自分を頼ってきた人を放っておけず、たとえ大きな権力や暴力に晒されても、損得なしに筋を通そうとする。
そんな弱きを助け、強きを挫(くじ)く侠気(きょうき)に満ちた振る舞いや、その気概を持つ人を、「男伊達」(おとこだて)と言います。
意味・教訓
「男伊達」とは、弱者を救い、強者の横暴に立ち向かう侠気ある気性を指します。
また、そのような心意気を持って行動する男性そのものを指す言葉でもあります。
単なる威勢の良さだけでなく、正義感に基づき、自分の損を顧みない献身的な美学が含まれているのが特徴です。
語源・由来
「男伊達」の由来は、江戸時代初期に実在した「町奴(まちやっこ)」という集団の生き様にあります。
当時、武士(旗本奴)たちが権力を背景に町民を苦しめていたことに対し、町人側から「弱い者いじめは許さない」と立ち上がったのが町奴でした。
「伊達(だて)」という言葉には、人目を引く派手な装いや、意地を張って見栄を切るという意味があります。
彼らは派手な格好で街を練り歩き、命を懸けて町人を守ることで、武士の横暴に抗いました。
この「粋(いき)」で勇敢な反骨精神が、いつしか「男伊達」という言葉として定着し、江戸っ子の理想像の一つとなりました。
使い方・例文
自分の不利益を承知で正義を貫く場面や、勇気を持って他人の味方をする状況で使われます。
現代では物理的な争いに限らず、精神的な潔さや面倒見の良さを称える言葉として用いられます。
例文
- 誰もが反対する中で一人、不当に責められている後輩を庇ったのは、彼なりの男伊達だろう。
- 近所のトラブルを損得抜きで仲裁して回る、男伊達な性格で慕われている。
- 大手企業を相手に、下請け企業の権利を守るべく交渉に臨む姿は、まさに男伊達だ。
- 自分の手柄を部下に譲り、責任だけを引き受ける。そんな部長の振る舞いに、男伊達を感じた。
文学作品・メディアでの使用例
『極付幡随長兵衛』(河竹黙阿弥)
江戸時代の町奴の代表格、幡随院長兵衛(ばんずいいんちょうべえ)を主人公とした歌舞伎の演目です。
長兵衛が、自分を殺そうと待ち構える旗本・水野十郎左衛門の屋敷へ、覚悟を決めて一人で乗り込む場面は「男伊達」の象徴的なシーンとして知られています。
「渡り合うては、これぞ男伊達の死に際よ。」
誤用・注意点:「男伊達」と「伊達男」の違い
「男伊達」と「伊達男(だておとこ)」は混同されやすいですが、意味の重点が異なります。
- 「男伊達」は、内面的な気概や行動(侠気)を指します。
- 「伊達男」は、外見の華やかさやおしゃれな様子を指します。
性格や行動を褒めたい時に「伊達男」と言うと、単に「おしゃれな人」という意味で伝わってしまうため、文脈に応じた使い分けが必要です。
また、この言葉は「粋」や「侠客(きょうかく)」といった文化背景を持つため、非常に改まったビジネスの場よりは、人物の魅力を称える会話などで使われることが多い表現です。
類義語・関連語
「男伊達」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 侠気(きょうき):
弱きを助け、強きを挫く、勇気ある強い意志。 - 男気(おとこぎ):
弱い者の味方になり、損得を抜きにして尽くそうとする気質。 - いなせ:
威勢がよく、さっぱりとしていて、粋(いき)な様子。 - 義侠心(ぎきょうしん):
正義を守り、困っている人を助けようとする心。
対義語
「男伊達」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 卑怯(ひきょう):
正々堂々としておらず、勇気がないこと。 - 小心(しょうしん):
気が小さく、物事に怯えやすいこと。 - 腰抜け(こしぬけ):
いざという時に勇気が出ず、逃げ腰になること。
英語表現
「男伊達」を英語で表現する場合、騎士道精神や勇気ある行動を指す言葉が適しています。
Chivalry
「騎士道」「(弱者に対する)侠気」
中世の騎士が重んじた、弱者保護や名誉を尊ぶ精神です。現代でも献身的な振る舞いに対して使われます。
- 例文:
It was a true act of chivalry.
(それは真の男伊達と言うべき行動だった。)
Gallantry
「勇猛」「(女性や弱者への)親切心」
特に勇敢さと礼儀正しさを兼ね備えた、高潔な振る舞いを意味します。
- 例文:
The young man was praised for his gallantry.
(その若者は男伊達な振る舞いで称えられた。)
男伊達にまつわるエピソード
「男伊達」の象徴であった町奴たちは、その身なりにも強烈な反骨精神を込めていました。
彼らはあえて、当時の武士が好まなかった派手な色使いの襦袢(じゅばん)や、巨大な刀を身につけました。
これは単なるファッションではなく、「権力には屈しない」という意思表示でもありました。
また、彼らの多くは「火消し」や「建設労働」に携わる現場のリーダーたちでした。
仲間が不当に扱われれば、自分の生活を投げ打ってでも助けに行く。
そんな過酷な日常の中で育まれた「裏切らない、見捨てない」という強い絆が、日本独自の「男伊達」という美学を完成させたのです。
まとめ
「男伊達」は、江戸の庶民が生んだ「強きを挫き、弱きを助ける」という理想の精神です。
たとえ自分に不利な状況であっても、曲がったことを許さず、困っている誰かのために一歩踏み出す。
そんな勇気ある振る舞いは、時代が変わっても人々の心を動かす魅力を持っています。
表面的な格好良さだけではなく、内面にある正義感や責任感を大切にする生き方は、現代を生きる私たちにとっても、一つの道標になることでしょう。





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