絶頂期にある時は、自分たちの成功や地位が永遠に続くかのように錯覚してしまうものです。
しかし、どんなに勢いがあっても、謙虚さを忘れ、力を誇示するような振る舞いを続けていれば、やがて足元をすくわれる時が訪れます。
歴史が繰り返してきたそんな普遍的な真理を、
「驕れる者久しからず」(おごれるものひさしからず)と言います。
意味・教訓
「驕れる者久しからず」とは、地位や権力を誇っていい気になっている者は、その栄華は長く続かず、やがて滅びてしまうということです。
この言葉における「驕れる者」とは、自分の力や立場を過信し、他人を見下したりわがままに振る舞ったりする人を指します。
また、「久しからず」は「長い時間は続かない」という意味です。
単に「運が悪くて失敗する」のではなく、成功にあぐらをかいて慢心すること自体が、没落の原因になるという因果関係を含んだ教訓です。
語源・由来
「驕れる者久しからず」の由来は、鎌倉時代に成立した軍記物語『平家物語』の冒頭部分にあります。
この物語は、栄華を極めた平家一門がやがて滅びゆく過程を描いた壮大な叙事詩ですが、そのテーマを象徴するように、第一巻の書き出しで次のように語られます。
「祇園精舎の鐘の音は、この世の全ての行いが永遠ではないことを告げている。沙羅双樹の花の色は、勢いある者も必ず衰えるという道理を表している。驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。」
思い上がって権勢を振るう者も長くはその地位にいられず、まるで春の夜に見る夢のようにはかないものである、と断じています。
日本の中世における「無常観(むじょうかん)」を背景に、平清盛を中心とする平家一門の運命を予告する言葉として、古くから人々の口にのぼってきました。
使い方・例文
「驕れる者久しからず」は、歴史上の人物や出来事について語る時だけでなく、現代社会における組織や個人のあり方を戒める際にも使われます。
特に、好調な時ほど気を引き締めるべきだという「自戒」や、横暴な振る舞いをする権力者に対する「批判」の文脈で用いられることが多い言葉です。
例文
- あれほど業界を支配していた企業が倒産するとは、「驕れる者久しからず」を目の当たりにする思いだ。
- 連勝記録を伸ばして天狗になっていたチームが初戦敗退し、監督は「驕れる者久しからず」と唇を噛んだ。
- 「驕れる者久しからず」と言うし、今うまくいっているからといって、周囲への感謝を忘れてはいけないよ。
文学作品での使用例
『平家物語』(作者不詳)
物語の導入部(第一巻・第一句)において、作品全体の主題として語られています。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
驕れる者久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵におなじ。
類義語・関連語
「驕れる者久しからず」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 盛者必衰(じょうしゃひっすい):
勢いの盛んな者も、必ず衰える時が来るという道理。
『平家物語』の冒頭で対になって語られる言葉です。 - 花無十日紅(はなにとおかのくれないなし):
どんなに美しい花も十日とは咲き続けないことから、権勢や栄華は長く続かないことのたとえ。 - 満つれば欠く(みつればかく):
月が満月になればやがて欠けていくように、物事は頂点に達すると、あとは衰えていくということ。 - 邯鄲の夢(かんたんのゆめ):
人の世の栄枯盛衰は、一眠りの夢のようにはかないものであるというたとえ。
対義語・対照的な教訓
「驕れる者久しからず」と反対に、「成功しても驕らず、長く保つための心構え」を説く言葉を紹介します。
- 実るほど頭を垂れる稲穂かな(みのるほどこうべをたれるいなほかな):
稲が実るほど穂先が垂れるように、立派な人物ほど、地位が上がるにつれて謙虚になるものだという教え。 - 勝って兜の緒を締めよ(かってかぶとのおをしめよ):
成功したからといって気を緩めず、さらに心を引き締めよという戒め。
英語表現
「驕れる者久しからず」を英語で表現する場合、聖書に由来する以下の言葉が最も適しています。
Pride goes before a fall.
- 直訳:傲慢は転落(没落)に先立つ。
- 意味:「驕りは滅亡の前触れである」
- 解説:旧約聖書『箴言』の一節に由来する表現です。日本語の「驕れる者久しからず」とほぼ同じ意味で、成功して天狗になっている人への警告として使われます。
- 例文:
Don’t be so arrogant about your success. Pride goes before a fall.
(成功したからといってそんなに横柄になるな。驕れる者久しからずだぞ。)
平家物語の冒頭に見る「はかなさ」の美学
「驕れる者久しからず」という言葉に続く「ただ春の夜の夢のごとし」という比喩は、日本人の感性に深く根付いています。
春の夜は短く、そこで見る夢はあっという間に覚めてしまいます。
『平家物語』が書かれた時代、絶対的な権力を誇った平家でさえも、歴史の大きな流れの中では一瞬の夢のような存在に過ぎないという視点は、単なる批判を超えた「哀愁」や「美学」さえ感じさせます。
この言葉が何百年もの間、色あせずに使われ続けている理由は、単なる教訓としてだけでなく、こうした文学的な響きの美しさにもあるのかもしれません。
まとめ
栄光の中にいる時は、自分の足元が見えなくなりがちです。
しかし、どんなに強大な力も永遠ではありません。
「驕れる者久しからず」という言葉は、成功した時こそ謙虚さを持ち、周囲への感謝を忘れてはならないという、処世の基本を教えてくれています。
この言葉を胸に留めておくことで、順調な時でも慎み深く、着実に歩みを進めることができることでしょう。






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