意味
「雌伏(しふく)」とは、実力をたくわえながら、活躍できる機会が来るまでじっと待つという意味です。
もとは、人に屈服して従うという意味の言葉でした。
今は、置かれた立場にとどまったまま、次の出番に備えている様子をいうのがふつうです。
- 雌(し):めす。ここでは雌鳥のこと。
- 伏(ふく):ひれふす。下になって従う。
語源・由来
この言葉は、雌鳥が雄鳥に従うという意味から来ています。
中国の歴史書『後漢書』の趙温の記録にも、この語が出てきます。
趙温は後漢の終わりごろの人で、はじめは京兆の丞(= 都を治める役所の次官)を務めていました。
その職にあったとき、ため息をついて言った言葉が、次のように記されています。
嘆曰:『大丈夫當雄飛,安能雌伏!』遂棄官去。
(ため息をついて「一人前の男なら雄飛すべきだ。どうして雌伏などしていられようか」と言い、そのまま官職を捨てて去った。)
趙温にとって雌伏は、人の下に甘んじる、避けたい生き方でした。
現在では、力をためて機会を待つという前向きな意味で使われることが多くなっています。
使い方・例文
名詞として使うほか、「雌伏する」の形で動詞としても使います。
- 二軍で三年間雌伏した彼が、ついに開幕投手を任された。
- 今は雌伏の時だと考え、資格の勉強に打ち込んでいる。
- 長い雌伏を経て、あの劇団は大劇場での公演を実現した。
類義語・関連語
先の目的のために、すぐには動かずに耐える点で重なる語です。
- 隠忍自重(いんにんじちょう):
苦しみや怒りをじっとこらえ、軽はずみな行動をしないこと。 - 臥薪嘗胆(がしんしょうたん):
目的を果たすため、長いあいだ苦労を重ねること。もとは、仇を討つ志を忘れないよう身を苦しめた故事から。
対義語
- 雄飛(ゆうひ):
大きな志をいだき、勢いよく活躍すること。趙温の言葉でも雌伏と対にされた語。
英語表現
bide one’s time
好機が来るまで待つこと。
She decided to bide her time until the right job came along.
(ふさわしい仕事が見つかるまで、彼女は時機を待つことにした。)
曹操の息子を招いて免職、趙温の晩年
官職を捨てた趙温は、その後、大飢饉のときに家の食糧を分け与え、一万人あまりを救ったと『後漢書』に記されています。
やがて朝廷に戻り、司空・司徒という最高位の官を務めて、かつて口にした「雄飛」を果たしました。
ところが建安十三年(208年)、曹操の息子の曹丕(のちの魏の初代皇帝)を部下の役人に招いたところ、曹操は「臣下の子弟を招き、人選が公正でない」と訴え、趙温は職を解かれました。
趙温はその年に七十二歳で亡くなっています。

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