「電気代がもったいないから、テレビの明かりだけで過ごす」
「1円でも安い野菜を求めて、自転車でスーパーを3軒はしごする」
生活のため、あるいは目標のために、極限まで支出を切り詰める様子を、痛々しくも大げさに表現した言葉が爪に火をともすです。
「爪に火をともす」の意味
ひどくけちなこと。また、非常に貧しくつましい生活をすることのたとえ。
ろうそくや行灯(あんどん)の油を買うお金さえ惜しんで、自分の爪に火をつけて明かり代わりにするほどだ、という強烈な比喩から来ています。
単なる「節約上手」というレベルを超えて、苦痛を伴うほどの極端な倹約や、見ていて痛々しいほどの貧乏生活を指します。
また、お金持ちなのに異常に物惜しみをする人(守銭奴)に対する皮肉として使われることもあります。
- 爪(つめ):人間の爪。
- ともす(灯す・点す):明かりをつける。
「爪に火をともす」の語源・由来
このことわざは、電気がなく、明かりに「油」を使っていた時代の生活事情に由来します。
油は高級品だった
江戸時代以前、菜種油などの照明用の油は庶民にとって貴重で高価なものでした。
そのため、貧しい家庭や極度の倹約家は、夜なべ仕事をする際も油の減りを気にして、暗い中で過ごすことがありました。
究極の節約としての比喩
「油を買う金がもったいないから、自分の爪に火をつけて燃やし、その明かりで済ませる」。
実際には爪に火をつければ激痛が走りますし、明かりとして実用的ではありませんが、「自分の身を削ってでも出費を抑える」という異常なほどの執着心や困窮ぶりを表現するために、このような誇張表現が生まれました。
「上方(京都)いろはかるた」の「つ」の読み札としても知られ、古くから日本人の倹約精神(あるいはドケチぶり)を象徴する言葉として定着しています。
「爪に火をともす」の使い方・例文
主に、「苦しい節約生活」や「ドケチな態度」を描写する際に使われます。
自分自身の生活について「今は爪に火をともす思いで頑張っている」と使うこともあれば、他人の生活ぶりを「あの家は資産家なのに、爪に火をともすような暮らしだ」と噂する文脈でも使われます。
例文
- 「念願のマイホームを買うために、夫婦で爪に火をともすような生活をして頭金を貯めた。」
- 「彼は億万長者になっても、爪に火をともすような倹約生活を崩さない。」
- 「物価高で家計が苦しく、まさに爪に火をともす毎日だ。」
文学作品での使用例
江戸時代の町人文化を描いた作品には、お金に執着する人々の姿としてこの言葉が登場します。
「爪に火をともして、一生のあいだ、始末(倹約)の二字を守りて」
(井原西鶴『日本永代蔵』)
このように、なりふり構わず富を蓄積しようとする商人の姿勢や、徹底した倹約ぶりを表す表現として使われてきました。
「爪に火をともす」の誤用・注意点
「火の車」との混同に注意
よく似た言葉に「火の車」がありますが、意味の重点が異なります。
- 火の車:
家計が赤字で苦しいという「経済状態」。(例:借金で家計は火の車だ) - 爪に火をともす:
出費を抑えるために行う「行動・態度」。(例:火の車だから、爪に火をともして暮らす)
ポジティブな意味だけで使わない
「節約」というよりは、「しみったれた」「痛々しい」というネガティブなニュアンスが強い言葉です。
スマートな節約術を褒めるつもりで「爪に火をともすようですね」と言うと、相手を「貧乏くさい」と侮辱しているように聞こえるため注意が必要です。
「爪に火をともす」の類義語・関連語
- 吝嗇(りんしょく):
極度に物惜しみをすること。けち。 - 一文惜しみ(いちもんおしみ):
わずかな出費でも嫌がること。 - 塩を舐める(しおをなめる):
おかずを買わず、塩を舐めて酒を飲んだり飯を食べたりするほどの貧乏暮らしのたとえ。 - 食うや食わず(くうやくわず):
食べていくのがやっとの、極貧の生活。
「爪に火をともす」の対義語
- 金に糸目をつけない(かねにいとめをつけない):
制限を設けず、豪快にお金を使うこと。 - 湯水のごとく使う(ゆみずのごとくつかう):
惜しげもなく大量にお金を使うこと。 - 豪遊(ごうゆう):
気前よく盛大に遊ぶこと。
「爪に火をともす」の英語表現
pinch pennies
- 直訳:1ペニー硬貨をつまむ(つねる)。
- 意味:「極端に切り詰める」「けちけちする」
- 解説:アメリカの1セント硬貨(ペニー)のような小銭でさえ、手放すまいと強くつまむ様子から来ています。
- 例文:
We have to pinch pennies to pay the rent.
(家賃を払うために、爪に火をともすような節約をしなければならない。)
scrimp and save
- 意味:「爪に火をともして貯める」「切り詰めて暮らす」
- 解説:scrimp(切り詰める)と save(貯める・節約する)をセットにした決まり文句で、日本語のニュアンスに近いです。
「爪に火をともす」に関する豆知識
爪は本当によく燃える?
「爪に火をともす」は比喩ですが、科学的に見ると人間の爪は硬タンパク質(ケラチン)でできており、実は燃えやすい性質を持っています。
昔の人は、囲炉裏(いろり)などで切った爪を火に投げ入れた際、パチパチと音を立ててよく燃える様子を見て、「(油の代わりに)爪も燃えるのでは?」と着想を得たという説もあります。
もちろん、実際に明かりになるほど燃え続けるわけではありませんし、ひどい臭いがします。あくまで「身を削る」ことの象徴です。
まとめ
爪に火をともすとは、明かり用の油代さえも惜しみ、自分の身を削るようにして出費を切り詰める、極端な倹約や貧困を表すことわざです。
目標のために一時的に我慢する場合もあれば、単なるけちとして批判される場合もあります。
いずれにせよ、あまりに爪に火をともすような生活ばかりでは、心まで暗くなってしまいます。
「金は天下の回りもの」という言葉もあるように、使うべき時には使い、心に明かりをともす余裕も持ちたいものです。







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