驕る平家は久しからず

ことわざ 故事成語
驕る平家は久しからず(おごるへいけはひさしからず)

13文字の言葉」から始まる言葉
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「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…」

多くの人が一度は耳にしたことがあるであろう、『平家物語』の有名な冒頭。
その一節から生まれた「驕る平家は久しからず」という言葉は、日本の歴史や文学に深く根ざし、現代にも通じる教訓を伝えています。
今回は、この印象的なことわざの意味、由来、使い方、関連語などを詳しく解説します。

「驕る平家は久しからず」の意味 – 栄華の果ての戒め

「驕る平家は久しからず」とは、権力を手に入れ、勢いに乗じておごり高ぶる者は、その栄華も長くは続かず、やがては滅びる運命にある、という意味のことわざです。

ここでいう「驕る(おごる)」とは、自分の地位や才能、富などを過信し、思い上がってわがままに振る舞ったり、分不相応に贅沢をしたりする態度を指します。
「久しからず」は「長くはない」「長くは続かない」という意味です。

つまりこの言葉は、栄華を極めた平家一門が、その権勢におごり高ぶった結果、急速に没落していった歴史を踏まえ、権力や成功に対しておごり高ぶることへの強い戒めと、世の中の全てのものは移り変わり、永遠に続くものはないという無常観を示しています。

「驕る平家は久しからず」の語源 – 『平家物語』が伝える無常観

このことわざの直接的な語源は、鎌倉時代に成立したとされる軍記物語『平家物語』の冒頭部分にあります。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹しゃらそうじゅの花の色、盛者必衰じょうしゃひっすいことわりをあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

(『平家物語』巻第一「祇園精舎」より)

この中の「おごれる人も久しからず」が、「驕る平家は久しからず」という形で広く知られるようになりました。
「おごれる人」とは、まさに栄華を極めながらもおごり高ぶり、やがて滅亡へと向かう平家一門を象徴しています。この一節は、『平家物語』全体を貫く「諸行無常」「盛者必衰」という仏教的な思想を端的に示しています。

「驕る平家は久しからず」が使われる場面と例文 – 奢り高ぶる者への警鐘

このことわざは、現代においても、以下のような場面で使われます。

  • 権力者や成功者の奢りに対する批判や警鐘:成功して傲慢になった人や組織を見て、その将来を案じたり、戒めたりする時。
  • 歴史の教訓として:過去の事例を挙げ、おごりが滅亡を招くことを説明する時。
  • 自戒の言葉として:成功した時などに、自分自身がおごり高ぶらないように戒める時。

強いメッセージ性を持つため、使う場面や相手には注意が必要です。

例文

  • 「あの会社も急成長したが、最近の傲慢な経営姿勢を見ると、驕る平家は久しからずを思い出す。」
  • 「歴史を学べば、驕る平家は久しからずという教訓が、いかに普遍的であるかがわかる。」
  • 「成功した時こそ、驕る平家は久しからずの言葉を胸に、謙虚さを忘れないようにしたい。」

「驕る平家は久しからず」の類義語 – 盛衰と無常を表す言葉

「驕る平家は久しからず」と似た、栄華の儚さやおごりへの戒めを表す言葉です。

  • 盛者必衰(じょうしゃひっすい):勢いの盛んな者も、必ず衰える時が来るということ。『平家物語』の冒頭にも出てくる、非常に意味の近い言葉です。
  • 栄枯盛衰(えいこせいすい):栄えたり衰えたりすること。人の世の移り変わりが激しいさま。
  • 満つれば欠ける(みつればかける):月が満月になるとやがて欠けていくように、物事は頂点に達すると必ず衰えに向かうというたとえ。(ことわざ)
  • 権不十年(けんはじゅうねんになし):権力は長く続くものではなく、10年も保たないということ。権力の儚さを表します。(故事)
  • 驕兵必敗(きょうへいひっぱい):おごりたかぶる軍隊は必ず敗れるということ。油断や慢心への戒め。

「驕る平家は久しからず」の対義語 – 謙虚さや持続する力

「驕る平家は久しからず」の直接的な対義語となることわざや四字熟語は多くありませんが、おごりとは反対の、謙虚さによって繁栄がもたらされたり、物事が長続きしたりするという考え方を示す言葉はあります。

  • 謙譲の美徳(けんじょうのびとく):へりくだって、他人に譲ることを良いこととする考え方。
  • 実るほど頭を垂れる稲穂かな:学徳が深まるほど、かえって謙虚になるというたとえ。
  • 地道な努力、継続は力なり:派手さはないが、着実に努力を続けることが成功や持続につながるという考え。

これらは、おごることなく謙虚であることや、地道な努力が大切であることを示唆しています。

「驕る平家は久しからず」の英語での類似表現 – 世界に共通する教訓

おごり高ぶる者はやがて滅びる、という教訓は、世界共通の考え方であり、英語にも類似の表現があります。

  • Pride comes before a fall. / Pride goeth before destruction.
    直訳:高慢は転落の前に来る/破壊の前に行く
    意味:傲慢は破滅に先立つ。
    旧約聖書『箴言』に由来する有名なことわざで、「驕る平家は久しからず」と非常によく似た意味を持ちます。
  • The bigger they are, the harder they fall.
    意味:大きければ大きいほど、倒れる時の衝撃も大きい。権力者や成功者が失脚する際の打撃が大きいことを表します。
  • What goes up must come down.
    意味:上がるものは必ず下がる。栄華や成功が永遠には続かないことを示す、物理法則に例えた表現です。

「驕る平家は久しからず」に関する豆知識 – 『平家物語』と日本人

『平家物語』は、文字として書かれただけでなく、琵琶法師(びわほうし)と呼ばれる盲目の僧侶たちによって、琵琶の伴奏に合わせて語り継がれてきました。
これにより、文字を読むことができなかった人々にも広く物語が浸透し、「驕る平家は久しからず」に代表される無常観は、日本人の精神性に大きな影響を与えたと言われています。

まとめ – 「驕る平家は久しからず」から学ぶ謙虚さの大切さ

「驕る平家は久しからず」は、『平家物語』が描き出す平家の栄枯盛衰を通じて、権勢におごり高ぶることの危うさと、世の無常を私たちに教えてくれることわざです。
その根底には、「盛者必衰」という普遍的な真理があります。

この言葉は、単に過去の物語としてではなく、現代社会に生きる私たちへの警鐘としても響きます。
成功や権力を手にした時こそ、おごることなく、周囲への感謝や謙虚な気持ちを忘れないこと。その大切さを、この古くからのことわざは静かに、しかし力強く語りかけているのです。

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