意味
「案ずるより産むが易し(あんずるよりうむがやすし)」とは、始める前はあれこれ心配して不安になるものだが、実際にやってみると、思っていたよりもずっと簡単にできるという意味です。
「案ずる」は「心配する」「あれこれ考える」という意味であり、この言葉は、過剰な心配を捨ててまずは行動してみることの大切さを説いています。
語源・由来
「案ずるより産むが易し」は、もとはお産について言った言葉が、物事全般のたとえに広がったものです。
使い方・例文
やる前から不安で動けない場面や、日常のちょっとした億劫な作業に対して使われます。
- 難しいと思っていた手芸も、案ずるより産むが易しで半日で完成した。
- 行きにくいと思っていたご近所への挨拶も、行ってみれば案ずるより産むが易しだった。
- プレゼンを怖がっていた彼だが、終わってみれば案ずるより産むが易しと笑っている。
誤用・注意点
この言葉は、あくまで「本人の不安」に対する励ましとして使われます。
そのため、他人が重大な決断(大きな借金や危険な挑戦など)をしようとしている時に「案ずるより産むが易しだよ」と使うと、「無責任だ」「リスクを軽視している」と不快感を与えてしまう可能性があります。
相手が慎重に検討している物事に対して使うのは控えるべきです。
また、「産む」を「生む」と書くのは間違いではありませんが、一般的には「出産」の意である「産む」が定着しています。
類義語・関連語
「案ずるより産むが易し」と似た意味を持つ言葉には、行動を促す力強い教訓が多く存在します。
- 習うより慣れろ(ならうよりなれろ):
人から教わるよりも、自分で実際に体験して慣れる方が早く身につく。 - 百聞は一見に如かず(ひゃくぶんはいっけんにしかず):
何度も人から聞くより、一度自分の目で見る方がはるかに確実であること。 - 論より証拠(ろんよりしょうこ):
あれこれ議論を重ねるよりも、目の前の事実を示す方が物事ははっきりする。
対義語
「案ずるより産むが易し」とは対照的な意味を持つ言葉は、慎重さや備えの重要性を強調しています。
- 石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる):
堅牢な石橋であっても叩いて安全を確かめるように、非常に用心深く物事を行うこと。 - 転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ):
失敗しないように、前もって十分な準備や用心をしておくこと。 - 念には念を入れよ(ねんにはねんをいれよ):
注意した上にも、さらに注意を重ねて万全を期すべきである。
英語表現
「案ずるより産むが易し」を英語で表現する場合、次のような言い方があります。
Fear is often greater than the danger
直訳は「恐怖はしばしば、実際の危険よりも大きい」です。
取り越し苦労であることを強調する際に使われます。
I was terrified of the surgery, but fear is often greater than the danger.
(手術が怖くてたまらなかったが、案ずるより産むが易しだった。)
谷崎の『卍』では告白の決心に使われた
かつては「産は女の大厄」「産は女の命定め」ともいい、出産は大きな危険を伴うものでした。
「案ずるより産むが易し」は、不安にかられがちな妊婦を支え、励ます言い方だったとみられています。
近代の用例の多くは、出産とは関係のない比喩です。
谷崎潤一郎の小説『卍』(雑誌『改造』に1928〜1930年連載)では、語り手の園子が、夫に隠していたことをすべて打ち明けようと腹を決める場面に、大阪言葉の形で出てきます。
もうこないなったら隠し立てしたかてしょうがない、(略)ひょッとしたら案じるより生むが易うて、どんなうまいことあるかも分れへんと、すっくり腹きめてましたのんで
(もうこうなったら隠していてもしかたがない。ひょっとしたら、心配するより打ち明けてしまうほうがたやすくて、思いのほかうまくいくかもしれないと、すっかり腹を決めていたので)
「案ずる」が「案じる」、「易し」が「易うて」と話し言葉の形になり、「産む」は「生む」の字で書かれています。
出産の場面ではなく、打ち明け話の決心に「案ずるより産むが易し」が使われている例です。














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