昨日まで顔を真っ赤にして口論していた二人が、翌日には何事もなかったかのように談笑している。
はたから見れば深刻でも、当人たちにとってはあっけなく終わるいざこざがあります。
そんな、他人が真面目に心配したり口出ししたりするべきではないもめごとを、
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」(ふうふげんかはいぬもくわぬ)と言います。
意味・教訓
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」とは、夫婦間の喧嘩は一時的な感情の衝突が多く、すぐに仲直りしてしまうため、他人が仲裁に入るようなものではないという教訓です。
当事者にとっては一大事でも、第三者からすれば「取るに足らないバカバカしいもの」であるという冷めた視線が含まれています。
他人の家庭の問題に首を突っ込むと、夫婦の怒りの矛先が自分に向いたり、後で自分だけが取り残されて馬鹿を見たりするため、静観するのが賢明であるという戒めです。
語源・由来
文献上の初出は、洒落本『狐竇這入』(1802年)に「ふうふげんくはは犬もくはぬとやら」という形で記録されており、江戸時代後期にはすでに広く使われていた言葉だったと考えられます。
「何でも食う犬でさえ見向きもしない」という比喩が、夫婦喧嘩の取るに足らなさを強烈に表しています。
人間の生活に最も近い動物だった犬を引き合いに出す発想は、庶民の身近な観察から生まれたものです。
使い方・例文
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」は、他人の夫婦喧嘩に対して「放っておくのが一番だ」と周囲をたしなめたり、喧嘩をした当事者が自分たちの言い争いの些細さを自嘲気味に表現したりする場面で使われます。
- 昨夜は離婚だなんだと騒いでいたが、今日は一緒に買い物に出かけている。まさに夫婦喧嘩は犬も食わぬだ。
- 隣の家から怒鳴り声が聞こえてきたが、夫婦喧嘩は犬も食わぬというし、そっとしておこう。
類義語・関連語
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 痴話喧嘩は犬も食わぬ(ちわげんかはいぬもくわぬ)
夫婦に限らず、恋人同士の他愛のない言い争いも、他人が口出しするようなものではないということ。 - 夫婦喧嘩と西風は夜に入って治まる(ふうふげんかとにしかぜはよにいっておさまる)
日中に強く吹く西風も夜にはピタリと止むように、派手な夫婦の喧嘩も夜になれば自然と収まるものだというたとえ。
英語表現
「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」を英語で表現する場合、以下のフレーズがよく使われます。
Lovers’ quarrels are soon mended.
直訳:恋人たちの喧嘩はすぐに直る(修復される)。
意味:男女の間の喧嘩はすぐに仲直りするものだから、他人が気にする必要はないという教訓。
- 例文:
Leave them alone. Lovers’ quarrels are soon mended.
彼らのことは放っておきなさい。夫婦喧嘩は犬も食わぬですよ。
Never interfere in a lovers’ quarrel.
直訳:恋人たちの喧嘩には決して干渉するな。
意味:他人の痴話喧嘩に首を突っ込むべきではないという直接的な戒め。
- 例文:
I want to help them, but never interfere in a lovers’ quarrel.
彼らを助けたいが、夫婦喧嘩は犬も食わぬと言うからな。
何でも食べる犬と、壁の薄い長屋の暮らし
この言葉が生まれた背景には、昔の日本における犬の立ち位置と、庶民の住環境が深く関係しています。
現代のように専用のドッグフードを与えられる愛玩動物ではなく、江戸時代ごろまでの犬の多くは、人間の残飯や道端のゴミをあさって生きる「町の清掃員」のような雑食の存在でした。
「何でも食べるあの犬ですら、不味くて見向きもしない」という極端な対比を用いることで、他人の痴話喧嘩のバカバカしさを強烈に皮肉っています。
また、長屋などで壁一枚を隔てて暮らしていた時代には、夫婦の揉め事は周囲に筒抜けでした。
この言葉は、過密な環境でご近所トラブルを避けるための「見ざる言わざる聞かざる」の知恵として、庶民の間で非常に重宝されたという側面があります。






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