狩猟のパートナー、番犬、そして家族の一員として、太古の昔から人間と苦楽を共にしてきた「犬」。
その「忠誠心」や「鋭い嗅覚」は称賛の対象となりますが、一方で昔は野犬も多かったことから、卑しいものや争いの比喩として使われることも少なくありません。
2030年(令和12年)の干支は「庚戌(かのえいぬ)」。
私たちの生活に最も身近な動物である「犬」に関する表現へ、今一度、目を向けてみましょう。心温まる忠義の言葉から、厳しい戒めの言葉まで、意味と由来をシチュエーション別に紹介します。
- 1. 忠誠・恩義・信頼を表す言葉
- 2. 行動・結果・運勢を表す言葉
- 犬も歩けば棒に当たる(いぬもあるけばぼうにあたる)
- 夫婦喧嘩は犬も食わぬ(ふうふげんかはいぬもくわぬ)
- 尾を振る(おをふる)
- 犬に論語(いぬにろんご)
- 3. 争い・批判・戒めを表す言葉
- 犬猿の仲(けんえんのなか)
- 負け犬の遠吠え(まけいぬのとおぼえ)
- 飼い犬に手を噛まれる(かいいぬにてをかまれる)
- 犬死に(いぬじに)
- 4. 座右の銘に使える「戌」の四字熟語
- 5. 英語における犬の表現
- 「戌」に関する豆知識
- 過去・未来の「戌年(いぬどし)」年表
- 【特集記事】
十二支(干支)のことわざ・慣用句・故事成語・四字熟語
1. 忠誠・恩義・信頼を表す言葉
犬の最大の特性である「飼い主への忠実さ」や、関係性の深さを表す言葉です。
犬は三日飼えば三年恩を忘れない(いぬはみっかかえばさんねんおんをわすれない)
- 意味:
犬はたった三日飼われただけでも、その恩を一生忘れないということ。 - 解説:
動物でさえ恩を感じるのだから、人間はそれ以上に恩義を大切にすべきだという教えを含んでいます。猫が「家」につくのに対し、犬は「人」につく習性をよく表しています。
犬馬の労(けんばのろう)
- 意味:
主君や他人のために、犬や馬のように身体を張って尽くすこと。 - 解説:
自分の働きを謙遜して言う言葉です。「犬馬の労を厭(いと)わず(=どんな苦労も嫌がらずに働きます)」という形で、忠誠を誓う際によく使われます。
2. 行動・結果・運勢を表す言葉
犬の行動パターンや、予期せぬ出来事を表す、非常に有名な言葉です。
犬も歩けば棒に当たる(いぬもあるけばぼうにあたる)
- 意味:
① 出しゃばって行動すると、思わぬ災難に遭うという戒め。(本来の意味)
② 行動を起こせば、思わぬ幸運に出会うことのたとえ。(現代的な肯定的解釈) - 解説:
江戸いろはかるたの「い」として最も有名なことわざです。昔は、うろつく犬が人間に棒で叩かれる様子から「災難」を意味しましたが、現在は「とにかくやってみれば何かが起きる」というポジティブな意味で使われることが多くなりました。
夫婦喧嘩は犬も食わぬ(ふうふげんかはいぬもくわぬ)
- 意味:
夫婦の喧嘩は、一時的なものですぐに仲直りするものだから、他人が仲裁に入るものではないということ。 - 解説:
何でも食べる犬でさえ、夫婦喧嘩のようなつまらないものは見向きもしないという意味から。転じて、原因が些細すぎて誰も相手にしないことのたとえ。
尾を振る(おをふる)
- 意味:
目上の人にこびへつらうこと。愛想を振りまくこと。 - 解説:
犬が飼い主に尻尾を振って喜ぶ様子から、権力者に取り入ろうとする人間の態度を皮肉って使われます。
犬に論語(いぬにろんご)
3. 争い・批判・戒めを表す言葉
野犬同士の争いや、吠える習性を人間にあてはめた、少し辛辣な言葉です。
犬猿の仲(けんえんのなか)
- 意味:
非常に仲が悪く、顔を合わせれば喧嘩ばかりしている関係のたとえ。 - 解説:
干支の順番争いや、猟犬と猿の相性の悪さに由来します。
負け犬の遠吠え(まけいぬのとおぼえ)
- 意味:
臆病な人が、陰でこそこそと威張ったり、他人の悪口を言ったりすること。 - 解説:
強い犬に負けて逃げた犬が、安全な遠く離れた場所から吠え立てる様子から。
飼い犬に手を噛まれる(かいいぬにてをかまれる)
- 意味:
日頃から可愛がり、面倒を見ていた者から、裏切られたり害を加えられたりすること。 - 解説:
恩知らずな仕打ちを受けた時の嘆きの言葉として使われます。
犬死に(いぬじに)
- 意味:
何の意味も価値もない死に方をすること。無駄死に。 - 解説:
昔は犬が大切にされず、野垂れ死ぬことが多かったため、名誉も成果もない死をこのように表現しました。現代の感覚では残酷ですが、言葉として定着しています。
4. 座右の銘に使える「戌」の四字熟語
鶏鳴狗盗(けいめいくとう)
- 意味:
つまらない芸や特技でも、使いようによっては役に立つということ。「鶏鳴」はニワトリの鳴き真似、「狗盗」は犬のようなこそ泥のこと。 - 由来:
『史記』より。中国戦国時代、宰相の孟嘗君(もうしょうくん)が窮地に陥った際、ニワトリの鳴き真似が得意な部下と、こそ泥が得意な部下の活躍によって脱出できたという故事から。
