に近い言葉です。組織の非効率さを戒める言葉として使われます。
5. 英語における羊の表現
英語圏において羊(Sheep)は非常に身近な家畜であり、聖書の影響もあって多くの慣用句が存在します。
The black sheep of the family
- 「一家の厄介者」「変わり者」
- 白い羊の群れの中で、黒い羊は羊毛が染まりにくく価値が低いとされたことや、目立って悪魔的と見なされたことに由来します。
Separate the sheep from the goats
- 「善人と悪人を選り分ける」「有能な人とそうでない人を区別する」
- 聖書(マタイによる福音書)の一節に由来します。最後の審判において、羊は「祝福されたもの(右)」、山羊(Goat)は「呪われたもの(左)」に分けられたという逸話に基づきます。
Wolf in sheep’s clothing
- 「羊の皮を被った狼」
- 日本語同様、親切なふりをした危険人物を指します。
「羊」に関する豆知識
「美」や「善」には羊がいる
漢字の成り立ちを見ると、羊は古くから「神聖で良いもの」の象徴であったことが分かります。
- 美(うつくしい):
「羊」+「大」。羊が大きく肥えている様子は、神への供物として最高であり「美しい」とされたことから。 - 善(よい):
「羊」+「言(神への誓い)」。裁判の際、神聖な羊を前にして誓いを立てたことから、「よい・ただしい」という意味になりました。 - 義(ただしい):
「羊」+「我」。神聖な羊を掲げて、自らの正しさを主張する姿から。
未(ひつじ)と羊の違い
動物の「羊」と、干支の「未」は、本来全く別の文字です。
干支の「未(び)」は、木の枝が茂って暗くなる状態や、果実がまだ熟しきっていない状態(未熟)を表す漢字でした。これを覚えやすくするために、後から動物の「羊」が割り当てられたのです。
なぜ眠れない時に羊を数える?
「羊が一匹、羊が二匹…」と数えるのは、英語圏の「Sheep(羊)」と「Sleep(眠る)」の発音が似ており、つぶやいているうちに自己暗示がかかるためだと言われています。
日本語で「ひつじ…」と数えても発音上の効果はありませんが、単純作業に没頭することで脳をリラックスさせる効果はあるかもしれません。
過去・未来の「未年(ひつじどし)」年表
ご自身の生まれ年や、歴史上の出来事の確認にお使いください。
| 西暦 | 和暦 | 干支(十干十二支) |
|---|---|---|
| 1943年 | 昭和18年 | 癸未(みずのとひつじ) |
| 1955年 | 昭和30年 | 乙未(きのとひつじ) |
| 1967年 | 昭和42年 | 丁未(ひのとのひつじ) |
| 1979年 | 昭和54年 | 己未(つちのとひつじ) |
| 1991年 | 平成3年 | 辛未(かのとひつじ) |
| 2003年 | 平成15年 | 癸未(みずのとひつじ) |
| 2015年 | 平成27年 | 乙未(きのとひつじ) |
| 2027年 | 令和9年(予定) | 丁未(ひのとのひつじ) |
| 2039年 | 令和21年(予定) | 己未(つちのとひつじ) |
| 2051年 | 令和33年(予定) | 辛未(かのとひつじ) |
| 2063年 | 令和45年(予定) | 癸未(みずのとひつじ) |
| 2075年 | 令和57年(予定) | 乙未(きのとひつじ) |
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