簡単そうに見えて取り組んでみたものの、奥が深くてなかなかゴールが見えない。
あるいは、おとなしそうな相手だと思っていたら、実は非常に手強い交渉術を持っていた。
そんな、単純な手段や表面的な対応では太刀打ちできない状況や人物を、
「一筋縄ではいかない」(ひとすじなわではいかない)と言います。
意味・教訓
「一筋縄ではいかない」とは、普通のやり方では思い通りにならず、解決や攻略に特別な工夫や多大な努力を要するという意味です。
単に「難しい」というだけでなく、相手に一癖あったり、物事が複雑に絡み合っていたりする場合に使われます。
「一筋縄(一本の縄)」で縛り上げるような、単純で強引な方法が通用しない手強い状態を指します。
語源・由来
「一筋縄ではいかない」の由来は、罪人や獲物を捕らえる際の縄の扱いにあります。
かつて、捕らえた相手を縛り上げる際、普通の相手であれば一本の縄(一筋縄)で事足りました。
しかし、並外れた怪力の持ち主や、縄抜けの技術を持つような知恵者は、一本の縄だけではすぐに引きちぎったり解いたりして逃げ出してしまいます。
このように、「たった一本の縄では縛っておけないほど手強い相手」という状況が転じて、現代のような「平凡な手段では対処できない」という意味で使われるようになりました。
「一筋縄ではいかない」という表現において、縄は「単一の策」や「単純な力押し」の象徴となっています。
使い方・例文
「一筋縄ではいかない」は、攻略が難しい問題、手強いライバル、あるいは一癖ある人物の性格などを描写する際に使われます。
最大公約数的な解決策が通用しない場面で適した表現です。
例文
- あの先生が出題する数学のテストは、一筋縄ではいかない。
- 実家の物置の片付けは、荷物が多くて一筋縄ではいかない。
- 優勝候補のチームだけあって、守備の固さは一筋縄ではいかない。
- 今回の取引相手は、こちらの条件をすぐに見抜く一筋縄ではいかない人物だ。
文学作品・メディアでの使用例
『雛』(芥川龍之介)
没落していく家の中で、雛人形を売るか売らぬかという葛藤を描いた短編小説です。
作中では、人の感情や世の中の仕組みが単純ではない様子を指して、この言葉が使われています。
世の中のことは、どうもそう一筋縄ではゆかないものだ。
誤用・注意点
「一筋縄ではいかない」を、単に「時間がかかる」という意味だけで使うのは不十分です。
この言葉の核心は、対象が「単純な策をあざ笑うかのような複雑さや強かさ(したたかさ)を持っている」という点にあります。
また、相手の能力を評価する言葉ではありますが、「ひねくれている」「扱いづらい」といった、ややネガティブなニュアンスを含んでしまうことがあります。
※目上の人に対して使うのは、文脈によっては失礼にあたる場合があるため注意が必要です。
類義語・関連語
「一筋縄ではいかない」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 曲者(くせもの):
一癖あって、一筋縄ではいかない油断できない人物。 - 難物(なんぶつ):
扱いにくく、処理や解決が非常に困難な物事や人。 - 海千山千(うみせんやません):
世間の裏表を経験し尽くして、一筋縄ではいかないほど悪賢いこと。 - 手強い(てごわい):
相手の力が強くて、容易には太刀打ちできない。
対義語
「一筋縄ではいかない」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 御しやすい(ぎょしやすい):
自分の思い通りに動かすことが簡単である。 - 扱いやすい(あつかいやすい):
素直であったり構造が単純だったりして、苦労せずに扱える。 - 朝飯前(あさめしまえ):
非常に簡単で、わずかな時間でできてしまうこと。
英語表現
「一筋縄ではいかない」を英語で表現する場合、以下の定型表現が使われます。
a tough nut to crack
手強い問題、または扱いにくい人。
「割るのが難しい硬い木の実」という直訳から転じて、解決の難しい問題や、一筋縄ではいかない手強い人を指します。
- 例文:
The new project turned out to be a tough nut to crack.
新しいプロジェクトは、一筋縄ではいかないものだと分かった。
not a pushover
容易には屈しない人。
「プッシュオーバー(簡単に倒せる相手)」ではないという意味から、一筋縄ではいかない人物であることを表します。
- 例文:
Our opponent in the next match is not a pushover.
次の試合の相手は、一筋縄ではいかない。
まとめ
「一筋縄ではいかない」という言葉は、目の前の壁が単なる高さだけでなく、複雑な構造や意志を持っていることを教えてくれます。
一本の縄で足りないのであれば、別の角度からアプローチを考えたり、より強固な準備を整えたりする必要があるかもしれません。
この言葉を知ることで、目の前の難問に対して安易な近道を探すのではなく、腰を据えてじっくりと向き合う視点が加わることでしょう。
それこそが、一筋縄ではいかない現実を切り拓くための、第一歩と言えるかもしれません。









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