誰かを助けるために、あるいは自分を実力以上に見せようとして、つい小さな嘘をついてしまうことがあります。
その場はしのげても、矛盾を隠すためにまた別の嘘を重ね、いつの間にか身動きが取れなくなってしまう。
そんな、自分の言動によって自分自身の自由を奪ってしまう状況を、
「自縄自縛」(じじょうじばく)と言います。
意味・教訓
「自縄自縛」とは、自分の言動や心がけが原因で、自分自身の身動きが取れなくなり苦しむことを指します。
他人に縛られるのではなく、あくまで自分自身が生み出したルールや嘘、こだわりによって、自分の首を絞めてしまう状態を比喩的に表現した言葉です。
- 自(じ):自分自身で。
- 縄(じょう):縄をなう。転じて、原因となるものを作ること。
- 自(じ):自分自身を。
- 縛(ばく):縛り上げる。自由を奪うこと。
単に物理的な制約だけでなく、精神的なこだわりやプライドによって、新しい一歩が踏み出せなくなるような心理状態にも使われます。
語源・由来
「自縄自縛」の由来は、文字通り「自分の編んだ縄で、自分自身を縛り上げる」という情景にあります。
この言葉は、仏教の教典である『止観』などに記された思想が背景にあるとされています。
本来は、人間は自分の妄想や執着という縄によって、自らを縛り、悟りの邪魔をしているという教えを説くものでした。
自分で自分を不自由な境遇に追い込んでいる滑稽さや、逃げ場のない苦しさを表しています。
古くから日本でも、自分の言ったことが裏目に出る状況を戒める言葉として広く定着しました。
現在では、組織の古いルールに縛られるビジネスシーンから、意地を張って素直になれない家庭内のやり取りまで、幅広く用いられています。
使い方・例文
「自縄自縛」は、後悔や反省のニュアンスを含んで使われることが多い言葉です。
自らの過失や頑固さが招いた袋小路の状態を説明する際に適しています。
例文
- 嘘を重ねた結果、彼は自縄自縛に陥り、真実を話す機会を失った。
- 自分が作った厳格なルールで自縄自縛になり、家事が全く終わらない。
- 完璧主義にこだわりすぎて、締め切り直前に自縄自縛の状態となった。
- 過去の栄光に固執し、新しい挑戦ができず自縄自縛に苦しんでいる。
文学作品での使用例
『道草』(夏目漱石)
主人公の健三が、複雑な人間関係や金銭問題、そして自分自身の性格によって精神的に追い詰められていく様を描く中で、この言葉が登場します。
彼は全く自縄自縛の形であった。自分でもそれが分り切っていた。
誤用・注意点
「自縄自縛」と混同されやすい言葉に「自業自得」がありますが、ニュアンスには明確な違いがあります。
「自業自得」との違い:
「自業自得」は、悪い行いをした結果として報いを受けるという因果応報に焦点が当たります。
対して「自縄自縛」は、自分の言動によって「身動きが取れない」「自由がない」という拘束された状態を強調する言葉です。
また、相手を責める際に「それは自縄自縛だ」と言うのは、非常に突き放した印象を与えます。
本人が苦悩している状況を指すことが多いため、目上の人に対して使うのは失礼にあたる可能性があり、注意が必要です。
類義語・関連語
「自縄自縛」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 身から出た錆(みからでたさび):
自分の犯した悪行が原因で、自分自身が苦しむこと。 - 墓穴を掘る(はかあなをほる):
相手を陥れようとして、かえって自分が破滅する原因を自ら作ること。 - 自分で自分の首を絞める(じぶんでじぶんのくびをしめる):
自分の言動が原因で、後の自分の立場を苦しくしてしまうこと。 - 作法自縛(さほうじばく):
自分が作った法や規則に、自分自身が縛られて苦しむこと。
対義語
「自縄自縛」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
英語表現
「自縄自縛」を英語で表現する場合、以下のような定型句が使われます。
Be caught in one’s own trap
「自分自身の罠にかかる」
自分の策略や嘘によって、自分自身が窮地に立たされる状況を指します。
- 例文:
He lied to impress her, but he was caught in his own trap when she asked for details.
(彼は彼女にいい格好をしようと嘘をついたが、詳しく聞かれて自縄自縛に陥った。)
Stew in one’s own juice
「自らの肉汁で煮込まれる」
自分のしたことの結果として、自業自得の苦しみを味わうという意味の口語表現です。
- 例文:
If he won’t listen to our advice, let him stew in his own juice.
(彼がアドバイスを聞かないなら、自縄自縛にさせておけばいい。)
こだわりが「縄」に変わる時
「自縄自縛」に陥る原因は、必ずしも悪意や嘘だけではありません。
「こうあるべきだ」という強い正義感や、過去の成功体験へのこだわりが、いつの間にか自分を縛る縄に変わってしまうことがあります。
例えば、家事を完璧にこなそうとするあまり、家族との団らんの時間を削ってまで掃除を続けてしまう。
あるいは、部下に任せることができず、自分で全てを抱え込んでパンクしてしまう。
これらも一つの「自縄自縛」と言えるでしょう。
この言葉は、自分を縛っているのは他ならぬ自分自身であると気づかせてくれます。
もし息苦しさを感じたなら、自分がどんな縄を編んでしまったのかを一度見つめ直し、その結び目を少し緩めてみることが大切かもしれません。
まとめ
自分の言動が原因で、八方塞がりになってしまう「自縄自縛」。
日々の生活の中で、私たちは無意識に自分を縛るルールを増やしてしまいがちです。
しかし、その縄を解くことができるのもまた、自分自身に他なりません。
言葉の本来の教訓を知ることで、客観的に自分の状況を捉え直すきっかけになることでしょう。
窮屈な縄をほどき、もっと柔軟に毎日を過ごしたいものですね。







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