「目から鱗が落ちる」経験をしたり、「耳が痛い」話をされたり。
私たちの日常会話には、体の部位を使った表現が驚くほどたくさん溢れています。
顔・頭部に関する言葉
思考の中枢である「頭」や、感情が表れる「顔」のパーツには、名誉、判断力、コミュニケーションにまつわる言葉が集中しています。
頭・顔
知性や思考、そしてその人の「面目(プライド)」を象徴する部位です。
- 頭が上がらない:
相手から受けた恩義や実力差の大きさに強く引け目を感じ、対等な立場でふるまえない心境。 - 顔から火が出る:
人前でひどい失敗をしでかし、恥ずかしさのあまり顔全体に血がのぼって燃えるように熱くなる感覚をおおげさに表したたとえ。 - 顔に泥を塗る:
世話になった相手や身内の面目を失わせ、恥をかかせること。 - 頭が痛い:
解決の難しい問題などで、心配したり悩んだりすること。
目・見る
「目は口ほどに物を言う」の通り、心の動きや判断力を表す言葉の宝庫です。
- 目から鱗が落ちる:
何かをきっかけに、それまで見えなかった物事の本質が急にはっきり理解できるようになる状態。
新約聖書「使徒行伝」で、サウロ(のちのパウロ)の目からうろこのようなものが落ち、再び見えるようになった話に由来する。 - 目が点になる:
予想外の出来事にひどく驚き、あっけにとられる様子。
漫画で、驚いた表情を点のような目で描くことから生まれた言い方。 - 目がない:
物事の良し悪しを見分ける力がないことを表す一方、「甘い物に目がない」のように理性を忘れるほど夢中で好んでいる状態も指す言葉。 - 目から鼻へ抜ける:
頭の働きが非常によく、物事の判断がすばやいこと。
抜け目なくすばしこい様子にもいう。
鼻・嗅ぐ
自尊心(プライド)や、直感的な予感を表す際によく使われます。
- 鼻が高い:
誇らしい気持ちが表情に表れ、得意げになる様子。 - 鼻につく:
同じ物事に飽きて嫌気が差すことを表す一方、人の言動が鼻先にまとわりついてくるようにうっとうしく感じられることも表す言葉。 - 鼻であしらう:
相手の話をまともに聞かず、鼻先で「ふん」と受け流すような冷淡な態度をとること。
「鼻先であしらう」とも言う。
口・舌・話す
災いの元となることもあれば、生活を支える手段ともなるコミュニケーションの要です。
- 口が軽い:
秘密や人から聞いた話をすぐ誰かにしゃべってしまい、口を閉じておく我慢がきかない性分。
うっかり者として信用されにくい人を評する言葉。 - 口車に乗る:
相手が言葉巧みに仕組んだ話にまんまと乗せられ、うっかりだまされてしまうこと。
おだてに乗る意にも使う。 - 舌を巻く:
相手のあまりの技量や才能に圧倒され、感嘆のあまり言葉を失う様子。
歯・喉
言葉の発信源であると同時に、欲望や攻撃性を表すこともあります。
- 歯に衣着せぬ:
相手に遠慮せず、思ったことをズバズバと率直に述べること。
歯を衣で覆い隠さず、飾らずに言葉を発するイメージから生まれた言い回し。 - 歯が立たない:
相手の実力があまりに強く、自分の力ではとても太刀打ちできないこと。
硬すぎて噛み砕けない食べ物を前にした様子にたとえた表現。 - 喉から手が出る:
欲しくてたまらず、我慢できないほど強く求める気持ちのたとえ。
喉の奥からもう一本の手が実際に伸び出てくるような、大げさな比喩表現。
耳・聴く
情報の入り口であり、世間の評判や予期せぬ知らせに関連する言葉が多くあります。
- 耳を疑う:
思いがけない話を聞き、自分の聞き間違いではないかと信じられなくなること。
あまりの意外さに耳の働きさえ疑ってしまう感覚を表す。 - 寝耳に水:
不意の出来事に驚き、うろたえること。
眠っている間に川が氾濫した水音を突然耳にして仰天する様子が由来という説がある言い回し。 - 耳が痛い:
自分の弱点や欠点を的確に指摘され、聞くのがつらいこと。
図星を突かれた鋭い言葉が実際に耳へ刺さるかのように感じられる表現。
首
命そのものや、地位(解雇など)、借金などの切羽詰まった状況を表します。
- 首を長くする:
期待に胸を膨らませ、今か今かと待ち焦がれる様子。
「首を伸ばす」とも言う。 - 首が回らない:
借金などが多くてやりくりがつかず、身動きが取れない状態。 - 首を洗って待つ:
制裁や報復を受ける覚悟を決めて待ち構えること。
首を切られる準備をするところから出た言葉で、「首を洗って待っていろ」のように脅し文句にも使われる。
上半身・手足に関する言葉
労働や行動力を象徴する手足、責任や感情を受け止める肩や背中などの言葉です。
肩
責任、負担、あるいは味方をすることを表します。
- 肩を持つ:
対立する二者のうち、一方の側に立って味方をすること。
「肩を入れる」ともいう。 - 肩身が狭い:
周囲に対して面目が立たず、居心地の悪さを感じること。
肩や身の置き場までもが縮こまってしまうような、萎縮した心境をよく表した言葉。 - 肩の荷が下りる:
抱えていた責任や負担が消え、ほっと安心すること。
重い荷物を背負っていた肩から、それがそっと下ろされる感覚にたとえた表現。
手・握る
