意味
「進退維谷(しんたいいこく)」とは、前進することも後退することも困難で、進退に窮することを意味する四字熟語です。
「進退窮まる」の語源となった言葉であり、どちらの道を選んでも悪い結果が予想されるような、八方ふさがりの窮地を指します。
- 進退(しんたい):
進むことと退くこと。行動や身の振り方。 - 維(これ):
語調を整える助字で、それ自体に意味はない。 - 谷(きわまる):
行き詰まること。地形の谷ではない。
「進退これ谷まる」と読み、進むことも退くこともできずに行き詰まった状態を表す構成になっています。
語源・由来
「進退維谷」は、中国最古の詩集『詩経』の大雅(たいが)にある詩の一節から出た言葉です。
詩の中では、厳しい政情や社会の混乱によって、民衆が逃げ場を失い、追い詰められていく様子が描かれました。
「谷」は地形の谷ではなく、注釈に「谷は窮なり」とあるとおり「行き詰まる」の意味で用いられています。
この言葉が日本に伝わり、後に「進退窮まる」という訓読した形で広く使われるようになりました。
「進退維谷」のほうは、今も改まった文章や文学的な言い回しで使われています。
使い方・例文
「進退維谷」は、日常のちょっとした悩みよりも、人生を左右するような重大な局面や、どちらを選んでも痛みを伴うような「究極の選択」を迫られたときに使います。
例文
- 友情か恋か、どちらを選んでも誰かを傷つける進退維谷の状況だ。
- A案は予算が足りず、B案は納期が合わない。まさに進退維谷の難題だ。
- 反対を押し切って夢を追うか安定を選ぶか、彼は進退維谷の思いで悩み抜いた。
誤用・注意点
「進退維谷」の「維」は、音の似た「惟」や「遺」と書き間違えやすい字です。
本人に向かって「部長は進退維谷ですね」などと言うと、相手を袋小路に追い込まれた惨めな状況だと評することになり、非常に失礼にあたります。
類義語・関連語
「進退維谷」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 進退窮まる(しんたいきわまる):
前にも後ろにも行けず、どうにもならない状態になること。 - 絶体絶命(ぜったいぜつめい):
追い詰められて、逃げ場のない困難な立場にあること。 - 四面楚歌(しめんそか):
周囲がすべて敵や反対者ばかりで、助けがなく孤立していること。 - 暗雲低迷(あんうんていめい):
悪い状態が続き、好転の兆しが見えないこと。
対義語
「進退維谷」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 自由自在(じゆうじざい):
自分の思う通りに、何の制限もなく活動できること。 - 快刀乱麻(かいとうらんま):
複雑に絡み合った問題を、鮮やかに一気に解決すること。 - トントン拍子:
物事が滞りなく、非常に順調に進んでいく様子。
英語表現
「進退維谷」を英語で表現する場合、次のような言い方があります。
between the devil and the deep blue sea
「悪魔と深い青い海の間で」
前には恐ろしい悪魔、後ろには深い海。どちらに転んでも破滅が待っているという、究極の二択を迫られた状況を表します。
Choosing between a pay cut and a layoff is being between the devil and the deep blue sea.
(減給か解雇かの選択は、まさに進退維谷の状況だ。)
in a dilemma
「ジレンマに陥っている」
相反する二つの事柄の間で板挟みになり、どちらも選べずに困惑している状態を指す一般的な表現です。
He was in a dilemma about whether to stay or leave.
(彼はとどまるべきか去るべきか、進退維谷の板挟みになっていた。)
『詩経』は進退維谷を「人の言」として引いている
原文は『詩経』大雅「桑柔」の次の一節です。
瞻彼中林,甡甡其鹿。朋友已譖,不胥以穀。人亦有言:進退維谷。
(あの林の中を見れば、鹿が群れ集まっている。それなのに友どうしはそしり合い、互いに善くしようとしない。人も言うように、進むも退くも窮まった。)
「人亦有言」(人もまた言っている)とあるとおり、詩の作者は「進退維谷」を世の言い習わしとして引いています。
「維」は語調を整える助字で、それ自体に意味はありません。
「谷」については、古い注釈である毛伝に「谷は窮なり」とあります。
地形の谷ではなく「行き詰まる」という意味で使われており、進むことも退くこともできない状態を表した句です。











コメント