「心(こころ)」は、古くから人間の感情、思考、意志、精神のありかとして、日本語の表現において中心的な役割を担ってきました。喜び、悲しみ、決意、優しさ、不安など、あらゆる内面的な働きが「心」に関連づけて語られます。
また、「心臓(しんぞう)」は、物理的な臓器であると同時に、「心臓が止まる」のように、極度の驚きや恐怖を表す際にも用いられます。
「心が折れる」「心を鬼にする」「一心不乱」など、現代でも日常的に使われる表現が豊富で、心にまつわる言葉は人間の内面世界を巧みに表現しています。
ここでは、「心」や「心臓」に関連する、主なことわざ・慣用句・四字熟語・故事成語を紹介します。
「心・心臓」に関することわざ
- 目は心の鏡(めはこころのかがみ):
心が澄んでいればひとみも澄んで見えるという、中国の書物『孟子』に由来する言い伝え。目の様子からその人の心中を推し量る、昔ながらのたとえ方。 - 心頭滅却すれば火もまた涼し(しんとうめっきゃくすればひもまたすずし):
雑念を捨てて無心になれば、火の熱さすら感じないというたとえ。戦国時代、僧の快川紹喜が寺を焼かれた際に唱えた言葉として広く知られる。 - 心ここに在らざれば(こころここにあらざれば):
心が上の空だと、目や耳で捉えていても実感として残らないという教え。中国の古典『大学』にある「視れども見えず」という一節に基づく言葉。 - 初心忘るべからず(しょしんわするべからず):
能楽を大成した世阿弥が芸道書『花鏡』に記した言葉。年月を重ねても、物事を始めた頃の謙虚で真剣な気持ちを失ってはならないという戒め。
「心・心臓」に関する慣用句
感情の動き
- 心が痛む(こころがいたむ):
他人の不幸や自分の過ちに、良心がとがめて気の毒に思う気持ち。精神的なつらさを、あたかも体の痛みのように感じ取る日本語らしい言い回し。 - 心を痛める(こころをいためる):
案じる対象に深く思い悩み、気をもむ様子。「心が痛む」が受け身の感情なのに対し、こちらは自ら進んで心配を背負い込む能動的な姿勢を表す。 - 心が躍る(こころがおどる):
楽しみなことを控え、胸の中で気持ちが弾みだす感覚。心をひとつの生き物に見立て、喜びのあまり小さく跳びはねる様子にたとえた表現。 - 心が弾む(こころがはずむ):
うれしい出来事を前に、自然と気分が浮き立つ様子。「心が躍る」とほぼ同義だが、ボールが弾むような軽やかな躍動感を伴う言い回し。 - 心が折れる(こころがおれる):
度重なる困難やショックで、立ち向かう気力を失う様子。女子プロレスの名勝負を機に広まった、比較的新しい言い回しとされる。 - 心が動く(こころがうごく):
今まで意識していなかった対象に、ふと関心や欲求が芽生える瞬間。強い決意ではなく、心が静かに傾き始める段階を表す控えめな言い方。 - 心惹かれる(こころひかれる):
何かの魅力に自然と引き寄せられる感覚。「心が動く」よりも一歩踏み込み、対象への好意や興味がはっきり芽生えた状態を示す。 - 心変わり(こころがわり):
以前の気持ちや決意が別のものへ移り変わる様子。特に恋愛関係で、愛情の対象が他へ移ってしまう場合を指すことが多い言い方。 - 心に火がつく(こころにひがつく):
きっかけを得て、それまで眠っていた情熱や意欲が一気に燃え上がる瞬間。心を燃料に見立て、闘志の高まりを燃え盛る炎の勢いにたとえた表現。
性格・態度
- 心が広い(こころがひろい):
多少のことでは動じず、他人の欠点や失敗も受け止められる度量の大きさ。心を空間の広さにたとえ、包容力の豊かさを表す言い方。 - 心が狭い(こころがせまい):
些細なことにこだわり、他人の言動を許容できない度量の小ささ。前項「心が広い」と対をなし、心の余裕のなさを空間の狭さで表す。
心理状態
- 心苦しい(こころぐるしい):
相手に迷惑や負担をかけてしまい、申し訳なく感じる胸の痛み。恐縮しつつも、素直に謝りきれないもどかしさを含む微妙な心理を表す。 - 心強い(こころづよい):
頼れる人や存在があり、不安が和らいで安心できる状態。次項「心細い」の対義語で、心が支えを得て力を増したイメージの言い方。 - 心細い(こころぼそい):
頼れるものがなく、ひとりで先行きに不安を感じる様子。心が細い糸のように頼りなく、今にも切れそうな心もとなさを伝える表現。 - 心残り(こころのこり):
やり切れなかった思いが胸の内にとどまり、なかなか諦めきれない気持ち。終わったはずの物事に、未練が澱のように残る心理を表す。 - 心当たり(こころあたり):
尋ねられた物事について、思い当たる節や見当がある状態。記憶の中を心で探ってみて、該当しそうなものにふと行き当たる感覚を指す。
人間関係・信頼
- 心が通う(こころがかよう):
言葉を尽くさなくても、お互いの気持ちや考えが自然と伝わり合う関係。心を行き来する何かに見立て、通じ合う様子を表す表現。 - 心を許す(こころをゆるす):
相手を深く信頼し、警戒心や遠慮を解いて打ち解ける様子。心を閉ざしていた戸を開け放つような、無防備な信頼関係を表す言い方。 - 心を開く(こころをひらく):
