乾坤一擲

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四字熟語 故事成語
乾坤一擲
(けんこんいってき)

8文字の言葉け・げ」から始まる言葉
乾坤一擲 【個別】ことわざ・慣用句・四字熟語

これまでの努力、準備、そして人生そのものを天秤にかけるような大一番。
失敗すれば後はないが、成功すれば全てを手にする。
そんな、息をするのも忘れるほど張り詰めた局面で、覚悟を決めて運命の勝負に出る。

まさに「乾坤一擲」(けんこんいってき)という瞬間です。

意味

「乾坤一擲」とは、運命を賭けて、のるかそるかの大勝負をすることです。

自身の進退や組織の命運など、極めて重大なものを賭けて、結果を天に任せて思い切って行動することを指します。
単なるギャンブルではなく、退路を断って挑む「決死の覚悟」というニュアンスが強い言葉です。

  • 乾坤(けんこん):
    天と地。陰と陽。転じて「天下」や「運命」を意味します。
  • 一擲(いってき):
    サイコロを一度だけ投げること。「擲」は投げるという意味です。

語源・由来

「乾坤一擲」は、中国・唐の時代の文人、韓愈(かんゆ)が詠んだ漢詩『鴻溝(こうこう)を過(す)ぐ』に由来します。

この詩は、古代中国で天下を二分して争った「項羽(こうう)」と「劉邦(りゅうほう)」の戦い(楚漢戦争)を描いたものです。
長い戦いで双方が疲れ果て、一度は「鴻溝」という運河を境に天下を二分する和睦を結びました。

しかし、韓愈はこの場面を振り返り、「和睦して引き下がるべきではない。今こそ好機だ」と、次のように詠じました。

龍(劉邦)も疲れ、虎(項羽)も困窮しているが、
ここで数万の命を呼び戻してどうするのか(今攻めなければ、彼らは無駄死にするだけだ)。
今こそ、乾坤一擲(天下を賭けた一回のサイコロ投げ)のごとき大勝負に出るべきではないか。

結果として、劉邦はこの進言(実際は家臣の進言)を受け入れて和睦を破棄し、項羽を追撃して天下統一を果たしました。
この故事から、天下や運命を賭けた大博打を「乾坤一擲」と言うようになりました。

使い方・例文

「乾坤一擲」は、スポーツの決勝戦、社運を賭けたプロジェクト、人生の岐路など、失敗が許されない「ここ一番」の勝負所で使われます。

例文

  • 長年の片思いに決着をつけるべく、「乾坤一擲」の覚悟で彼女に告白した。
  • 倒産寸前の会社を救うため、社長は「乾坤一擲」の新事業に全資産を投じた。
  • 9回裏ツーアウト満塁、「乾坤一擲」のフルスイングが空を切り、夏が終わった。
  • もはや安全策をとっている余裕はない。「乾坤一擲」の策に打って出るしかない。

誤用・注意点

この言葉は非常に重い意味を持つため、日常の些細な選択(例:今日のランチ選び)で使うと大袈裟になり、滑稽に聞こえることがあります。

また、漢字の書き間違いや混同が多いため注意が必要です。

  • 書き間違い
    「乾坤一」と書くのは誤りです。
    ゲームの技名などで見かけることがありますが、四字熟語としては「一擲(いってき)」が正解です。
  • 読み間違い
    「けんこんいっぱつ」と読むのは誤りです。
    「危機一髪(ききいっぱつ)」と混同しないよう注意しましょう。

類義語・関連語

「乾坤一擲」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。

  • 一世一代(いっせいちだい):
    役者が引退する際に演じる最後の晴れ舞台のこと。
    転じて、一生に二度とないような重大なことを指します。
    「乾坤一擲」が「勝負」に焦点を当てるのに対し、こちらは「機会の希少性」に焦点を当てます。
  • 伸るか反るか(のるかそるか):
    成功するか失敗するか、天に任せて思い切ってやってみること。
    矢を作る竹が真っ直ぐ伸びるか、反ってしまうかは運次第であることに由来します。
  • 天王山(てんのうざん):
    勝敗や運命の分かれ目となる、最も重要な局面のこと。
    「ここが天王山だ」のように場所や局面を指して使います。
  • 背水の陣(はいすいのじん):
    川を背にして陣を敷き、退けば溺れるという絶体絶命の状況で、必死に戦うこと。退路を断つという点で「乾坤一擲」と共通します。
  • 賽は投げられた(さいはなげられた):
    「事態は動き出し、もう後戻りはできない」という意味。
    ローマの英雄カエサルの言葉として有名で、「一擲」と同じくサイコロの比喩です。

対義語

「乾坤一擲」とは対照的に、危険を冒さず慎重に行動する言葉です。

  • 石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる):
    堅固な石橋でさえ、叩いて安全を確かめてから渡るということ。用心の上にも用心を重ねる慎重さを表す、最も代表的な対義語です。
  • 堅実(けんじつ):
    手堅く、危なげがないこと。リスクのある大勝負を避け、確実な道を選ぶ態度を指します。

英語表現

「乾坤一擲」を英語で表現する場合、リスクの高さや決断の重さを表すフレーズが使われます。

all or nothing

  • 意味:「いちかばちか」「妥協なし」
  • 解説:すべてを得るか、何もかも失うか。中間がない極端な勝負を表す、非常に一般的な表現です。
  • 例文:
    It was an all-or-nothing decision.
    (それはまさに、乾坤一擲の決断だった。)

cast the die / The die is cast

  • 意味:「賽を投げる」/「賽は投げられた」
  • 解説:由来である「一擲」と同じく、サイコロを投げて運を天に任せることを指します。
  • 例文:
    He decided to cast the die.
    (彼は乾坤一擲の勝負に出ることにした。)

乾坤一擲のエピソード

「乾坤」は「天と地」という宇宙規模の広がりを表す言葉です。
一方で「一擲」は、手の中でサイコロを投げるという、ごく小さな動作です。

この四字熟語の面白さは、「手のひらの中の小さな一振り(一擲)が、天と地(乾坤)ほどの運命の差を生む」という、ダイナミックな対比構造にあります。

ほんの一瞬の決断が、その後の人生や歴史を完全に変えてしまう。そんな勝負事の「怖さ」と「ロマン」が、この四文字に凝縮されているのです。

まとめ

人生には、石橋を叩いて渡るべき時もあれば、橋が落ちるのを覚悟で飛び越えなければならない時もあります。

「乾坤一擲」は、そんな逃げ場のない局面で、恐怖をねじ伏せて一歩を踏み出す勇気の言葉です。結果がどうであれ、全身全霊を賭けたその一瞬の熱量は、あなたの人生において何にも代えがたい財産になることでしょう。

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