予期せぬ出来事に遭遇したとき、人は驚きのあまり声も出ず、ただ目を丸くしてしまうことがあります。
そんな、あっけにとられた様子を、愛嬌のある鳥の反応に例えてユーモラスに表現した言葉が、
「鳩が豆鉄砲を食ったよう」です。
意味・教訓
「鳩が豆鉄砲を食ったよう」とは、思いがけない出来事に驚き、きょとんとしてしまう様子のたとえです。
単に「びっくりした!」と叫ぶような動的な驚きではなく、あまりの意外さに思考が停止し、目を丸くして呆気(あっけ)にとられるという、静的で少し滑稽(こっけい)なリアクションを指します。
- 鳩(はと):平和の象徴として親しまれる鳥。
- 豆鉄砲(まめでっぽう):豆を弾として飛ばす昔の子供のおもちゃ。
語源・由来
「鳩が豆鉄砲を食ったよう」の由来は、鳩がおもちゃの「豆鉄砲」で撃たれたときのリアクションにあります。
昔、子供たちが豆鉄砲で鳩を狙って遊んでいた頃のことです。鳩にとって豆は本来「大好物のエサ」です。
しかし、その好物が突然すごい勢いで飛んできて自分の体に当たったため、鳩は「痛い」というよりも「一体何が起きたんだ?」と状況が理解できず、目を丸くして固まってしまいました。
この驚いてきょとんとしている愛嬌のある表情が、予期せぬ出来事に呆然とする人間の顔つきと似ていたことから、この言葉が定着しました。
使い方・例文
「鳩が豆鉄砲を食ったよう」は、主に相手の表情や反応を描写する際に使われます。
重大な事故や不幸に対して使うのは不謹慎であり、日常の「へえ!」「まさか!」といった驚きのシーンや、冗談のようなハプニングに対して使うのが一般的です。
例文
- テストの範囲が変更されたと聞き、クラス全員が「鳩が豆鉄砲を食ったよう」な顔を見合わせた。
- 普段は厳しい父が冗談を言ったので、母は「鳩が豆鉄砲を食ったよう」に口を開けて固まってしまった。
- サプライズパーティーの会場に入った瞬間、主役の彼は「鳩が豆鉄砲を食ったよう」に立ち尽くしていた。
文学作品での使用例 『南京虫殺人事件』
令嬢は鳩が豆鉄砲くらったように目をパチパチさせたが、百合子をやさしく睨んで
坂口安吾「南京虫殺人事件」
解説:予期せぬ指摘を受け、令嬢が驚いて目を瞬かせる様子が描かれています。
※作中では「くらった」と表現されています。
誤用・注意点
「食らった」か「食った」か
本来の正しい言い方は「豆鉄砲を食(く)ったよう」です。
しかし、攻撃を受けるという意味の「食(く)らわす」との混同から、「豆鉄砲を食(く)らったよう」と言う人も多く、現在では許容される傾向にあります。実際、上記の坂口安吾の作品のように、古くから「くらった」も使われていますが、辞書的な正解は「食った」であることを覚えておきましょう。
深刻な場面では避ける
「豆鉄砲」という言葉の響きや、「きょとんとする」というニュアンスには、どこか間の抜けた滑稽さが含まれます。そのため、深刻な謝罪の場や、相手が真剣に怒っている場面で「鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしないでください」と言うと、火に油を注ぐことになりかねません。
類義語・関連語
「鳩が豆鉄砲を食ったよう」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 呆気にとられる(あっけにとられる):
意外なことに出会って驚き、呆然とすること。「鳩が豆鉄砲」よりも幅広いシチュエーションで使えます。 - 目を丸くする(めをまるくする):
驚いて目を見張ること。身体的な反応に焦点を当てた表現です。 - 唖然とする(あぜんとする):
驚きのあまり言葉が出ない様子。やや硬い表現です。 - 狐につままれたよう(きつねにつままれたよう):
訳が分からず、ぼんやりとした様子。「驚き」よりも「不思議だ」という感情が強い場合に適しています。
→狐につままれる
対義語
「鳩が豆鉄砲を食ったよう」とは対照的な意味を持つ言葉は、驚かずに落ち着いている様子を表します。
英語表現
「鳩が豆鉄砲を食ったよう」を英語で表現する場合、驚いて動けなくなる様子を表すイディオムが適しています。
like a deer in headlights
- 直訳:ヘッドライトに照らされた鹿のように
- 意味:「(驚きや恐怖で)すくみ上って、呆然として」
- 解説:夜道で車のライトを浴びた鹿が、驚いて動けなくなる様子から。突然の出来事に固まってしまう心理状態が非常によく似ています。
- 例文:
He looked like a deer in headlights when I asked him that question.
(その質問をした時、彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。)
dumbfounded
- 意味:「言葉を失った、呆気にとられた」
- 解説:驚きのあまり何も言えなくなる状態を指す単語です。
意外な「鳩」のことわざ
ちなみに、この言葉には「鳩に豆鉄砲」という短縮形があります。
意味は全く同じで、会話の中ではこちらの短い形で使われることも少なくありません。
また、鳩にまつわる意外なことわざとして「鳩を憎み豆を作らぬ」という言葉があります。
これは「畑の豆を食べる鳩を憎むあまり、豆を作るのさえやめてしまう」という意味で、「些細なことにこだわって、大事なことをやめてしまう(本末転倒)」という戒めを含んでいます。
平和の象徴である鳩も、農家にとっては豆を食べる「害鳥」の一面があったことが窺える興味深い言葉です。
まとめ
予想外の展開に直面したとき、人は誰しも思考が停止し、ただ目をパチクリさせてしまうものです。
そんな愛嬌のある「空白の時間」を、昔の人は身近な鳥とおもちゃに例えて表現しました。日常の中で、誰かが信じられない話を聞いてポカンとしている姿を見かけたら、この言葉を思い出してみてください。その場の空気を少し和ませるのに役立つ表現と言えるでしょう。





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