外では快活なのに、家に帰ると急に無口になる人がいます。
逆に、家の中では大将のように振る舞っているのに、一歩外へ出たり、知らない人の前に出たりすると、途端に小さくなってしまう人もいます。
そんな、環境の変化で急におとなしくなってしまう様子を、
「借りてきた猫」(かりてきたねこ)と言います。
萎縮してしまう心理を、猫の習性になぞらえたユーモラスな言葉です。
意味
「借りてきた猫」とは、普段は陽気で騒がしい人が、別の場所に連れて行かれたり、改まった席に出たりして、急におとなしくなることのたとえです。
単に「静かな人」を指すのではなく、「普段の様子とは全く違って」というギャップが含まれているのがポイントです。
緊張や遠慮、不安などによって、本来の自分が出せなくなり、隅っこでじっとしているような状態を指します。
語源・由来
「借りてきた猫」の由来は、江戸時代から明治時代にかけて行われていた「ネズミ除け」の習慣にあります。
当時、家屋や食料、あるいは養蚕(ようさん)の蚕(かいこ)を食い荒らすネズミは深刻な害獣でした。
そのため、ネズミ捕りが得意な猫は非常に貴重で、猫を飼っていない家で被害が出ると、知人から猫を一時的に借りてきて退治してもらうことがありました。
しかし、猫は「家につく」と言われるほど、環境の変化に敏感な動物です。
自分の縄張り(自宅)ではネズミを追い回して威張っていても、知らない家に連れて行かれると、警戒心と恐怖で物陰に隠れ、じっと動かなくなってしまいます。
この「期待されて借り出されたのに、全く使い物にならず縮こまっている猫」の姿が、人間が緊張して萎縮する様子と重なり、この言葉が定着しました。
使い方・例文
「借りてきた猫」は、その人の「内気な一面」や「緊張している様子」を、親しみを込めてからかう際によく使われます。
学校、家庭、親戚付き合いなど、主にプライベートな場面で活躍する言葉です。
例文
- 家では怪獣のように暴れている息子も、初めての授業参観では「借りてきた猫」になっていた。
- いつもはクラスの盛り上げ役の彼が、憧れの先輩を前にして「借りてきた猫」のようにおとなしい。
- 予防接種の待合室では、子供たちはみな「借りてきた猫」のように静まり返っている。
- 普段は強気な部長も、奥さんの前では「借りてきた猫」だ。
誤用・注意点
「借りてきた猫」と混同しやすい言葉に「猫を被る」があります。
どちらも「おとなしい」状態ですが、本人の意図が全く異なります。
- 借りてきた猫
- 意味:緊張や環境の変化により、意図せず(不可抗力で)おとなしくなってしまうこと。
- 状態:ガチガチに緊張している。素が出せない。
- 猫を被る
- 意味:本性を隠して、意図的に(計算で)おとなしく見せること。
- 状態:愛想よく振る舞っている。演技している。
面接で「借りてきた猫でした」と言えば「緊張して何も話せなかった」という失敗談になりますが、「猫をかぶっていました」と言うと「性格が良いふりをして騙しました」という意味になりかねないため、使い分けには注意が必要です。
類義語・関連語
「借りてきた猫」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 内弁慶の外地蔵(うちべんけいのそとじぞう):
家の中では弁慶のように威張り散らすが、外に出ると地蔵のようにおとなしくなること。「借りてきた猫」の状態を性格として表す言葉です。
対義語
「借りてきた猫」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 傍若無人(ぼうじゃくぶじん):
周囲に人がいないかのように、勝手気ままに振る舞うこと。緊張とは無縁の状態です。 - 我が物顔(わがものがお):
まるで自分の物であるかのように、他人に遠慮なく振る舞うこと。
英語表現
「借りてきた猫」を英語で表現する場合、猫ではなく「ネズミ」や「魚」を使って似た状況を表します。
as quiet as a mouse
- 直訳:ネズミのように静か
- 意味:「とても静か」「物音ひとつ立てない」
- 解説:緊張しておとなしい様子だけでなく、隠れるように静かに行動する様子にも使われます。
- 例文:
She was as quiet as a mouse in the meeting.
(彼女は会議中、借りてきた猫のようにおとなしかった。)
like a fish out of water
- 直訳:水から出た魚
- 意味:「場違いで居心地が悪い」
- 解説:環境が変わって本来の力が発揮できず、おどおどしている様子を表します。由来のニュアンスに近い表現です。
- 例文:
I felt like a fish out of water at the party.
(私はそのパーティーで、借りてきた猫のように居心地が悪かった。)
養蚕と猫の豆知識
現代ではペットとしての印象が強い猫ですが、かつては実用的な「益獣(えきじゅう)」として扱われていました。
特に養蚕(ようさん)が盛んだった地域では、カイコを食べるネズミは天敵中の天敵です。
そのため、ネズミを捕るのが上手い猫は高値で取引され、猫の貸し借りを専門に行う業者まで存在したと言われています。
しかし、ことわざの通り、借りてきた猫は環境が変わると働かないことが多かったため、次第に本物の猫ではなく「猫の絵」を貼るだけで魔除けになると信じられるようになりました。
これが、養蚕地帯に多い「猫神様」の信仰や、後の「招き猫」へとつながっていったという説もあります。
まとめ
普段の威勢の良さが嘘のように、しゅんとしてしまう「借りてきた猫」。
この言葉は、人間の弱さや可愛らしさを端的に表すのにとても便利な表現です。
誰かが緊張して固まっているのを見かけたとき、「まるで借りてきた猫だね」と心の中でつぶやいてみてください。その人の普段とのギャップが、少し微笑ましく見えてくることでしょう。





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