矍鑠

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慣用句 故事成語
矍鑠
(かくしゃく)

5文字の言葉か・が」から始まる言葉

地域の早朝マラソンで軽快な足取りを見せる高齢者や、定年後も知的好奇心を失わず、若者に混じって新しい技術の習得に励む人がいます。
周囲が思わず「本当にお元気ですね」と声をかけると、背筋を伸ばしてにこやかに応える。
そんな、年をとっても心身ともに丈夫で、活力に満ち溢れている様子を、「矍鑠」(かくしゃく)と言います。

意味

「矍鑠」とは、年をとっても身体が丈夫で、気力がきわめて盛んな様子を指す言葉です。

単に病気をしていないという状態だけでなく、内側から溢れ出るような精神的な若々しさや、目に宿る力強さを含んだ表現として使われます。
現代における「生涯学習」の精神を体現し、常に新しい刺激を受け入れようとする姿勢が、外見的な活力となって現れている状態とも言えるでしょう。

  • (かく):きょろきょろと目を見張る、あるいは鳥が驚いて飛び立とうとする様子。
  • (しゃく):光り輝く、あるいは金属を溶かすほどの強い熱。

これらが組み合わさり、「目が鋭く光り、輝くような生命力を持っている」という意味を形作っています。

語源・由来

「矍鑠」の由来は、中国の歴史書『後漢書』の「馬援伝(ばえんでん)」に記されたエピソードにあります。

後漢時代の名将、馬援(ばえん)は、60歳を過ぎてなお現役の武人としての誇りを持っていました。
ある時、遠方の反乱を鎮圧するために従軍を志願した馬援に対し、皇帝である光武帝は「あなたはもう年だ」と一度は断ります。

しかし馬援は諦めず、皇帝の前で鮮やかに馬に飛び乗り、鎧を着こなして、鋭い眼光で気勢を上げました。
その衰えぬ勇姿を目の当たりにした光武帝は、感嘆してこう言いました。
「矍鑠たるかな、この翁(おきな)は(なんと元気でしゃきっとしているおじいさんだろうか)」

この言葉が、元気な高齢者を称える最高の褒め言葉として語り継がれ、現代にまで至っています。

使い方・例文

「矍鑠」は、目上の高齢者に対する尊敬と称賛を込めて使われる言葉です。
主に「矍鑠としている」「矍鑠とした姿」といった形で用いられます。

例文

  • 90歳になる私の祖父は、今も矍鑠として毎朝の畑仕事を欠かさない。
  • 定年後に大学に入学し直した彼は、矍鑠とした足取りでキャンパスに通っている。
  • あの作家は100歳を超えてなお矍鑠とした筆致で新作を書き上げている。

誤用・注意点

「矍鑠」は、加齢という事実を前提とした言葉です。
そのため、まだ「高齢」と呼ぶには早い世代(50代や60代前半など)に対して使うと、相手を老け込ませたような印象を与え、失礼にあたることがあります。

また、本人が「自分はまだ若い」と強く自負している場合も注意が必要です。
「矍鑠」はあくまで第三者から見た敬意の表現であり、本人に対して直接使うよりは、その人の素晴らしさを周囲に語る場面や、公式な場での紹介として用いるのが最も適しています。

類義語・関連語

「矍鑠」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。

  • 老当益壮(ろうとうえきそう):
    歳をとればとるほど、ますます意気盛んでなければならないという意味。
    「矍鑠」の由来となった馬援将軍自身が掲げた信念であり、不屈の精神(老当益壮)が外見(矍鑠)として現れるという表裏一体の関係にあります。
  • 壮健(そうけん):
    体が丈夫で元気なこと。
    『魏志(ぎし)』などの古典にも見られる古い言葉です。
    年齢を問わず使われますが、高齢者に対して用いる際は「お達者」に近い、安定した健康状態を祝うニュアンスが含まれます。
  • 軒昂(けんこう):
    意気が高く、勢いが盛んな様子。
    「意気軒昂(いきけんこう)」として知られ、もともとは高くそびえる建物の屋根のように、内面から湧き出る自信や活力が外に溢れている状態を指します。

対義語

「矍鑠」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。

  • 衰老(すいろう):
    年をとり、心身ともに衰え弱ること。
    平安時代の文学から現代まで、加齢に伴う自然な衰退や気力の減退を客観的に示す言葉として古くから実在します。
  • 耄碌(もうろく):
    年をとって心身が衰え、思考がぼんやりすること。
    江戸時代の滑稽本『醒睡笑(せいすいしょう)』などにも登場し、気力の源泉である「矍」の輝きを失った状態を指す、やや否定的なニュアンスを含む言葉です。
  • 老いぼれる
    年をとって心身の働きが鈍り、判断力や体力が著しく衰えること。
    「ぼれる」は「惚れる(呆ける)」から転じたとされ、周囲の助けが必要なほど活力を失った状態を指す俗語的な表現です。

英語表現

「矍鑠」を英語で表現する場合、以下のようなフレーズがあります。

Hale and hearty

「(高齢者が)かくしゃくとして、意気盛んな」
健康で血色が良く、非常に元気な高齢者を称える際によく使われる、最も「矍鑠」に近い慣用表現です。

  • 例文:
    Despite his age, he is still hale and hearty.
    彼は高齢にもかかわらず、今も矍鑠としている。

Spry

「(高齢者が)元気に動く、しゃきしゃきした」
年齢のわりに動作が機敏で、はつらつとしている様子を表す口語的な表現です。

  • 例文:
    My grandfather is very spry for an 80-year-old.
    祖父は80歳にしては非常に矍鑠としていて、動きが軽い。

馬援が証明した「心の持ちよう」

「矍鑠」という言葉を生んだ馬援のエピソードには、続きがあります。
彼が光武帝の前で馬に飛び乗った際、実はすでに病を患っていたという説もあります。

それでも彼がこれほどまでに力強く見えたのは、彼が「男たるもの、戦場で死ぬのが本望だ」という強烈な目的意識を持っていたからに他なりません。
現代の心理学においても、明確な目標や「生涯学習」への意欲を持つことが、脳や身体の若々しさを保つ鍵であると言われています。

馬援の「矍鑠」たる姿は、単なる肉体の強さではなく、強い意志がいかに肉体を凌駕し、人を輝かせるかという事実を、約2000年も前に証明していたのです。

まとめ

「矍鑠」(かくしゃく)という言葉は、私たちに「輝くような老い」という理想の姿を示してくれます。
歳を重ねることは、決して枯れていくことではなく、内面の充実を活力に変えていくプロセスです。

学びを止めず、常に新しいことに挑戦し続ける心があれば、誰しもが馬援のように「矍鑠」とした輝きを放つことができるはずです。
この言葉を目標に、いくつになっても瑞々しい感性を持ち続けたいものですね。

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