定期テストの範囲が予想以上に広く、今から手をつけても到底間に合いそうにない。
かといって、このまま投げ出してしまえば進級に響いてしまう。
このように、前に進むことも後ろに下がることもできず、どうにもならない窮地に追い込まれた状況を、
「進退窮まる」(しんたいきわまる)と言います。
意味
「進退窮まる」とは、前進することも後退することもできなくなり、身動きが取れない状態になることを指します。
「進退」は進むことと退くこと、つまり身の振り方を意味し、「窮まる」は行き詰まって出口がなくなることを意味します。
単に困っているだけでなく、どのような選択肢を選んでも事態が好転しない、八方ふさがりの状況を表す際に使われる言葉です。
- 進退(しんたい):
進むことと退くこと。日頃の行動や、現在の立場における身の振り方のこと。 - 窮まる(きわまる):
行き止まりになる。極限に達して、それ以上どうしようもなくなること。
語源・由来
「進退窮まる」のルーツは、中国最古の詩集である『詩経』に記された「進退維谷」(しんたいいこく)という言葉にあります。
「維谷」とは「これ谷なり」と読み、前に行こうとすれば壁があり、後ろに下がろうとすれば深い谷があるという、逃げ場のない難所を例えたものです。
この表現が日本に伝わり、訓読される過程で、より切迫したニュアンスを持つ「窮まる」という言葉と結びついて定着しました。
古くから、進むも退くも地獄という極限の心理状態や、社会的に追い詰められた立場を象徴する言葉として使われてきた歴史があります。
使い方・例文
「進退窮まる」は、重大な責任を問われる場面から、友人関係の板挟みまで、幅広く使われます。
自分の意思だけではどうにもならない外圧によって、袋小路に追い込まれた文脈で用いるのが一般的です。
例文
- 喧嘩した友人同士の板挟みになり、どちらの味方もできず「進退窮まる」。
- 旅先で財布を盗まれ、帰る手段もなくなり進退窮まった。
- 納期目前でシステムがダウンし、担当者は「進退窮まる」事態となった。
文学作品での使用例
『三四郎』(夏目漱石)
主人公の三四郎が、都会の複雑な人間関係や恋愛の機微において、自分の立ち位置を見失い、戸惑う心理描写の中で用いられています。
彼は進退窮まったる姿をして、しばらく迷っていたが、やがて思い切ったように、戸を開けて中へ入った。
誤用・注意点
「しんたいきわまる」の「きわまる」には、「窮まる」と「極まる」の二つの漢字が使い分けられますが、注意が必要です。
困り果てるという意味では「窮まる」を使うのが正解です。
一方で、「感極まる」「卑怯極まる」のように、ある状態が最高潮に達する場合は「極まる」を使います。
「進退」については、進むことも退くことも「出口がない(窮する)」という意味が本質であるため、「進退窮まる」と書くのが本来の形です。
類義語・関連語
「進退窮まる」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 絶体絶命(ぜったいぜつめい):
追い詰められて、逃げ場のない困難な立場にあること。 - 八方塞がり(はっぽうふさがり):
どの方向へ進もうとしても障りがあり、打つ手がすべて封じられていること。 - 万事休す(ばんじきゅうす):
もはや施すべき手段がなく、すべてが終わったとあきらめる状態。 - 袋の鼠(ふくろのねずみ):
包囲されて逃げることができない状態。
対義語
「進退窮まる」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 自由自在(じゆうじざい):
自分の思う通りに、何の制限もなく物事を進められること。 - 縦横無尽(じゅうおうむじん):
思う存分、四方八方に活動してとどまるところを知らないこと。 - 快刀乱麻(かいとうらんま):
もつれた事態を、鮮やかかつ一気に解決すること。
英語表現
「進退窮まる」を英語で表現する場合、以下の慣用句が使われます。
be driven into a corner
「角に追い詰められる」
ボクシングのリングの隅(コーナー)に追い詰められた状態を指し、逃げ場のない窮地を表します。
- 例文:
The team was driven into a corner by the unexpected counterattack.
(予期せぬ反撃により、チームは進退窮まる状況に追い込まれた。)
between a rock and a hard place
「岩と硬い場所の間に挟まれて」
前にも後ろにも行けない、究極の板挟み状態を指す非常にポピュラーな表現です。
- 例文:
I’m between a rock and a hard place with these two job offers.
(二つの内定の間で、私は進退窮まっている。)
将棋やチェスに見る「進退」の知恵
ボードゲームの世界には、「進退窮まる」状況を戦略的に生み出す、あるいは回避する考え方があります。
例えばチェスには「ツークツワンク」という用語があります。
これは「動きたくないが、ルール上動かなければならず、動くと事態が悪化する」という、まさに進退窮まる状況を指します。
日常生活では、このような状況に陥る前に「あえて動かない(待つ)」という選択肢が有効なこともありますが、勝負の世界では強制的に動かされることで敗北が決まります。
この言葉は、私たちに「追い詰められる前の予防策」の重要性を教えてくれているのかもしれません。
まとめ
「進退窮まる」は、人生の岐路で誰もが経験する可能性のある、苦しい停滞を表す言葉です。
しかし、物理的な壁にぶつかり、進むことも退くこともできないと感じたときこそ、私たちは初めて「今までとは全く違う方向」に目を向けることができるようになります。
絶望的な窮地に立ったときこそ、この言葉を客観的な指標として思い出し、現状を冷静に見つめ直すことで、思いもよらない第三の道が見えてくることでしょう。







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