言葉の中には、本来ネガティブな意味やただの事実を表す表現だったにもかかわらず、時代とともにポジティブな意味へと変化したものがあります。
このような言語変化を「意味向上」と呼びます。
悪い意味へと転じる「意味悪化」に比べると記録されている例が少なく珍しい現象ですが、私たちが普段使っている褒め言葉にも意外な過去が隠されています。
現代で肯定的に使われている言葉の本来の姿を紹介します。
本来は「恐怖やマイナス」だった言葉
- 素晴らしい(すばらしい):
物事の程度がはなはだしいさまをいう語で、江戸時代には「ひどい」「あきれる」と望ましくない有様をいうことが多かったが、のちに「群を抜いてすぐれている」という良い意味が中心になった。 - 可愛い(かわいい):
「かわゆい」が変化した語で、「かわゆい」は「顔映ゆし」が語源と考えられ、古くは「気がひける」「恥ずかしい」の意で使われた。
そこから「見るに忍びない」の意を経て「気の毒だ」「ふびんだ」の意が生じ、中世にはおもにこの意味で使われた。
中世後半から弱い者への情愛を表すようになり、近世以降は「愛らしい」の意が中心になった。
本来は「ただの事実や感情」だった言葉
- あっぱれ:
「哀れ」と同じ語から分かれた言葉で、中世以降は感嘆の中でも称賛の気持ちを表す方が「あっぱれ」、悲哀を表す方が「哀れ」として使い分けられた。 - 有り難い(ありがたい):
「有ることが難い」、めったにないという事実を表す言葉が原義で、のちに、めったにないことと感謝する気持ちを込めて使われるようになった。
感謝の意では室町時代ごろは「かたじけない」が使われ、元禄以降に「ありがたい」が優勢になったとされる。 - 結構(けっこう):
建物の骨組みや構造を意味する漢語が原義で、丁寧に組み立てられた様子を評価する用法から転じ、「立派だ」「よろしい」という肯定の意味を得た。
現代で「意味向上」が起きている言葉
- ヤバい:
もとは、てきや・盗人などが、官憲の追及が厳しくて身辺が危ういという意味で使った語で、それが一般に広まって「危ない」の意になった。
若者の間では「最高である」「すごくいい」の意味でも使われる。 - 下剋上(げこくじょう):
「下が上に剋つ」の意で、主に中世、身分の低い者が上の者をしのいで実権を握ることを、旧体制側の者が秩序を乱すものとして非難した言葉。
現代では、下位の者が上位の者に勝利するという意味でも使われる。
マイナスの言葉がプラスに転じる経路
意味向上が起きる経路はいくつか知られています。
そのひとつは、強い感情を表すために既存の激しい語を転用するうちに肯定的な含意が定着するケースです。
「素晴らしい」のように、強度の大きい否定語が「程度の極み」を表す語として肯定用法に転用された例がこれにあたります。







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