意味
「勝って兜の緒を締めよ(かってかぶとのおをしめよ)」とは、戦いに勝っても油断せず、心を引き締めろという教訓です。
成功した直後は誰でも気が緩みやすく、そこを突かれて失敗しやすいので、最後まで気を抜くなというのです。
- 勝って:勝利や成功を手にした状態。
- 兜の緒(かぶとのお):兜を頭に固定するための紐。
- 締めよ:緩まないように結び直せ、という命令形。
戦いが終わったからといって、すぐに兜を脱いだり緒を緩めたりすれば、隠れていた敵に襲われた際にひとたまりもありません。
今でも、仕事がうまくいったあとや試験に受かったあとなど、一区切りついたときの油断を戒めるのに使われます。
語源・由来
「勝って兜の緒を締めよ」は、戦に勝ったあとの武士の心構えを言い表した言葉です。
戦(いくさ)に勝って敵陣を制圧した直後、将兵たちは勝利の喜びに沸き、重い兜を脱いで休息したくなるものです。
そこで兜の緒を解くのではなく、敵の反撃に備えてかえって締め直せ、というのがこの言葉の成り立ちです。
特に有名なエピソードとして、北条氏綱が子である氏康に遺した訓戒が知られています。
「勝って兜の緒を締めよ」という一文を含むその教えは、氏綱が亡くなる1541年に書き残した五箇条の書置に記されています。

(写真:Samuraiantiqueworld、Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0)
使い方・例文
一つの成果を出したあとの気の緩みを戒めたいときや、順調なときこそ慎重に、と言いたいときに使います。
例文
- 模試でA判定が出たが、勝って兜の緒を締めよだ。本番まで気を抜くまい。
- 契約は決まったが、勝って兜の緒を締めよだ。事務手続きまで完璧にやろう。
- 優勝候補に勝っても浮かれるな。勝って兜の緒を締めよで決勝に挑もう。
- 大掃除が早く終わった。勝って兜の緒を締めよで火の元を確認しよう。
誤用・注意点
この言葉は「成功した後」に使うものであり、まだ結果が出ていない段階で使うのは適切ではありません。
また、「緒を緩める」という反対の意味で使ってしまう間違いも稀に見られますが、正しくは「締める」です。
目上の人に向けて使うと、説教じみて聞こえることがあります。
「部長、勝って兜の緒を締めよと言いますから、気を抜かないでください」と言えば、失礼に当たるかもしれません。
「……という言葉を胸に、精進します」のように、自分の決意として口にするのが無難です。
類義語・関連語
「勝って兜の緒を締めよ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 治に居て乱を忘れず(ちにいてらんをわすれず):
平和な時でも、まさかの政変や戦争に備えておくこと。 - 油断大敵(ゆだんたいてき):
注意を怠ることは、恐ろしい敵と同じくらい失敗の元になるということ。 - 慎終如始(しんしゅうじょし):
物事を最後まで、始めた時と同じように慎重に行うこと。
対義語
「勝って兜の緒を締めよ」とは対照的な意味を持つ言葉は、慢心や油断を表すものが中心となります。
- 驕れる者は久しからず(おごれるものはひさしからず):
勢い盛んで得意になっている者は、長くその地位を保てず滅びるということ。 - 高を括る(たかをくくる):
たいしたことはないと甘く見て、注意を怠ること。 - ぬか喜び(ぬかよろこび):
あとで期待外れになる、一時的な喜び。
英語表現
「勝って兜の緒を締めよ」を英語で表現する場合、以下のフレーズがニュアンスをよく伝えます。
Don’t halloo till you are out of the wood
直訳は「森を抜けるまで叫ぶな(喜ぶな)」で、まだ危険が去りきっていないのに早まって成功を祝うことを戒める英語のことわざ。
「勝って兜の緒を締めよ」の「最後まで気を抜くな」という部分と重なる。
The deal is almost done, but don’t halloo till you are out of the wood.
(契約はほぼ決まりだが、最後まで気を抜いてはいけない。)
Don’t rest on your laurels
直訳は「月桂冠(過去の栄光)の上で休むな」で、一度成功したからといって、それに満足して努力をやめてはいけないという意味の表現。
You won the award, but don’t rest on your laurels. You need to keep improving.
(受賞おめでとう。でも過去の栄光に浸らず、努力を続けなさい。)
北条氏綱の家訓、既にあった言い回しを引く
北条氏綱が1541年に子の氏康へ残した五箇条の書置は、その第五条をこう結んでいます。
「勝て甲の緒をしめよ、といふ事忘れ給ふへからす」。
「〜といふ事を忘れなさるな」という言い方なので、氏綱が作った文句ではなく、当時すでにあった言い回しを引いた形になっています。
同じ条は、大勝したあとに驕りが出て敵を侮り、そのために滅んだ家が昔から多いと戒めています。












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