それまで隠していた本心や悩みを、相手に率直に打ち明ける行為。心を扉に見立てた表現で、次項「心を閉ざす」とは対照的な姿勢を示す。 - 心を閉ざす(こころをとざす):
本心を一切明かさず、他者との関わりを拒む頑なな態度。心を扉に見立てた表現で、傷つくことを恐れて自らを守る心理が背景にある。
決意・態度変化
- 心を入れ替える(こころをいれかえる):
これまでの怠惰な考えや態度をきっぱり改め、別人のように真面目に生まれ変わる様子。心を丸ごと取り換えるような、大きな決意の転換。 - 心を鬼にする(こころをおににする):
本心では相手を思いやりながらも、あえて厳しく非情に振る舞う覚悟。優しい心をひとまず鬼に置き換えるという、逆説的な発想の言い方。
配慮・関心・没頭
- 心を砕く(こころをくだく):
物事がうまく運ぶよう、あれこれ思案して非常に気を使う様子。心をわざと砕いて細部にまで行き渡らせる、苦心の跡がにじむ言い方。 - 心を配る(こころをくばる):
見落としがちな細部にまで注意を払い、行き届いた配慮をする様子。「心を砕く」ほどの苦労は伴わず、穏やかな気遣いを指す言葉。 - 心を奪われる(こころをうばわれる):
目の前の魅力的な物事に意識が持っていかれ、我を忘れて夢中になる様子。心が自分の意志を離れ、対象にさらわれるイメージの表現。 - 心を込める(こころをこめる):
形だけでなく、真心や思いやりを注ぎながら物事を行う姿勢。心という目に見えないものを、贈り物や作業の中に込めるという発想。 - 心に刻む(こころにきざむ):
大切な教訓や出来事を、決して忘れないよう深く記憶にとどめる様子。心を石や木のような素材に見立て、彫り込むイメージの言い方。 - 心に響く(こころにひびく):
言葉や光景が心の奥に届き、じんわりと深く感動する様子。音が空間に響き渡るように、感動が胸の内に長く余韻を残すことを表す。 - 心にもない(こころにもない):
口にした言葉が本心とかけ離れている状態。お世辞やその場しのぎの発言など、心の中には全く存在しない気持ちを装う言い方を指す。 - 心ゆくまで(こころゆくまで):
気が済むまで、時間や量を気にせず十分に何かを楽しむ様子。心が満ち足りて自ずと行き着く場所まで、という語感を持つ言い方。
心臓に関する表現
- 心臓が止まる(しんぞうがとまる):
強い衝撃で息が止まりそうになるほど非常に驚く様子。「心臓が止まる思い」の形で使われることが多く、恐怖や驚愕の強さを誇張して表す。 - 心臓が口から飛び出す(しんぞうがくちからとびだす):
驚きや緊張で心拍が激しく高鳴り、体の奥からせり上がってくるような感覚。実際の生理反応を大げさに表現した、臨場感のある言い方。 - 心臓に毛が生えている(しんぞうにけがはえている):
多少のことでは動じない図太さや厚かましさ。丈夫さを毛の生えた皮膚にたとえた言い方で、同義の「肝に毛が生える」が元とよく説明されるが、入れ替わった時期を示す資料は確認できない。
「心・心臓」に関する四字熟語
- 一心不乱(いっしんふらん):
心を一つの対象に集中させ、雑念に一切気を取られないさま。仏教経典『阿弥陀経』に由来する言葉で、もとは修行における精神統一を指した。 - 以心伝心(いしんでんしん):
言葉を用いなくても、互いの心と心が自然に通じ合う様子。禅の教えでは、悟りの本質は言葉ではなく心から心へと伝わるとされる。 - 疑心暗鬼(ぎしんあんき):
疑う心が生まれると、何でもないことまで怪しく恐ろしく見えてくる心理。中国の書物『列子』にある、なくした斧を隣人が盗んだと疑った話に由来する。 - 誠心誠意(せいしんせいい):
偽りや飾りを一切交えず、まごころを尽くして物事に当たる姿勢。「誠」の字を重ねることで、真剣さと嘘偽りのなさを強調した言い回し。 - 虚心坦懐(きょしんたんかい):
心に先入観やわだかまりを持たず、素直でさっぱりとした態度。老子の思想に通じる「虚心」と、平らかな心を意味する「坦懐」からなる言葉。 - 明鏡止水(めいきょうしすい):
曇りのない鏡と静かな水面のように、心が澄みきって落ち着いているさま。中国の思想書『荘子』に由来し、静止した水のような心を理想とした。 - 安心立命(あんしんりつめい):
自らの天命を悟り、心安らかで何事にも動じない境地。仏教語の「安心」と儒教語の「立命」が組み合わさって生まれたとされる言葉。 - 小心翼々(しょうしんよくよく):
気が小さく、些細なことにもびくびくして慎重すぎる様子。中国最古の詩集『詩経』では本来、慎み深く注意を払う美徳として使われていた。
「心・心臓」に関する故事成語
- 惻隠の心(そくいんのこころ):
(『孟子』より)他人を気の毒に思い、あわれむ心。人間が生まれながらに持つとされる徳の一つ。 - 杞憂(きゆう):
(『列子』より)全く必要のないことをあれこれ心配すること。(昔、杞の国の人が天が崩れ落ちてこないかと心配した故事から)
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