「背中」「腰」「尻」は、体の後面や中心部に位置する部位です。
「背中」は、その人の後ろ姿や、時には隠れた努力を象徴し、「腰」は姿勢や行動の重さ(覚悟)を、「尻」は物事の後始末や緊急性を表すなど、それぞれが独特のニュアンスを持って使われます。
「背中を押す」「腰が低い」「尻に火がつく」「背水の陣」など、現代でも日常的に使われる表現が豊富で、背中・腰・尻にまつわる言葉は人間の行動や態度を巧みに表現しています。
ここでは、「背中」「腰」「尻」に関連する、主な言葉を紹介します。
「背中・腰・尻」に関する ことわざ
- 背に腹はかえられぬ(せにはらはかえられぬ):
大事な目的のためには、他のことは犠牲にしてもやむを得ないという意味。命に関わる内臓が収まる腹を、背中より優先して守った合戦の知恵に由来するとされる。
「背中・腰・尻」に関する慣用句
背中に関する表現
- 背中を押す(せなかをおす):
ためらっている人の決心を後押しし、行動へと向かわせる言い方。足がすくんで動けない相手の背に実際に手を当て、そっと押し出す仕草からきた表現。 - 背中を向ける(せなかをむける):
相手にそむき、関係や向き合う姿勢そのものを断つ様子。顔を見せる面を隠し、あえて背を見せる仕草は、拒絶や決別の意思表示として使われてきた。 - 背中合わせ(せなかあわせ):
互いに背を向け合った状態から、仲の悪さや、すぐ裏側にある位置関係を表す言い方。平安時代の『伊勢集』にもすでに登場する、由来の古い言葉。
腰に関する表現
態度・姿勢
- 腰が低い(こしがひくい):
他人に対してへりくだり、丁寧に接するさま。人と接するときに体の重心を低く落とす動きが、謙虚な心構えの比喩へと転じた言い方。
行動の軽重
- 腰が重い(こしがおもい):
なかなか行動を起こそうとしない様子。どっしり座り込んで立ち上がりにくい体の感覚が、腰を上げない性分の比喩になったとされる。 - 腰が軽い(こしがかるい):
すぐに行動へ移る、フットワークの軽さを表す言い方。「腰が重い」の対として生まれた表現で、女性に対しては軽率さを指す場合もある。 - 腰を上げる(こしをあげる):
行動を起こし、動き出す様子。座った姿勢から立ち上がる瞬間の動きを、物事に取りかかる最初の一歩に重ねた言い方。
真剣さ・覚悟
- 腰を据える(こしをすえる):
落ち着いて、じっくりと物事に取り組む様子。人を支える体の要である腰をどっしりと低く構え、動じない状態を保つ体勢を、心構えにたとえた表現。 - 腰を入れる(こしをいれる):
本気になり、真剣に事へ向き合う姿勢。剣術や柔道など武道で重視された正しい腰の構えに由来し、「本腰を入れる」の略とも言われる。
驚き・恐怖
- 腰が抜ける(こしがぬける):
非常な驚きや恐れで、立っていられなくなる様子。強い衝撃で下半身の力がふっと抜ける感覚を表し、室町時代の文献にもすでに見られる。 - 腰が砕ける(こしがくだける):
驚きや恐怖で立っていられなくなる様子。または色気のある、なまめかしい態度。相撲で技を受けていないのに体勢を崩す「腰砕け」が語源とされる。
その他
- 腰を折る(こしをおる):
話や物事の途中に割り込み、その勢いや流れを妨げる振る舞い。腰の骨折が歩行を止めるほど重大な事態になぞらえた言い方。
尻に関する表現
緊急性・慌てる
- 尻に火がつく(しりにひがつく):
物事が差し迫り、慌てふためく様子。江戸時代、頻発した火事で周囲が慌てて逃げ惑う姿を、尻に火がついた状態にたとえたという説がある。 - 尻を叩く(しりをたたく):
なまける相手を励ましたり、急がせたりする振る舞い。かつて子どものしつけとして、尻を打って行動を促した名残とされる言い方。 - 尻に帆をかける(しりにほをかける):
慌てて逃げ去る様子。走って逃げる際、ふんどしが風をはらんで膨らむ形を、船の帆に見立てた表現で、江戸時代の俳諧にも見られる。
後始末・責任
- 尻拭いをする(しりぬぐいをする):
他人がしでかした失敗の後始末を、代わりに引き受ける振る舞い。用を足した後に自分の尻をぬぐう行為になぞらえた言い方とされる。
関係性・支配
- 尻に敷かれる(しりにしかれる):
(主に夫が)妻に主導権を握られ、逆らえず言いなりになっている様子。相手を自分の下に敷くという体勢を、力関係の比喩にした表現。
行動・性格
- 尻が重い(しりがおもい):
なかなか行動を起こそうとしない性分。「腰が重い」と同様、座り込んだまま立ち上がりにくい体の様子を性格にたとえた言い方。 - 尻が軽い(しりがかるい):
行動が軽はずみな様子。または、異性ともすぐに関係を持つなど身持ちの軽さを指し、後者の意味では強い批判の意味合いを伴う。 - 尻馬に乗る(しりうまにのる):
深く考えず、他人の意見や行動に便乗する振る舞い。人が乗る馬の尻にただ乗りし、手綱も引かず後をついていく様子から生まれた。
正体が明らかになる
- 尻が割れる(しりがわれる):
隠していた悪事や本性が明るみに出る様子。「割れる」は正体が判明する意味で、この使い方は江戸時代の歌舞伎作品にもすでに見られる。 - 尻尾を出す(しっぽをだす):
隠していた本性やたくらみが露見する様子。人に化けたきつねやたぬきが、尻尾だけはどうしても隠しきれなかったという民話に由来する。 - 尻尾をつかむ(しっぽをつかむ):
隠された悪事や不正の、動かぬ証拠をつかむ様子。人に化けた動物の尻尾を捕まえ正体を暴くという、同じ民話のイメージに連なる言い方。 - 尻尾を巻く(しっぽをまく):
戦意を失い、降参して逃げ出す様子。強い相手に負けを悟った犬が、尻尾を丸めて服従を示す習性になぞらえた表現。
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