意味
単に「ずるい」というだけでなく、物事から逃げ出す「臆病さ」と、手段を選ばない「心の浅ましさ」が組み合わさった状態を指します。
- 卑(ひ):いやしい。身分や品性が低い。
- 怯(きょう):ひるむ。おそれる。勇気がない。
この熟語は、状況に対して立ち向かう「勇気の欠如」こそが、人を卑しい振る舞いへと向かわせるという教訓を内包しています。
語源・由来
「卑怯」は、古くは「臆病」や「ひるむこと」を指す言葉として使われていました。
平安時代から鎌倉時代にかけての武士社会において、戦場から逃げ出したり、敵に背を見せたりすることは最大の恥とされました。
本来は「勇気がない(怯え)」という意味だったものが、武士道精神が浸透するにつれ、「正々堂々と戦わない不誠実な態度」全般を指す言葉へと変化していったのです。
なお「卑怯」の字は当て字で、本来は「比興(ひきょう)」と書きました。
「比興」は『詩経』の六義にある「比」(たとえ)と「興」(ほのめかし)から出た語で、もとは他のものにたとえて面白く表現することをいいます。
それが中世に「興がある」の意から「馬鹿げている」「愚劣だ」の意へ転じ、近世以降に「正々堂々としていない」の意でも使われるようになって、「卑怯」の字が当てられました。
なお、武士だけでなく庶民の間にも、「卑怯者であってはならない」という道徳観が広く共有されていました。
使い方・例文
「卑怯」は、ルールを無視して勝とうとしたり、責任を他人に押し付けたりする場面で使われます。
ビジネスシーンに限らず、遊びや家族間の些細なやり取りでも、公正さを欠いた振る舞いに対して用いられます。
- 負けそうになったからといって急にルールを変えるのは、あまりに卑怯だ。
- 自分が壊した皿を弟のせいにして黙っているなんて、そんな卑怯なことはしたくない。
- 相手が反論できない場所で悪口を広めるのは、卑怯なやり方と言うほかない。
- 彼は自分のミスを認めず、いつも周囲の環境のせいにする卑怯な癖がある。
誤用・注意点
「卑怯」と似た言葉に「卑劣(ひれつ)」がありますが、使い分けには注意が必要です。
「卑怯」には「臆病(怯え)」のニュアンスが含まれており、弱さゆえに逃げてしまうという文脈で使われることが多いです。
対して「卑劣」は、臆病かどうかに関わらず、その行為自体が極めて醜く、道徳に反している場合にのみ使われます。
また、「姑息(こそく)」を「卑怯」と同じ意味で使う人が多いですが、本来は「その場しのぎ」という意味です。
現代では「姑息な手段」が「卑怯な手段」に近いニュアンスで使われることも増えていますが、公的な文章では本来の意味(一時しのぎ)を意識した方が無難でしょう。
類義語・関連語
「卑怯」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 卑劣(ひれつ):品性が卑しく、行動が極めて劣っていること。
- 狡猾(こうかつ):悪賢く、他人をだますのがうまいこと。
- 臆病(おくびょう):怖がりで、勇気を持って物事に当たれないこと。
- 不当(ふとう):道理に合っておらず、正しくないこと。
対義語
「卑怯」とは対照的な意味を持つ言葉は、強さと誠実さを表します。
- 正々堂々(せいせいどうどう):
態度が立派で、少しもやましいところがない様子。 - 公明正大(こうめいせいだい):
公平で、私心を挟まずに堂々としていること。 - 潔い(いさぎよい):
未練がなく、卑怯な振る舞いや迷いがないこと。 - 勇敢(ゆうかん):
恐れず、勇気を持って困難に立ち向かうこと。
英語表現
「卑怯」を英語で表現する場合、その「ずるさ」や「臆病さ」の度合いによって言葉を使い分けます。
Cowardly
「臆病な」「卑怯な」を意味する、最も代表的な形容詞です。
立ち向かう勇気がないことを強調する際に使われます。
It was cowardly of him to avoid the discussion.
(話し合いから逃げた彼の振る舞いは卑怯だった。)
Unfair
「不公平な」「ずるい」という意味で、競技や勝負事、対等であるべき場面で不当な手段を使ったときに最適です。
That’s unfair! You changed the rules in the middle of the game.
(卑怯だよ!ゲームの途中でルールを変えるなんて。)
Sneaky
「こそこそした」「卑怯な」という意味です。
陰でこっそり悪巧みをするような、小賢しいニュアンスが含まれます。
I don’t like his sneaky way of taking credit.
(彼の手柄を横取りするような卑怯なやり方は好きになれない。)
『詩経』の六義と「比興」
『詩経』の六義は、風・雅・頌・賦・比・興の六つです。
このうち風・雅・頌は詩の種類を、賦・比・興は表し方を指します。
「卑怯」のもとになった「比興」は、この表し方のうち二つを並べた語でした。
今の「卑怯」からは、詩の用語だったころの痕跡は残っていません。













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