意味
「草木皆兵(そうもくかいへい)」とは、敵を恐れるあまり、山にある草や木までもが敵兵に見えてしまうことです。
転じて、ひどく恐れたり疑い深くなったりしている時は、些細なことでも脅威に感じて怯えてしまう様子を指します。
- 草木(そうもく):野山の草や木。
- 皆(みな):すべて。ことごとく。
- 兵(へい):敵の兵隊。
語源・由来
「草木皆兵」の由来は、中国の歴史書『晋書』苻堅載記の一節です。
紀元383年、中国統一を目指す前秦の皇帝・苻堅は、およそ100万と号する大軍を率いて、南の東晋へ攻め込みました(淝水の戦い)。
数の上では圧倒的に有利だった苻堅ですが、東晋軍の精鋭部隊による反撃を受け、前線が崩れ始めます。
動揺した苻堅が城壁から敵陣を見渡すと、東晋軍の陣形は整然としており、隙がありません。
さらに北の八公山を望むと、山の上の草木までが敵兵の姿に見えました。
この場面を、『晋書』は次のように記しています。
又北望八公山上草木,皆類人形,顧謂融曰:「此亦勍敵也,何謂少乎!」憮然有懼色。
(さらに北の八公山の上の草木を望むと、どれも人の形に見えた。苻堅は弟の苻融を振り返って「これも手ごわい敵だ。どうして少ないなどと言ったのか」と言い、呆然として恐れの色を浮かべた。)
この故事から、自身の恐怖心が作り出した幻影に怯えることを指すようになりました。
使い方・例文
「草木皆兵」は、実際に危険が迫っている状況ではなく、「本人の心理状態が過剰な恐怖を作り出している」場合に使われます。
ビジネスでの過度なリスク回避や、日常生活での思い込みによる恐怖など、精神的に追い詰められている状況を描写するのに適しています。
例文
- 大きなミスをして以来、上司の溜息にもビクリとする。草木皆兵だ。
- 夜道の影を不審者と思い逃げ帰ったが、ただの野良猫だった。草木皆兵だ。
- 根拠のない噂にまで一喜一憂するのは、草木皆兵もいいところだ。
類義語・関連語
「草木皆兵」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 風声鶴唳(ふうせいかくれい):
風の音や鶴の鳴き声を聞いて、敵が攻めてきたのかと驚き怯えること。
「草木皆兵」と同じく「淝水の戦い」で、前秦軍が敗走する際に起きたパニックに由来する。「草木皆兵」が視覚的な錯覚であるのに対し、こちらは聴覚的な錯覚を指す。 - 疑心暗鬼(ぎしんあんき):
疑う心があると、何でもないものまで恐ろしい鬼に見えること。
もとは「疑心暗鬼を生ず」の形。 - 落ち武者は薄の穂にも怖ず(おちむしゃはすすきのほにもおず):
戦いに敗れて逃げる武士は、ススキの穂が揺れるのを見ても敵兵かと思って怯えること。
「草木皆兵」とほぼ同じ状況を表す日本のことわざ。 - 幽霊の正体見たり枯れ尾花(ゆうれいのしょうたいみたりかれおばな):
幽霊だと思って怖がっていたものをよく見ると、枯れたススキだったこと。恐怖心が消えれば、恐れるに足りないものであるという例え。
対義語
「草木皆兵」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
英語表現
「草木皆兵」を英語で表現する場合、以下のような言い回しがあります。
be afraid of one’s own shadow
直訳は「自分の影を怖がる」で、理由もなく物事を怖がる様子を表す表現。
Since the accident, he has been afraid of his own shadow.
(事故以来、彼は些細なことにも怯えている。)
The wicked flee when no man pursueth
直訳は「悪人は誰も追っていないのに逃げる」で、旧約聖書(箴言)に由来する言葉。
やましいことや恐れがある者は、何もなくても勝手に怯えて逃げ出すという意味で、「草木皆兵」の心理に通じる。
草木皆兵の後、敗走する前秦軍は鶴の声にも逃げ惑った
「草木皆兵」のエピソードには続きがあります。
草木を敵兵と見間違えて怯えた苻堅ですが、その後、実際に東晋軍との決戦に敗れます。
『晋書』謝玄伝によると、崩れた前秦軍は互いに踏みつけ合い、川に落ちて死ぬ者が数え切れないほどでした。
逃げ延びた兵も、風の音や鶴の鳴き声(風声鶴唳)を聞くと東晋の軍がもう来たと思い込み、野宿しながら逃げ続け、飢えと寒さも重なって十人に七、八人が死んだと記されています。
日本では源平合戦の「富士川の戦い」において、平家の軍勢が水鳥が一斉に飛び立つ羽音を敵襲と勘違いして敗走した話が有名です。













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