かつては日常的に使われていたことわざや慣用句の中にも、現代の価値観に照らし合わせると、無意識に誰かを傷つけたり差別を助長したりする表現が存在します。
社会における人権意識の変化とともに、言葉の使用基準も変化しており、ビジネスや公の場では言い換えが求められるケースが増えています。
ここでは注意が必要な表現を、言い換えとともに一覧でまとめました。
身体・障がいにまつわる表現
身体的な特徴や障がいを、ネガティブな意味の比喩として使うことは、現代では最も避けるべき表現とされています。
- めくら蛇に怖じず(めくらへびにおじず):
視覚障がいへの差別語を含むため、無知ゆえの蛮勇は「怖いもの知らず」等と表現します。 - めくら判(めくらばん):
コンプライアンス上不適切な表現です。ビジネスでは「確認せずに押印する」と表します。 - 片手落ち(かたておち):
身体的欠損を不備の比喩にしているため、単に「配慮に欠ける」「不公平」等を使います。 - つんぼ桟敷(つんぼさじき):
聴覚障がいへの差別語を含みます。疎外される状況は「蚊帳の外」とするのが適切です。 - 気違い沙汰(きちがいざた):
精神障がいへの侮蔑的な響きが強いため、「常識外れ」や「正気の沙汰ではない」などと表します。 - びっこを引く:
足の不自由さを表す差別語です。物の不揃いな様子は「ちぐはぐである」等と表します。 - 唖(おし):
言葉が話せない人を指す差別語であり厳禁です。「聴覚・言語障がい者」と表記します。
ジェンダー・性別に関する表現
特定の性別に対する固定観念や、相手を低く見るような表現は、ジェンダー平等の観点から見直されています。
- 女の浅知恵(おんなのあさぢえ):
女性の知性を低く評価する蔑視表現です。「浅はかな考え」等とするのが現代的です。 - 行き遅れ(いきおくれ):
結婚を女性のゴールとする古い価値観の押し付けであり、「独身」「未婚」と表します。 - 男の目には糸を引け、女の目には鈴を張れ(おとこのめにはいとをひけおんなのめにはすずをはれ):
男女の外見への画一的な理想の押し付けです。「凛々しい目元」等と個性を尊重します。
身分・職業・属性に関する表現
かつての身分制度や特定の職業、国籍に対する偏見に基づく言葉も、現代の公の場では不適切とされます。
- 士族の商法(しぞくのしょうほう):
特定の出自をあざ笑う響きを持つため、「素人商売」と表現するのが無難です。 - 下衆の勘繰り(げすのかんぐり):
品性や人格を侮蔑するニュアンスが強い語です。「邪推」「うがった見方」とします。 - 唐人の寝言(とうじんのねごと):
外国人の言葉を見下す差別表現にあたるため、「訳のわからない話」等を用いましょう。 - 姨捨山(おばすてやま):
高齢者虐待や年齢差別を想起させる強い言葉です。「厄介払い」「左遷」等と表します。 - 百姓読み(ひゃくしょうよみ):
農民を無知とする差別意識に基づく言葉であり、「慣用読み」等とするのが適切です。 - 土方(どかた):
建設作業員に対する蔑称であり使用は不適切です。「建設業者」などの名称を使います。
なぜ普通の言葉が「使ってはいけない言葉」に変わるのか
昔はごく普通に使われていた職業の名前や状態を表す言葉が、時代が進むにつれて「なんだか見下されている気がする」と嫌がられるようになることがあります。
これは、言葉そのものに最初から悪意やトゲがあったからではありません。
その言葉を使う世の中の人々が、長い時間をかけて特定の立場の人に対して「あの人たちは〇〇だ」という偏見や冷たい視線を乗せて使ってきた結果、言葉自体にネガティブなイメージがべっとりと染み付いてしまったのです。
純粋な事実だけを指していた言葉が、人々の使い方によって徐々に悪い意味へと引きずり込まれていく。
この流れは、日本語に限らず世界中の言語で起きています。
時代に合わせて次々と言い換え表現が生まれるのは、決して窮屈な言葉狩りではありません。
泥がこびりついて本来の意味で使えなくなった言葉を手放し、誰も嫌な思いをしないまっさらな言葉を選び直そうとする、自然なアップデートの形と言えます。









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