公園のベンチで、駆け回る子供たちを細めた目で穏やかに見守っている。
目が合うと、しわの刻まれた顔をさらにくしゃくしゃにして、包み込むような微笑みを返してくれる。
そんな、見るからに善意にあふれた気のいいおじいさんのことを、
「好々爺」(こうこうや)と言います。
意味
「好々爺」とは、性格が円満で、善意にあふれた、気のいい老人を指します。
単に年齢を重ねているだけでなく、その穏やかな人柄が表情や物腰にまで滲(にじ)み出ているような、親しみやすい高齢者を肯定的に表現する言葉です。
「好」という漢字を重ねることで、その人物が持つ善良さが極めて豊かであることを強調しています。
語源・由来
「好々爺」は、特定の故事や伝説に由来する言葉ではなく、漢字の組み合わせによって成立した表現です。
「好」は、好ましい、親しみやすいという意味を持ち、これを重ねることで「非常に善良であること」を意味します。
「爺」は、おじいさんを指す漢字です。
明治以降の文学や日常会話の中で、角が取れて円熟した人格を持つ高齢者を、敬意と親しみを込めて呼ぶ言葉として定着しました。
かつては「好々(こうこう)」だけで「善人」を指す言葉として使われていた時期もありましたが、現在では「爺」と結びつくことで、白髪の穏やかな老紳士をイメージさせる言葉として確立されています。
使い方・例文
周囲に安心感を与えるような高齢者の風貌や性格を形容する際に使われます。
例文
- 退職してからの彼は、現役時代の厳しさが消えてすっかり好々爺になった。
- 駄菓子屋の店主は、子供たちにいつもおまけをくれる町内でも有名な好々爺だ。
- 旅先で道に迷っていたら、好々爺といった風貌の男性が親切に案内してくれた。
- 彼はかつて鬼上司と呼ばれていたが、今では孫に囲まれ、穏やかな好々爺の顔を見せている。
文学作品・メディアでの使用例
『虞美人草』(夏目漱石)
明治時代の文豪、夏目漱石の小説において、登場人物の風貌や内面を描写、あるいは揶揄(やゆ)する一節に用いられています。
「好々爺の如き面をして、天下を横行するつもりか。」
誤用・注意点
「好々爺」は最大級の褒め言葉ですが、相手への敬意に配慮が必要です。
- たとえ性格が穏やかであっても、自分を「現役」と考えている方に使うと、年寄り扱いされたと不快に思われる可能性があります。
- 基本的に男性に対して使う言葉であり、女性に対しては使いません。
女性の場合は「好老婆(こうろうば)」という言葉も存在しますが、一般的ではないため「穏やかなお婆さん」と呼ぶのが無難です。
また、単なる「お人好し」とは異なり、人生経験に裏打ちされた「円熟味」が含まれている点も重要です。
類義語・関連語
「好々爺」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 好人物(こうじんぶつ):
性格が良く、人から好かれる人。 - 温厚(おんこう):
穏やかで、情が厚く、めったに怒らない様子。 - 柔和(にゅうわ):
態度や表情が穏やかで、物柔らかいこと。
対義語
「好々爺」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 頑固親父(がんこおやじ):
自分の考えを曲げず、偏屈で口うるさい高齢男性。 - 偏屈者(へんくつもの):
性質がねじ曲がっていて、素直でない人。 - 毒舌家(どくぜつか):
他人に対して、容赦なく辛辣な言葉を浴びせる人。
英語表現
「好々爺」を英語で表現する場合、人柄の温かさを表す言葉が選ばれます。
A gentle old man
「優しいおじいさん」「穏やかな老人」
その人の人柄が温厚であることをストレートに伝える最も一般的な表現です。
- 例文:
He has become a gentle old man since he retired.
(退職してから、彼はすっかり好々爺になった。)
A benevolent old man
「慈愛に満ちた老人」「善意ある老人」
高潔な人格で周囲に善意を振りまくような、少し敬意の強いニュアンスが含まれます。
- 例文:
The benevolent old man is loved by all the children.
(その好々爺はすべての子供たちに愛されている。)
理想の老い方としての佇まい
現代では「いつまでも若々しく活動的に」という価値観が強いですが、その一方で「好々爺」が持つ寛容さと静かな佇まいは、日本人が抱く理想の老い方の一つです。
若いうちの功名心や競争心を脱ぎ捨て、周囲に安心感を与える存在になること。
それは、長い人生の荒波を乗り越えてきた者だけが到達できる、一つの完成された境地なのかもしれません。
「好々爺」と呼ばれることは、その人の歩んできた人生そのものが、穏やかで幸福なものであることを証明しているのです。
まとめ
「好々爺」は、内面の豊かさが表情にまで溢れ出ている高齢者を称える言葉です。
ただそこにいるだけで周囲を温かい気持ちにさせる存在は、現代社会において非常に貴重と言えるでしょう。
私たちもいつか年を重ねたとき、険のない穏やかな表情で次世代を優しく見守れるような「好々爺」を目指したいものです。





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