意味
「天高く馬肥ゆる秋(てんたかくうまこゆるあき)」とは、空が澄み渡って高く感じられ、馬も食欲を増して肥えてたくましくなる、秋の極めて過ごしやすい気候を指します。
手紙の時候の挨拶として用いられるほか、実りの秋や食欲の秋を表現する際にもよく使われる言葉です。
語源・由来
「天高く馬肥ゆる秋」の直接の語源は、初唐の詩人・杜審言(としんげん、645〜708年、杜甫の祖父)が、突厥(とっけつ)征討に従軍する友人へ贈った漢詩『贈蘇味道』の中で詠んだ「秋高くして塞馬(さいば)肥ゆ」という一節です。
「馬が肥える秋は異民族の襲来に備えるべき時期」という発想自体はこれより古くからあり、前漢の武将・趙充国は、羌(きょう)族の反乱を警戒する上奏文の中で「秋に至り馬肥ゆれば、変必ず起こらん」と述べています。
なお原詩の表現については、古くから「秋高」と記すものと「秋深」と記すものとで写本によって異なっており、日本では「秋高」の表現が広く定着しています。
本来は北辺の厳しい警句でしたが、日本に伝わってからは殺伐とした意味合いが薄れ、現在では秋の豊かな情景を愛でる言葉として定着しています。
使い方・例文
「天高く馬肥ゆる秋」は、手紙の時候の挨拶や、秋の行楽、食欲について語る場面で使われます。
- 天高く馬肥ゆる秋、校庭には運動会の練習に励む子供たちの声が響く。
- 拝啓、天高く馬肥ゆる秋、皆様におかれましてはご清祥のこととお慶び申し上げます。
- ついつい食べ過ぎてしまうのは、天高く馬肥ゆる秋のせいかもしれない。
誤用・注意点
「馬肥ゆる」という部分から、単に「自分が太ること」の言い訳や自虐として使われることがありますが、本来は澄んだ空(天高く)とセットの情景描写です。
個人的な体重の変化だけを指して使うのは、言葉の本来持つ情緒を損なう場合があるため注意しましょう。
類義語・関連語
「天高く馬肥ゆる秋」と似た意味を持つ言葉には、秋の気候や豊かさを表す四字熟語や慣用句があります。
- 秋高気爽(しゅうこうきそう):
秋の空が高く晴れ渡り、空気が爽やかで心地よいこと。 - 灯火親しむべし(とうかしたしむべし):
秋は夜が涼しく過ごしやすいため、明かりを灯して読書をするのに適しているということ。 - 秋晴れ(あきばれ):
秋の澄み渡った晴天のこと。
対義語
「天高く馬肥ゆる秋」とは対照的な、秋の物悲しさや変化の速さを表す言葉には、以下のようなものがあります。
- 秋の日は釣瓶落とし(あきのひはつるべおとし):
秋の日は、井戸に桶を落とすようにあっという間に暮れてしまうということ。
『明史』にも出てくる「秋高馬肥」
杜審言の「秋高くして塞馬肥ゆ」から「塞」を除いた四字「秋高馬肥」は、明の時代の上奏文にも出てきます。
『明史』の曾銑伝によると、北辺の軍務を率いていた曾銑は、河套(= 黄河が大きく北へ曲がる内側の地域)を拠点に百年近く侵入を繰り返していたモンゴルの勢力について上奏しました。
その中で、「秋高馬肥,弓矢勁利」(秋は空が高く馬が肥え、弓矢も強い)の時期に相手が集まって攻めてくれば、散らばって守る明の側が負けると述べています。














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