目の前の物事に、自分の持てる力すべてを注ぎ込みたい。
あるいは、誰かが一心不乱に打ち込む姿を見て心を打たれた。
そんな、肉体も精神も限界まで使い切るような真剣な姿勢を表現する言葉として、
「全身全霊」(ぜんしんぜんれい)があります。
意味
「全身全霊」とは、その人の持っている体力と精神力のすべて、という意味です。
転じて、ある物事に自分の心身のありったけを捧げることを指します。
この四字熟語は、以下の二つの要素から成り立っています。
- 全身(ぜんしん):体全体。持っている体力すべて。
- 全霊(ぜんれい):精神のすべて。魂のすべて。
単に「頑張る」というレベルを超え、文字通り「身も心もすべて」を投げ出して取り組む、並々ならぬ決意や熱量を表す言葉です。
語源・由来
「全身全霊」の由来は、特定の歴史的な物語や中国の古典(故事成語)にあるわけではありません。
「体全体」を意味する「全身」と、「精神すべて」を意味する「全霊」という二つの言葉を組み合わせ、意味を強めた表現として定着しました。
ここでの「霊」は、幽霊やお化けのことではなく、「肉体に宿る精神」「魂」「優れた不思議な働き」を意味します。
つまり、目に見える「体」と、目に見えない「心」。その両方を総動員する様子を表しています。
使い方・例文
「全身全霊」は、並外れた努力や献身が必要な場面で使われます。
日常のちょっとした手伝いなどで使うと大げさになりますが、スポーツの試合、重要な仕事、創作活動、あるいは誰かへの深い愛情を示す際など、ここぞという勝負所や決意表明として好んで用いられます。
例文
- この大会が高校生活最後だ。悔いのないよう全身全霊を傾けて戦い抜こう。
- 彼はこの小説の執筆に全身全霊を注ぎ込み、書き終えると同時に倒れ込んでしまった。
- お客様の信頼に応えるため、全身全霊でサポートさせていただきます。
文学作品・メディアでの使用例
『小さき者へ』(有島武郎)
大正時代の作家、有島武郎が幼くして母を亡くした我が子へ向けて書いた随筆には、親としての切実な愛情が記されています。
私は全身全霊を挙げて、お前達のその成育を祈る。(中略)
お前達は、不幸にして母の愛を知らない。併し母の愛を知らないということが、お前達の将来に、決して暗い影を投げるものでないことを、私は確信する。
類義語・関連語
「全身全霊」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
いずれも「全力を尽くす」という点では共通していますが、ニュアンスに若干の違いがあります。
- 一生懸命(いっしょうけんめい):
本来は「一所懸命」。命がけで物事に取り組むこと。日常会話で最も広く使われる表現です。 - 誠心誠意(せいしんせいい):
私利私欲を捨て、相手や物事に対して真心を持って尽くすこと。「誠実さ」に重きが置かれます。 - 粉骨砕身(ふんこつさいしん):
骨を粉にし、身を砕くほどに努力すること。「全身全霊」よりも肉体的な苦労や激しさが強調されます。 - 一意専心(いちいせんしん):
他のことには目もくれず、一つのことだけに心を集中させること。 - 全力投球(ぜんりょくとうきゅう):
野球用語から転じ、あらゆる物事に持てる力のすべてを出してぶつかること。
対義語
「全身全霊」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 適当(てきとう):
本来は「ふさわしい」という意味ですが、現代では「いいかげん」「手抜き」という意味で対義語として扱われます。 - 無気力(むきりょく):
何かを行おうとする意欲や気力が欠けていること。 - 中途半端(ちゅうとはんぱ):
物事が完成していない状態、または態度が徹底していないこと。
英語表現
「全身全霊」を英語で表現する場合、心と体の両方を示すフレーズがよく使われます。
body and soul
- 意味:「身も心も」「全身全霊」
- 解説:日本語の構成と全く同じ発想の表現です。
- 例文:
He devoted himself to the project body and soul.
(彼はそのプロジェクトに全身全霊を捧げた。)
with all one’s might
- 意味:「全力を挙げて」
- 解説:”might” は「力」や「権力」を意味します。力一杯取り組む様子を表します。
- 例文:
I will try with all my might.
(全身全霊で取り組みます。)
「霊」の文字が持つニュアンス
「全身全霊」の「霊」という字を見て、少し怖いイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、この言葉における「霊」は、英語の「Spirit(スピリット)」や「Soul(ソウル)」に近い、「精神」「気力」「魂」といったポジティブで根源的なエネルギーを指しています。
「霊長類(レイチョウルイ)」という言葉が「優れたもの」を意味するように、かつては人間の中に宿る「神聖で優れた働き」を「霊」と表現しました。
つまり「全身全霊」とは、単に汗をかいて頑張るだけでなく、「自分の魂そのものを賭けて挑む」という、非常に崇高で重みのある言葉なのです。
まとめ
「全身全霊」とは、自分の持っている体力と精神力のすべてを、一つの物事に注ぎ込むことを意味します。
何かを成し遂げたい時、あるいは誰かのために尽くしたい時、中途半端な力ではなく「身も心もすべて」を捧げる覚悟を表すのに、これほど適した言葉はありません。
ここぞという場面での決意表明として、この言葉を胸に刻んでおくとよいことでしょう。



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