意味
「義侠心(ぎきょうしん)」とは、損得を顧みず、弱い立場の人のためなら強い相手にも立ち向かおうとする心を指します。
単なる親切心とは違い、不当な力に逆らってでも筋を通そうとする覚悟を含む言葉です。
- 義(ぎ):人として守るべき正しい道。
- 侠(きょう):弱い者を助け、強い者に立ち向かう性質や気風。
語源・由来
「義侠心」の「侠」は、古代中国の歴史書『史記』が「遊侠」と呼んだ人々に通じます。
『史記』は、遊侠の行いは国の定める正義にはかなわないものの、言ったことは必ず守り、引き受けたことはやり遂げ、身を惜しまず人の苦境に駆けつけたと記しています。
日本でも、江戸の町火消しのように、弱い者のために体を張る「男気」の生き方がたたえられてきました。
使い方・例文
自分の立場が悪くなることを恐れず、誰かのために行動する場面で用いられます。
「義侠心に富む」「義侠心から〜する」の形で、人柄や行動の動機をほめるときに使います。
例文
- 全員が黙り込む中、いじめを止めに立ち上がった彼の義侠心に胸を打たれた。
- 出世に響くのも構わず、役員の理不尽な叱責から部下をかばうとは、課長の義侠心には頭が下がる。
- 見知らぬお年寄りが詐欺に遭いそうなのを見て、義侠心から間に割って入った。
誤用・注意点
「義侠心」は正義にかなう行いをほめる言葉なので、仲間内だけの結束や身内びいきを指して使うのはなじみません。
また、似た言葉に「任侠」がありますが、「任侠」は「任侠映画」「任侠団体」のように博徒や暴力団の世界と結びつけて使われることが多いため、人柄をほめるときは「義侠心」のほうが誤解を招きません。
類義語・関連語
この言葉と同様に、弱い者のために損得を捨てて動く心を表す言葉には、以下のようなものがあります。
- 男気(おとこぎ):
弱い者の味方になり、損得を抜きにして尽くそうとする気質。 - 侠気(きょうき):
正義を守り、弱きを助けるために困難に立ち向かう強い意志。 - 惻隠の心(そくいんのこころ):
他人の不幸を見過ごせない、哀れみ慈しむ心。強い相手に立ち向かう意味までは含まない。 - 騎士道精神(きしどうせいしん):
弱者への慈愛と名誉を重んじる、高潔な精神。
対義語
反対に、我が身かわいさから人を助けようとしない態度を表す言葉は以下の通りです。
- 卑怯(ひきょう):
正々堂々としておらず、勇気がないこと。 - 利己主義(りこしゅぎ):
自分の利益だけを考え、他人のことは顧みない態度。 - 事なかれ主義(ことなかれしゅぎ):
波風を立てるのを避け、問題があっても見て見ぬふりをしてやり過ごすこと。
英語表現
英語では、中世の騎士が重んじた精神を表す言葉が近い意味で使われます。
Chivalry
「騎士道精神」「(弱者に対する)侠気」
中世の騎士が重んじた、弱い者を守る精神を指す語。
現代の英語では、男性が女性に示す礼儀正しさを指すことも多い。
I admire his spirit of chivalry.
(彼の持つ義侠心には感服する。)
遊侠の郭解、手下の殺人で一族処刑
「義侠心」の「侠」に通じる遊侠のうち、『史記』の遊侠列伝が最も多くの字数を割いているのが、前漢・武帝の時代の郭解です。
郭解は小柄で酒を飲まず、若い頃は多くの人を手にかけましたが、年を重ねてからは恩を施しても手柄を誇らず、人々の争いを仲裁して慕われるようになりました。
ある時、郭解を、法を犯してばかりいる者のどこが賢いのかと批判した儒学者が、郭解の取り巻きに殺されました。
郭解は犯人を知らず、役人も無罪と報告しました。
しかし御史大夫(= 大臣を補佐して国政にあずかる高官)の公孫弘は、庶民の身で任侠として権勢をふるい、わずかな恨みで人を死なせているのだから、本人が知らなくても自ら殺すより罪は重いと論じ、郭解は一族ごと処刑されました。
司馬遷は列伝の結びで、実際に目にした郭解の風貌は人並みにも及ばなかったと書く一方、世の人は賢い者も愚かな者もその名声を慕ったと記しています。










コメント