狡兎死して走狗煮らる(こうとししてそうくにらる)
- 意味:
利用価値があるうちは大切にされるが、用がなくなればあっさりと捨てられること。 - 由来:
『史記』より。「すばしっこい兎(狡兎)が捕まえ終わると、猟犬(走狗)は不要になって煮て食べられてしまう」という意味。功績のあった家臣が、平和な時代になると粛清される悲哀を表します。
画虎類狗(がこるいく)
- 意味:
虎を描こうとして、下手くそな犬の絵になってしまうこと。凡人が非凡な人の真似をして失敗することのたとえ。「虎を描いて犬に類す」とも読みます。 - 由来:
『後漢書』より。高い目標を掲げすぎて、かえって軽薄な結果になってしまうことを戒めた言葉です。
蜀犬日に吠ゆ(しょくけんひにほゆ)
- 意味:
見識の狭い人が、当たり前のことに驚いて騒ぎ立てること。 - 由来:
中国の蜀(しょく)の山地は霧深く、めったに太陽が出ないため、たまに太陽が出ると犬が怪しんで吠えたという話から。「井の中の蛙」に近いニュアンスです。
喪家の狗(そうかのいぬ)
- 意味:
葬儀を出している家(喪家)の犬は、家の人が忙しくて餌をもらえないため、やつれて元気がないこと。宿無しの放浪者や、不遇な人のたとえ。 - 由来:
『史記』で、孔子が旅先で疲労困憊している様子を、門人がこう例えたことに由来します(孔子自身はそれを聞いて笑って肯定したと言われます)。
犬牙錯綜(けんがさくそう)
- 意味:
国境線などが、犬の牙のように入り組んでいること。転じて、様々な勢力や要因が複雑に入り混じっている状態。 - 解説:
軍事や政治の情勢分析などで使われる、硬い表現です。
5. 英語における犬の表現
英語圏において Dog は「親友」であると同時に、「惨めなもの」「攻撃的なもの」の象徴としても多くのイディオムに登場します。
Every dog has his day.
- 意味:「どんな犬にも全盛期はある(誰にでもチャンスは巡ってくる)」
- 解説:
今は不遇でも、いつか必ず良い時期が来るという励ましの言葉です。
Let sleeping dogs lie.
- 意味:「寝ている犬は寝かせておけ(寝た子を起こすな)」
- 解説:
そっとしておけば害がないものを、わざわざ刺激して問題を起こすなという教訓です。
It’s a dog eat dog world.
- 意味:「食うか食われるかの世界だ」
- 解説:
自分の利益のために他者を蹴落とすような、仁義なき熾烈な競争社会を指します。
「戌」に関する豆知識
「ポチ」の名前のルーツ
日本の犬の代表的な名前といえば「ポチ」ですが、その語源には明治時代の外国語説が有力です。
- フランス語の「Petit(プチ=小さい)」説:
フランス人が子犬を「プチ、プチ」と呼んでいたのを聞き間違えた。 - 英語の「Spot(スポット=ぶち)」説:
宣教師などがぶち模様の犬を「スポット」と呼んだのが訛った。 - 英語の「Pooch(プーチ=わんちゃん)」説:
俗語が定着した。いずれにせよ、文明開化とともにハイカラな名前として広まったようです。
戌の日の「帯祝い」
妊娠5ヶ月目の最初の「戌の日(いぬのひ)」に、妊婦が腹帯を巻いて安産祈願をする日本の風習(帯祝い)。
これは、犬がお産が軽く、一度にたくさんの子を産む「安産の象徴」であることにあやかっています。
「狛犬(こまいぬ)」は犬じゃない?
神社の入り口にいる「狛犬」。
向かって右が口を開けた「阿(あ)」、左が閉じた「吽(うん)」ですが、実は右側は「獅子(ライオン)」、左側が「狛犬(角がある想像上の犬)」というのが本来の形でした。
時代とともに両方とも犬のような姿になり、角も省略されていきましたが、もともとは異なる聖獣のペアだったのです。
過去・未来の「戌年(いぬどし)」年表
ご自身の生まれ年や、歴史上の出来事の確認にお使いください。
| 西暦 | 和暦 | 干支(十干十二支) |
|---|---|---|
| 1946年 | 昭和21年 | 丙戌(ひのえいぬ) |
| 1958年 | 昭和33年 | 戊戌(つちのえいぬ) |
| 1970年 | 昭和45年 | 庚戌(かのえいぬ) |
| 1982年 | 昭和57年 | 壬戌(みずのえいぬ) |
| 1994年 | 平成6年 | 甲戌(きのえいぬ) |
| 2006年 | 平成18年 | 丙戌(ひのえいぬ) |
| 2018年 | 平成30年 | 戊戌(つちのえいぬ) |
| 2030年 | 令和12年(予定) | 庚戌(かのえいぬ) |
| 2042年 | 令和24年(予定) | 壬戌(みずのえいぬ) |
| 2054年 | 令和36年(予定) | 甲戌(きのえいぬ) |
| 2066年 | 令和48年(予定) | 丙戌(ひのえいぬ) |
| 2078年 | 令和60年(予定) | 戊戌(つちのえいぬ) |
【特集記事】
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