運動会のリレーでバトンを託された瞬間、まるで風が吹き抜けたかのようにトラックを一人で駆け抜け、一気に順位をひっくり返す。
そんな、誰もが驚くほど足の速い人やその猛烈な走りを、
「韋駄天」(いだてん)と言います。
意味
「韋駄天」とは、足の速い人のたとえ、あるいは非常に速く走ることを意味します。
もともとは仏教における守護神の一人の名前ですが、現代ではスポーツの場や日常生活において、俊足の持ち主を称賛する言葉として広く定着しています。
語源・由来
「韋駄天」の由来は、増長天の八将の一神である守護神「韋駄天(スカンダ)」にあります。
伝説によれば、お釈迦様が亡くなった際、捷疾鬼(しょうしつき)という足の速い鬼が現れ、お釈迦様の歯(仏牙)を盗んで逃げ去りました。
このとき、韋駄天はすぐさま追いかけ、あっという間に鬼を捕まえて歯を取り戻したとされています。
この逸話から、韋駄天は「非常に足の速い神様」の代名詞となり、転じて足の速い人を「韋駄天」や、その走りを「韋駄天走り」と呼ぶようになりました。
現在でも禅寺などでは、火難を払う神として、また食事を司る神として厨房に祀られることがあります。
使い方・例文
「韋駄天」は、主にスポーツの場面や、急いで移動する様子を表現する際に使われます。
単に速いだけでなく、周囲が驚くほどのスピード感がある場合に用いられます。
例文
- 野球部の韋駄天が、見事な盗塁を決めた。
- 運動会では、クラス一番の韋駄天が逆転した。
- 遅刻しそうな彼は、韋駄天の勢いで駅へ向かった。
- 彼は韋駄天走りで、あっという間に山頂へ着いた。
文学作品・メディアでの使用例
『吾輩は猫である』(夏目漱石)
漱石の代表作の中で、泥棒を追いかける場面や、動きの素早さを表現する文脈でこの言葉が登場します。江戸っ子気質の登場人物たちが、スピード感を表現する際に用いています。
…まるで韋駄天の如く、馳け出した。…
類義語・関連語
「韋駄天」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 快足(かいそく):
非常に速く走ること。また、その足。 - 神速(しんそく):
神業のように、人間業とは思えないほど動きが速いこと。 - 駿足(しゅんそく):
足が非常に速いこと。また、優れた才能を持つ人のたとえ。
対義語
「韋駄天」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 鈍足(どんそく):
足が遅いこと。 - 牛歩(ぎゅうほ):
牛の歩みのように、物事の進みが非常に遅いこと。
英語表現
「韋駄天」を英語で表現する場合、以下のような表現があります。
a fleet-footed person
「俊足の持ち主」
文学的で品のある響きを持ち、足の速い人を称える際によく使われます。
- 例文:
He is known as a fleet-footed athlete.
彼は韋駄天のアスリートとして知られている。
a speedster
「スピード狂」「快速の持ち主」
非常に速く動く人や、足の速いスポーツ選手を指す口語的な表現です。
- 例文:
The team signed a new speedster.
チームは新しい韋駄天(俊足選手)と契約した。
豆知識:「ご馳走」のルーツ
「韋駄天」は足が速いだけでなく、実は「ご馳走(ごちそう)」という言葉の由来にも深く関わっています。
韋駄天がお釈迦様のために、あちこちへ走り回って(奔走して)食材を集めたという伝承から、「馳走」という言葉が生まれました。
現在でも食事の後に「ご馳走様」と言うのは、かつての韋駄天のように、食事を用意するために走り回ってくれた人への感謝が込められているのです。
まとめ
一瞬で目の前を通り過ぎるような圧倒的な速さ。そんな「韋駄天」という言葉の裏には、大切なものを守るために全力で駆け抜けた神様の物語が隠されています。
スポーツで風を切って走る時、あるいは誰かのために急いで駆けつける時。そのスピードは、かつての神様のように周囲に驚きと希望を与えるものになることでしょう。







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