満開の桜が春の嵐で一夜にして散り、地面が淡いピンク色に染まる光景を目にすることがあります。
あるいは、街中の看板を独占していた人気スターが、数年後には誰からも話題にされなくなる。
そうした絶頂の終わりを目の当たりにすると、どれほど輝かしいものも永遠ではないという事実に、胸が締め付けられるような思いがするものです。
そんな世の移ろいやすさを、「花に十日の紅なし」(はなにとおかのくれないなし)と言います。
意味・教訓
「花に十日の紅なし」とは、どんなに美しく咲き誇る花であっても、その鮮やかな紅色を十日も保つことはできないという意味です。
そこから転じて、勢いの盛んな状態や権力、若さや美貌などは長く続くものではないという教訓を伝えています。
物事が絶好調のときこそ、それが一時的なものであることを忘れず、謙虚に過ごすべきだという戒め(いましめ)を含んでいます。
語源・由来
「花に十日の紅なし」は、中国の古い言葉「人無千日好、花無十日紅」に由来します。
もともとは、「花が十日も赤く咲き続けることがないように、人の親しい関係や幸せな状態も、千日(約三年)と続くものではない」という対句(ついく)でした。
これが日本に伝わり、特に「花の命の短さ」を強調する前半部分がことわざとして定着しました。
使い方・例文
人生の絶頂期にある人への忠告や、かつての栄華を失った様子を嘆く場面、あるいはアイドルや流行の移り変わりの激しさを表現する際などに使われます。
例文
- あれほど一世を風靡したスターが引退したと聞き、花に十日の紅なしだと感じた。
- 今の役職に溺れて威張ってはいけない。花に十日の紅なしという言葉を肝に銘じなさい。
- 若さゆえの美しさなど花に十日の紅なし。歳を重ねても残る教養を身につけたい。
- 優勝候補と言われたチームが初戦で敗退する姿は、まさに花に十日の紅なしだった。
文学作品での使用例
軍記物語の傑作として知られる『南北朝時代』を舞台にした古典に、この言葉が登場します。
『太平記』(作者不詳)
栄華を極めた者が没落していく非情な運命を語る場面で、この表現が引用されています。
「花に十日の紅なし、人に千日の好なしと云へり。盛んなる者は必ず衰ふといふ事、古今に違はぬ理(ことわり)なり」
誤用・注意点
この言葉は「美しいものの寿命が短い」ことを指しますが、単に「足が速い(すぐに腐る)」食べ物や、納期が短い仕事に対して使うのは誤りです。
あくまで「栄華」や「権勢」といった、社会的・心理的な輝きが失われる際に用いるのが適切です。
類義語・関連語
「花に十日の紅なし」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 花無十日紅(はなじゅうじつのくれないなし):
「花に十日の紅なし」の語源となった言葉そのもので、同様の意味で用いられます。 - 諸行無常(しょぎょうむじょう):
この世のすべての現象は常に変化し、一つとして同じ状態に留まるものはないということ。 - 盛者必衰(じょうしゃひっすい):
勢いが盛んな者も、必ずいつかは衰え滅びるという道理。 - 驕る平家は久しからず(おごるへいけはひさしからず):
思い上がって勝手な振る舞いをする者は、長くその地位を保つことはできないという戒め。 - 槿花一朝の夢(きんかいっちょうのゆめ):
ムクゲの花が朝咲いて夕方にはしぼむように、人の世の栄華は非常にはかないものであること。 - 色香も一時(いろかもひととき):
若さや美しさは、人生のほんの短い間だけのものであるということ。
対義語
「花に十日の紅なし」とは対照的な意味を持つ言葉は、永遠や不変を強調するものになります。
- 永久不変(えいきゅうふへん):
いつまでも変わることなく、そのままの状態が続くこと。 - 万古不易(ばんこふえき):
永久に変わらないこと。時代を経ても古くならない価値観などを指す際にも使われます。 - 鬼も十八、番茶も出花(おにもじゅうはち、ばんちゃもでばな):
「花の盛りは短い」という諦めに対し、どんなものでも一生のうちに一度は輝く時期があるという、肯定的な視点を持つ言葉です。
英語表現
「花に十日の紅なし」を英語で表現する場合、以下のフレーズが適しています。
All glory is fleeting.
「すべての栄光は束の間である」
fleetingは「はかない」「つかの間の」という意味で、栄華の短さを端的に表しています。
- 例文:
He won the championship, but all glory is fleeting.
(彼は優勝したが、すべての栄光は束の間のものである。)
Beauty is a fading flower.
「美しさは色あせる花のようなもの」
若さや外見の美しさが長く持続しないことを、より直接的に「枯れる花」に例えた表現です。
まとめ
「花に十日の紅なし」は、私たちがつい忘れがちな「絶頂の終わり」を静かに告げる言葉です。
この言葉を知ることで、うまくいっている時には慢心を防ぐブレーキとなり、逆に苦しい時には「永遠に続く不幸もない」という希望の裏返しとして捉えることもできるでしょう。
すべての物事が移ろいゆくからこそ、今この瞬間の輝きを大切にするという、しなやかな強さを持ちたいものですね。







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