花に十日の紅なし

ことわざ 故事成語
花に十日の紅なし(はなにとおかのくれないなし)
異形:花無十日紅(はなにとおかこうなし)

13文字の言葉は・ば・ぱ」から始まる言葉
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美しく咲き誇っていた桜並木が、数日後の雨風であっという間に散ってしまう。あるいは、絶大な人気を誇ったものが、いつの間にか忘れ去られていく。

そんな光景を前にして、物事の盛りが長くは続かない「儚さ(はかなさ)」を感じたことはありませんか。

花に十日の紅なし(はなにとおかのくれないなし)」は、そのようなこの世の真理を、美しい花にたとえたことわざです。

「花に十日の紅なし」の意味・教訓

「花に十日の紅なし」とは、あれほど美しく咲いていた花も、10日間もその紅色(美しさ)を保つことはできない、という意味です。

そこから転じて、「人の世の栄華や権力、あるいは若さや美貌といったものは、長くは続かない」という儚い現実を示しています。

仏教でいう「諸行無常(しょぎょうむじょう)」の精神にも通じる、戒(いまし)めや諦観(ていかん)を含んだ言葉です。

「花に十日の紅なし」の語源

この言葉は、中国・宋(そう)の時代の詩人である権平(ごんぺい)が詠んだ『絶句』という漢詩の一節「花無十日紅(はなにとおかこうなし)」に由来します。これが日本に伝わり、ことわざとして定着しました。

元の漢詩は、以下のような対句になっています。

花無十日紅(花に十日の紅なし)
人無千日好(人に千日の好なし)

後半の「人無千日好」は、「人の親愛や寵愛(ちょうあい)が千日(=長い間)も続くことはない」という意味です。
つまり、花の美しさが短命であるように、人間関係の親密さや権力者からの寵愛も移ろいやすいものだ、という二重の教訓を持つ詩でした。

使用される場面と例文

権力や人気が永遠ではないことを諭す時や、栄華を極めた人が没落した様子を評する時、あるいは若さや美貌の衰えを嘆く時などに使われます。

例文

  • 「あれほど一世を風靡した彼も、今や見る影もない。まさに「花に十日の紅なし」だ。」
  • 「権力を握ったからといって驕(おご)ってはいけない。「花に十日の紅なし」という言葉を忘れるな。」
  • 「若いうちの美しさなど、「花に十日の紅なし」。本当に大切なのは、内面を磨き続けることだ。」
  • 「人気商売は「花に十日の紅なし」というから、今のうちに次の手を打っておくべきだ。」

文学作品や思想との関連

日本でこのことわざと同じ精神を表す最も有名な言葉は、やはり『平家物語』の冒頭にある「盛者必衰(じょうしゃひっすい)のことわり」でしょう。
「勢いの盛んな者も必ず衰える」という真理は、「花に十日の紅なし」が示す教訓と全く同じものです。

類義語・言い換え表現

栄華が一時的で儚いことを示す、類似の言葉です。

  • 盛者必衰(じょうしゃひっすい):
    勢いの盛んな者も、必ず衰え滅びるということ。
  • 驕る平家は久しからず(おごるへいけはひさしからず):
    『平家物語』の一節。権勢を誇り、驕り高ぶる平家一門も、その栄華は長く続かなかった、という意味。
  • 槿花一朝の夢(きんかいっちょうのゆめ):
    ムクゲの花が朝咲いて夕方にはしぼんでしまうことから、人の世の栄華は儚いものだというたとえ。
  • 色香も一時(いろかもひととき):
    若く美しい時期も、ほんの一時的なものであること。

対義語

「儚く終わる」こととは反対に、「いつまでも変わらないこと」や「一時的な輝きを肯定する」言葉を紹介します。

  • 永久不変(えいきゅうふへん):
    いつまでも変わらないこと。
  • 万古不易(ばんこふえき):
    永遠に変わらないこと。
  • 鬼も十八、番茶も出花(おにもじゅうはち、ばんちゃもでばな):
    「花に十日の紅なし」が栄華の「終わり」や「儚さ」を諭すのに対し、こちらはどんなものでも「盛り」や「旬」があるという「輝き」の側面を肯定的に捉える点で対照的です。

英語での類似表現

「栄光は長続きしない」という意味で、近いニュアンスを持つ英語表現です。

All glory is fleeting.

  • 意味:「すべての栄光は束(つか)の間である」「盛者必衰」。
  • 「fleeting」は「つかの間の、儚い」という意味の形容詞です。
  • 例文:
    The actor was famous, but now he is forgotten. All glory is fleeting.
    (その俳優は有名だったが、今は忘れられている。すべての栄光は束の間だ。)

Sic transit gloria mundi.

  • 意味:「この世の栄光はかくも過ぎ去りぬ」。
  • ラテン語の警句ですが、英語圏でも教養として広く知られており、栄華の儚さを示す言葉として使われます。

まとめ – 儚いからこそ今を大切に

「花に十日の紅なし」は、美しさや権力、人気といったこの世の栄華が、決して長くは続かないという厳しい現実を示すことわざです。

この言葉は、盛りの時には謙虚さを忘れず、驕り高ぶることのないようにという戒め(いましめ)を与えてくれます。
と同時に、花がいつかは散る儚いものだからこそ、今咲き誇っているその一瞬の美しさを大切に愛(め)でることの重要性も教えてくれるのかもしれませんね。

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