うっかり口にした一言や、軽はずみな行動が、思わぬ誤解や大きなトラブルを招いてしまうことがあります。
「謹言慎行(きんげんしんこう)」は、そうした失敗を避け、信頼を築く上で非常に重要とされる、責任ある態度を示す四字熟語です。
この言葉は、特に社会的な立場にある人や、公の場で発言する際に心構えとして大切にされてきました。
「謹言慎行」の意味・教訓
「謹言慎行」とは、言葉や発言を慎み(謹言)、行動を軽率に行わないように注意深くすること(慎行)を意味します。
単に「気をつける」というだけでなく、自分の言動が周囲にどのような影響を与えるかを深く考え、軽はずみなことをせず、常に慎重な態度を保つべきであるという強い戒(いましめ)や心構えを示しています。
「謹言慎行」の語源 – 漢字の成り立ち
「謹言慎行」は、「謹言」と「慎行」という二つの熟語から成り立っています。
- 謹言(きんげん):言葉を慎むこと。
- 慎行(しんこう):行動を慎むこと。
「謹」も「慎」も、どちらも「つつしむ(慎重になる、軽々しくしない)」という意味を持つ漢字です。この二つを重ねて「言」と「行」につけることで、「言葉と行動の両方において、軽率さを排し、深く注意を払うべき」という強い意味を強調しています。
「謹言慎行」の使い方と例文
「謹言慎行」は、日常の軽い注意というよりは、公の場での発言、責任ある立場での振る舞い、または重大な局面において、自らを戒めたり他人に忠告したりする際に使われる、やや硬い表現です。
新年の抱負、就任の挨拶、あるいは失敗からの反省を述べる際などに用いられます。
例文
- 「政治家たるもの、常に謹言慎行を心がけ、国民の信頼を損ねないよう努めるべきだ。」
- 「今回の失敗を教訓に、今後は謹言慎行し、同じ過ちを繰り返さないよう誓います。」
- 「彼は非常に謹言慎行な人物で、軽はずみな発言で人を傷つけることは決してない。」
- 「公の立場になれば、これまで以上に謹言慎行が求められることを自覚しなければならない。」
類義語・関連語
「謹言慎行」と似た、慎重な態度や言行の一貫性を示す言葉です。
- 自重(じちょう):
軽率な言動を慎み、自分の態度や行動を重んじること。 - 深謀遠慮(しんぼうえんりょ):
深く考えを巡らせ、遠い将来のことまで見通して計画すること。慎重さにおいて共通する。 - 言行一致(げんこういっち):
言葉(言うこと)と行動(行うこと)が一致していること。「謹言慎行」は慎重さを指すが、こちらは一貫性を指す。 - 用心深い(ようじんぶかい):
失敗や危険がないよう、細かく注意すること。
対義語
「謹言慎行」とは反対に、軽率な言動を表す言葉です。
- 軽挙妄動(けいきょもうどう):
深く考えずに、軽はずみな行動をとること。 - 傍若無人(ぼうじゃくぶじん):
周りの人を気にせず、自分勝手に振る舞うこと。 - 放言(ほうげん):
思うままに、無責任な発言をすること。 - 無遠慮(ぶえんりょ):
他人の気持ちや状況を考えず、言動に慎重さがないこと。
英語での類似表現
「謹言慎行」の「慎重さ」を表す英語表現です。
weigh one’s words and actions
- 意味:「自分の言葉と行動を重んじる(慎重に吟味する)」
- 解説:”weigh”(重さを量る)という動詞を使い、言動の重みを理解し、慎重に扱うニュアンスを表します。「謹言慎行」に非常に近い表現です。
- 例文:
A good leader must weigh his words and actions carefully.
(優れた指導者は、自らの言動を慎重に吟味しなければならない。)
discretion
- 意味:「慎重さ」「思慮分別」
- 解説:言動において、状況をわきまえて慎重に行うことを指す名詞です。”Use discretion”(慎重に行動する)といった形で使われます。
- 例文:
This matter must be handled with the utmost discretion.
(この件は、最大限の慎重さ(謹言慎行)をもって扱われなければならない。)
まとめ – 「謹言慎行」が築く信頼
「謹言慎行」は、言葉を慎み、行動を注意深く行うという、非常に責任感の強い態度を指す四字熟語です。
特に、情報が瞬時に拡散する現代社会において、公私を問わず、一度発した言葉や行動の重みを理解することの重要性は増しています。
軽率な言動は信頼を失う元となり、反対に「謹言慎行」の姿勢は、その人の誠実さと思慮深さを示し、周囲からの確かな信頼を築く礎(いしずえ)となりますね。



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