電車の中で大声で電話をする人、列に平気で割り込む人、会議中に人の話をさえぎって自分ばかり話す人…。「まるで周りに誰もいないかのように」振る舞う人に、私たちは時々出会います。
「傍若無人(ぼうじゃくぶじん)」は、まさにそのような、他者を顧みない自分勝手な態度を的確に表す四字熟語です。
「傍若無人」の意味・教訓
「傍若無人」とは、周りの人の存在や迷惑をまったく気にかけず、自分の思うままに勝手な言動をすること、またはその様子を意味します。
文字通り「傍(かたわ)らに人無きが若(ごと)し」と読み下すことができ、「まるで自分以外に誰もいないかのように」振る舞う、厚かましい態度や傲慢(ごうまん)さを非難する意図で使われることが多い言葉です。
「傍若無人」の語源
「傍若無人」は、以下の漢字で構成されています。
- 傍(ぼう):そば、かたわら。
- 若(じゃく):〜のようだ、〜のごとし。
- 無(ぶ):いない、ない。
- 人(じん):ひと。
これらを合わせ、「傍らに人が無いかのようだ」という意味になります。
この言葉の出典は、中国の歴史書『史記(しき)』の「刺客列伝(しかくれつでん)」にある故事です。
秦の始皇帝の暗殺に失敗した荊軻(けいか)の友人であった高漸離(こうぜんり)が、公衆の面前で楽器を奏でては泣き叫ぶ様子が、「傍らに人無きが若し(=傍若無人)」と形容されました。
これが転じて、現代の「人目をはばからない」という意味で使われるようになりました。
「傍若無人」の使い方と例文
「傍若無人」は、他人の迷惑を顧みない行動や、公の場でのマナー違反、または傲慢な態度を批判的に表現する際に使われます。非常にネガティブなニュアンスを持つ言葉です。
例文
- 「満員電車の中で大声で電話するとは、傍若無人にもほどがある。」
- 「彼は会議中、上司の意見さえ遮って持論を展開する傍若無人な男だ。」
- 「子供が店中を走り回っているのに注意しない親の傍若無人な態度に、客たちは眉をひそめた。」
- 「あの俳優は、傍若無人な振る舞いでついに業界から干されてしまった。」
類義語・関連語
「傍若無人」と似た、自分勝手で傲慢な態度を表す言葉を紹介します。
- 唯我独尊(ゆいがどくそん):
自分だけが優れているとうぬぼれること。「傍若無人」が「行動」に焦点を当てるのに対し、こちらは「うぬぼれた考え方」を指すことが多い。 - 傲岸不遜(ごうがんふそん):
いばって人を見下し、謙虚さがまったくない様子。 - 勝手気まま(かってきまま):
他人の都合を考えず、自分の好きなように振る舞うこと。「傍若無人」ほどの強い非難を含まない場合もある。 - 無遠慮(ぶえんりょ):
遠慮や配慮がないこと。
対義語
「傍若無人」とは反対に、謙虚であったり、周囲に配慮したりする様子を表す言葉です。
- 謹言慎行(きんげんしんこう):
言葉や行動を慎み、軽はずみなことをしない様子。 - 謙虚(けんきょ):
控えめで、素直に他人の意見などを受け入れる態度。 - 遠慮会釈(えんりょえしゃく):
他人に配慮し、言動を控えめにすること。(※多く「遠慮会釈もない」と否定形で使われるが、概念としては対義にあたる) - 協調性(きょうちょうせい):
周囲の人々と協力し、うまくやっていこうとする性質。
英語での類似表現
「傍若無人」の「自分勝手さ」や「傲慢さ」を表す英語表現です。
arrogant
- 意味:「傲慢な」「横柄な」
- 解説:「傍若無人」な態度をとる人物の「うぬぼれた」性格を指します。
- 例文:
His arrogant behavior in the office is unacceptable.
(彼のオフィスでの傍若無人な(傲慢な)振る舞いは受け入れられない。)
acting as if one owns the place
- 意味:「まるでそこが自分の所有物であるかのように振る舞う」
- 解説:「傍若無人」の「周りを気にしない」という状況を非常によく表す慣用句です。
- 例文:
He walked into the party, acting as if he owned the place.
(彼はパーティーに入ってくるなり、傍若無人な(我が物顔の)振る舞いをした。)
audacious
- 意味:「大胆不敵な」「厚かましい」
- 解説:常識や他人の感情を無視する「厚かましさ」や「ずうずうしさ」のニュアンスを強調します。
- 例文:
It was audacious of him to interrupt the CEO.
(CEOの話を遮るとは、彼も傍若無人な(厚かましい)ことをしたものだ。)
使用上の注意点
「傍若無人」は、相手の社会性や人間性を根本から否定するような、非常に強い非難の言葉です。単なる「マナーが悪い」というレベルを超え、「人としてどうなのか」というニュアンスを含みます。
そのため、日常の会話で軽い気持ちで使うと、相手をひどく傷つけたり、深刻な対立を生んだりする可能性があります。使用する際は、その強さを十分に理解し、慎重になるべき言葉です。
まとめ – 「傍若無人」を反面教師として
「傍若無人」は、周囲への配慮を欠き、自分勝手に振る舞う、社会生活において最も嫌われる態度の一つです。元々の故事が「人目をはばからず感情を露わにする」様子であったのに対し、現代では「他人の迷惑を顧みない傲慢さ」という意味合いが強くなっています。
私たちは皆、知らず知らずのうちに他人に迷惑をかけてしまうことがあるかもしれません。この「傍若無人」という言葉を、他人を非難するためだけではなく、自分自身の行動を振り返る「反面教師」として心に留めておくことが大切ですね。




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