「驕る平家は久しからず(おごるへいけはひさしからず)」は、多くの人が一度は耳にしたことのある、非常に有名な言葉です。これは、単なる歴史上の一族の物語ではなく、現代にも通じる深い教訓を含んでいます。
ここでは、この言葉の正確な意味や、その背景にある『平家物語』の教え、そして現代での使い方について分かりやすく解説します。
「驕る平家は久しからず」の意味・教訓
「驕る平家は久しからず」とは、「おごり高ぶり、わがままに振る舞う者(平家)の権勢は、長くは続かずにやがて滅びる」という意味です。
「驕る(おごる)」とは、自分の地位や才能、富を鼻にかけ、傲慢(ごうまん)になること。
「久しからず(ひさしからず)」は、「長くない」「まもなく」という古語の表現です。
この言葉は、権力や成功を手にした者が謙虚さを失い、傲慢になると、その終わりは近いという、強い戒め(いましめ)の教訓となっています。
「驕る平家は久しからず」の語源 – 『平家物語』
「驕る平家は久しからず」は、鎌倉時代に成立した軍記物語『平家物語』の主題を端的に表した言葉です。
『平家物語』の有名な冒頭部分、「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声…」に続く一節に、「驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」とあります。これが直接の由来です。
「驕れる人(おごり高ぶる人)」が長続きしないことの具体的な歴史上の例が、まさに栄華を極めながらも横暴な振る舞いが目立つようになった「平家(平氏一門)」であったため、この二つが強く結びつき、教訓として広く知られるようになりました。
「驕る平家」と「驕れる者(人)」の違い – 意味は同じ?
「驕る平家は久しからず」と、その元になった『平家物語』の原文「驕れる者(人)も久しからず」は、しばしば混同されますが、両者の関係性は以下の通りです。
結論から言えば、どちらも「おごり高ぶる者は長続きしない」という中心的な意味は全く同じです。
違いは、その言葉が指し示す対象の範囲にあります。
- 驕れる者(人)も久しからず:
こちらが『平家物語』の冒頭に出てくる原文です。「おごり高ぶる人」という一般的な人間全般を指す、普遍的な教訓です。 - 驕る平家は久しからず:
こちらは、上記の普遍的な教訓(驕れる者)が、具体的に「平家一門」という特定の対象に当てはまることを示した表現です。
つまり、「驕る平家は久しからず」は、『平家物語』が示す「驕れる者も久しからず」という教訓の、最も象徴的で有名な具体例として、後世に広く定着した言葉と言えます。
「驕る平家は久しからず」の使い方と例文
現代社会においても、権力や成功を手にした個人や組織が、傲慢な態度をとることへの批判や警告として使われます。
「あの人(あの会社)も、いつまでもつことか…」と、その先行きを案じるようなニュアンスで使われることが多いです。
例文
- 「最近の彼の態度は、まさに驕る平家は久しからずだ。周囲の反感を買っている。」
- 「急成長した企業が不祥事を起こしたが、驕る平家は久しからずというほかない。」
- 「驕る平家は久しからず、と歴史が証明している。成功した時こそ謙虚でなければならない。」
類義語・関連語
『平家物語』の冒頭には、「驕る平家は久しからず」と密接に関連する言葉が含まれています。
- 盛者必衰(じょうしゃひっすい):
『平家物語』の冒頭(「娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす」)に出てくる言葉。勢いが盛んな者も必ず衰える、という真理。 - 驕れる人も久しからず(おごれるひともひさしからず):
上記の通り、『平家物語』における元の表現。「驕る平家」よりも一般的な「驕れる人」を指します。 - 権不十年(けんふじゅうねん):
権勢は10年も続かない。権力のはかなさを表す言葉。
関連する概念
- 無常(むじょう):
『平家物語』全体の根底にある仏教思想。万物は常に変化し、同じ状態に留まることはないということ。「驕る平家は久しからず」も、この無常観の表れの一つです。
対義語
「驕る平家」とは反対に、謙虚であることの重要性を示す言葉です。
- 実るほど頭を垂れる稲穂かな(みのるほどこうべをたれるいなほかな):
稲が実を熟すほど穂先が垂れ下がるように、徳が積まれた人ほど謙虚である、というたとえ。 - 恭謙温和(きょうけんおんわ):
相手を敬い謙虚で、人柄が穏やかなこと。「驕る」態度とは正反対の人柄。 - 恭謙(きょうけん):
相手を敬い、自分は謙虚であること。 - 謙虚(けんきょ):
控えめであり、素直に他者の意見を受け入れること。
英語での類似表現
「驕る平家は久しからず」と非常によく似た意味を持つ英語のことわざがあります。
Pride goes before a fall.
- 意味:「驕りは(人の)破滅に先立つ」
- 解説:英語圏で非常に有名なことわざで、聖書の一節(「Pride goeth before destruction, and an haughty spirit before a fall.」)に由来します。
「驕れば、その先に待っているのは破滅だ」という意味で、「驕る平家は久しからず」の教訓と完全に一致します。 - 例文:
He became arrogant after his promotion, but pride goes before a fall.
(彼は昇進して傲慢になったが、驕る者は久しからずだ。)
What goes up must come down.
- 意味:「上がるものは必ず落ちる」
- 解説:物理的な法則を述べた言葉ですが、比喩的に「盛者必衰」や「栄枯盛衰」のニュアンスで使われることもあります。
- 例文:
That company grew too fast and is now facing trouble. What goes up must come down.
(あの会社は急成長しすぎたが、今や困難に直面している。上がるものは必ず落ちるものだ。)
「驕る平家は久しからず」に関する豆知識 – 平清盛の「人非人」発言
『平家物語』で描かれる「驕り」の象徴とされるのが、平家一門の頂点にいた平清盛(たいらのきよもり)です。
清盛の義弟である平時忠(たいらのときただ)が「此一門にあらざらむ者は、皆人非人(にんぴにん)なるべし」と述べたとされます。
これは「(平家)一門の者でなければ、人間ではない」という意味で、平家が栄華を極めた際の、強烈な傲慢さを表す逸話として有名です。


まとめ – 「驕る平家は久しからず」から学ぶ知恵
「驕る平家は久しからず」は、『平家物語』が描く「盛者必衰」と「無常」の理を、平家一門の姿を通して伝える、非常に強力な言葉です。
権力や成功は永遠ではなく、それを手にした時こそ謙虚さを失ってはならない。もし傲慢になれば、その終わりは近い——。これは、平家の時代から現代に至るまで、私たちすべてに通じる普遍的な教訓と言えるでしょう。





コメント