「手」は能力、技術、関係性の象徴として、数多くの慣用句に使われます。
- 手を焼く:
相手の言動をどう扱ってよいか分からず、対応に苦労すること。 - 手に汗握る:
緊張や興奮で思わず手のひらに汗がにじむほど、はらはらする感覚。
スポーツ観戦や勝負事など結果が気になる場面でよく使われる表現。 - 手が後ろに回る:
罪を犯して捕らえられること。
後ろ手に縛られるところから出た言葉。
指・爪
細やかな動作や、隠された才能、倹約などを表します。
- 能ある鷹は爪を隠す:
本当に実力のある人ほど、それをむやみに見せびらかさないという教え。
「能ある猫は爪を隠す」ともいう。 - 爪に火をともす:
ろうそくを買うお金すら惜しんで爪に火をつけるほど、極端に苦しい倹約生活を送ること。
ひどくけちなことのたとえにも使う。 - 後ろ指を指される:
本人の知らないところで陰口をたたかれ、非難されること。
背中・腰・尻
姿勢や態度は、その人の精神状態や対人関係の力関係を表します。
- 背に腹は代えられない:
差し迫った問題を解決するためなら、他の何かを犠牲にしてもやむを得ないという考え方。
同じ体の一部でも、背と腹を取り替えることはできないという意から。 - 腰が低い:
地位や実力に関わらず、人に対してへりくだった謙虚な態度をとること。 - 尻に敷かれる:
夫婦関係で妻がすっかり主導権を握り、夫がその言いなりになっていること。
相手を自分の下に敷いてしまうような力関係を表した言葉。
足・脚・歩く
生活の基盤、移動、過去との決別などを象徴します。
- 足を洗う:
悪い仲間や好ましくない仕事との関係をきっぱりと断ち切ること。
泥だらけの足を洗い清めて悪事から離れるイメージにたとえた表現。 - 揚げ足を取る:
人のちょっとした言い間違いや言葉じりをとらえ、責めたりからかったりすること。
技を掛けようとした相手の足を取って倒すところから出た言葉。 - 足が出る:
予算や収入を超えて赤字になることを表す一方、隠していたことがぼろとなって表に出てしまうことも指す。
内臓・骨・全身に関する言葉
体の内側や全体を使った表現は、より深い感情や本質、生命力を表します。
心・心臓
感情の中心地であり、度胸の良し悪しも表します。
- 心に刻む:
大切なことを深く記憶し、決して忘れないでおくこと。
木や石に文字をしっかりと彫りつけるように、記憶へ残すたとえの言い回し。 - 心臓に毛が生えている:
厚かましく、多少のことでは動じない図太さを表す言葉。
「肝に毛が生えている」とも言う。 - 心を入れ替える:
これまでの悪い考え方や行いを反省し、心を改めて生まれ変わったように振る舞うこと。
中身をすっかり新しく交換するようなイメージのたとえ。
腹・胸
「腹」は本心や度量、「胸」は感情の高まりや安堵を表します。
- 腹を割る:
隠し事や駆け引きをせず、本心を打ち明けて話すこと。
腹の底を打ち割って、心の中をさらけ出すという意。 - 腹黒い:
表面は穏やかでにこやかでも、内心では悪だくみを抱えている様子。
感情や考えを指す「腹」が黒くよこしまであることから生まれた表現。 - 胸を撫で下ろす:
心配していたことが解決し、安堵のため息をつくこと。
ドキドキと高鳴っていた胸を手でそっと落ち着かせるしぐさから生まれた言葉。
肝・胆・腸
「肝」や「胆」は精神力や勇気の源とされてきました。
- 肝に銘じる:
大切な教えや忠告を心に強く刻みつけ、決して忘れないでおくこと。
「銘」はもともと石や金属に文字を刻みつける意味を持つ言葉。 - 肝が据わる:
落ち着いていて、めったなことでは動じない度胸があること。 - 断腸の思い:
はらわたがちぎれるほど、耐えがたく悲しくつらい思い。
中国の『世説新語』に見える、子を捕らえられた母猿が岸伝いに船を追い、船に飛び移って息絶えたので腹を裂くと、腸がずたずたに断ち切れていたという話から。
骨・血
努力、苦労、または人間としての根本的な感情を表します。
- 骨が折れる:
大変な労力や苦労を要すること。 - 血が騒ぐ:
興奮や高揚感で気持ちが高ぶり、じっとしていられなくなること。
体の奥で血液が沸き立つように駆けめぐる感覚を表した言葉。 - 血も涙もない:
人としての思いやりや情けが全く感じられないこと。
血の通った温かさも涙を流すような感情も持たない、冷酷さを強調した言い回し。
へそ・身・毛
体の表面や細部を使った、ユニークで感覚的な表現です。
- へそを曲げる:
機嫌を損ねて意固地になること。 - 身を粉にする:
苦労をいとわず、自分の体を粉々に砕いてしまうほど懸命に働くこと。
骨身を惜しまず尽くす努力を強調した、昔からのたとえ言葉。 - 身の毛もよだつ:
恐ろしさのあまり、全身の毛が逆立つように感じること。
体温がすっと下がり鳥肌が立つような、強烈な恐怖の感覚を表した言い回し。
その他(体・身体)
体全体の状態や、健康にまつわる言葉です。


























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