意味
「牛歩(ぎゅうほ)」とは、牛の歩みのように物事の進展が非常に遅いことです。
単に速度が遅いというだけでなく、物事がはかどらずに停滞している様子や、意図的にゆっくりと進める動作に対しても用いられます。
現代では比喩的な表現としてだけでなく、議会における特定の戦術を指す言葉としても定着しています。
語源・由来
「牛歩」の由来は、牛という動物の歩き方そのものにあります。
古くから、牛は農耕や運搬に欠かせない存在でしたが、俊敏に走る馬とは対照的に、重い足取りでゆっくりと歩く姿が「遅さ」の象徴とされてきました。
この様子を人間の行動や物事の進捗に例えたのが始まりです。
戦前の1929年(昭和4年)には、帝国議会で小選挙区制法案に反対した立憲民政党の議員が、投票の際にわざとゆっくり歩いて時間を稼いでいます。
戦後の国会では、社会党や共産党などの野党がこの牛歩戦術をたびたび使いました。
使い方・例文
期待されたスピードで物事が進まない、あるいは意図的に時間をかけている文脈で使用されます。
例文
- 周囲が次々と新しい技術を導入する中、わが社の改革はまさに牛歩だ。
- 「宿題は終わったの?」と聞かれ、息子は牛歩のごとき進み具合だと肩を落とした。
- 議論が紛糾し、合意形成は牛歩の状態が続いている。
類義語・関連語
「牛歩」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 亀の歩み(かめのあゆみ):
非常に歩みがのろいこと。
「牛歩」よりも、遅いながらも着実にゴールへ向かうというポジティブなニュアンスで使われることがあります。 - 遅々(ちち):
物事の進み具合が非常にはかどらない様子。
「遅々として進まない」という定型句で使われるのが一般的です。
対義語
「牛歩」とは対照的に、非常に速いスピードや勢いを表す言葉は以下の通りです。
- 駿足(しゅんそく):
足が非常に速いこと。
また、その人。 - 韋駄天(いだてん):
非常に速く走る人のたとえ。
仏法を守る神の名で、足の速い神とされたところから言います。 - 脱兎(だっと):
逃げるウサギのように非常に素早いこと。
「脱兎の勢い」「脱兎のごとく逃げ出す」のように、動きが非常に速いことを表します。
英語表現
「牛歩」を英語で表現する場合、以下のようなネイティブが日常的に使用する表現が適しています。
at a snail’s pace
直訳は「カタツムリのような速さで」で、英語圏では牛ではなくカタツムリを遅さの象徴とする表現。
The construction of the bridge is moving at a snail’s pace.
(その橋の建設は、まさに牛歩の進みだ。)
crawl
直訳は「はう」「のろのろ進む」で、交通渋滞やプロジェクトの進捗が極めて遅いときに使われる語。
Traffic slowed to a crawl after the accident.
(事故の後、交通の流れは牛歩のような状態になった。)
1992年のPKO法案をめぐる牛歩戦術、1回の投票に13時間8分
「牛歩」の語は、国会での「牛歩戦術」という抵抗手段でも知られています。
法案の採決に反対する議員が、投票箱へ向かう通路を、文字通り牛のような足取りで極限までゆっくりと歩くことで、議事の進行を遅らせ、時間切れを狙う手法です。
この戦術が広く知られるきっかけの一つが、1992年6月のPKO協力法をめぐる参議院での攻防です。
社会党・共産党などの議員による牛歩戦術で、下条進一郎参院国際平和協力特別委員長への問責決議案の採決では、1回の投票に13時間8分を要しました。
これは1回の投票にかかった時間の最長記録です。
現在では議長による制限時間の設定などがあり、これほど極端な光景は見られなくなっています。











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