意味
「可愛い子には旅をさせよ(かわいいこにはたびをさせよ)」とは、子どもが大切であるならば、親元で甘やかして育てるよりも世の中の厳しさや苦労を経験させるべきだという意味です。
苦労を知らずに育つと将来困難を乗り越える力が備わらないため、あえて厳しい経験をさせることこそ真の愛情だという考えが込められています。
- 可愛い子(かわいいこ):深く愛している自分の子ども。
- 旅(たび):困難や苦労を伴う厳しい経験。
語源・由来
「可愛い子には旅をさせよ」の由来は、交通機関が発達していなかった時代の歴史的背景にあります。
かつての移動は徒歩や簡素な船が中心であり、野宿による飢えや病気、盗賊の襲撃といった命の危険が常に伴うものでした。
親にとって愛する我が子をそのような過酷な環境へ送り出すのは断腸の思いでしたが、目的地を目指して生き抜く経験こそが一人前の大人になるための修行でした。
そこから、手元に置いて守り続けるよりも、あえて過酷な経験をさせることが将来を生き抜く力になるという生活の知恵が生まれ、現代にまで伝えられています。
使い方・例文
『可愛い子には旅をさせよ』は、子どもの自立を促す場面や、若者にあえて厳しい環境を用意する正当性を述べる場面で使われます。
- 一人暮らしをさせるのも、可愛い子には旅をさせよだ。
- 留学の許可は、可愛い子には旅をさせよの精神だ。
- 厳しい配属先も、可愛い子には旅をさせよの親心だ。
『夜明け前』(島崎藤村)
明治14年、半蔵とお民が幼い息子二人を東京へ遊学に出したあと、隣家のお富が口にした言葉。
かわいい子には旅をさせろということもありますがね、よくそれでもお民さんがあんなちいさなものを手離す気におなりなすった。
類義語・関連語
「可愛い子には旅をさせよ」と同様に、あえて試練を与えたり若いうちの苦労を肯定したりする言葉には以下のようなものがあります。
- 獅子の子落とし(ししのこおとし):
深い谷底へ突き落とし、自力で這い上がってきた強い子だけを育てるという伝承から、厳しい試練を与えて鍛えること。 - 親の甘茶が毒となる(おやのあまちゃがどくとなる):
親が子どもを甘やかしすぎることは、結果としてその子の将来を台無しにする毒のようなものだという戒め。 - 若い時の苦労は買ってでもせよ(わかいときのくろうはかってでもせよ):
若いうちにする苦労は将来の貴重な糧になるため、自ら進んで経験すべきだという教え。 - 艱難汝を玉にす(かんなんなんじをたまにす):
人は苦労や困難を乗り越えることによって、初めて立派な人間に磨き上げられるということ。
「可愛い子には旅をさせよ」と「獅子の子落とし」の違い
これらの言葉はどちらも「あえて厳しい試練を与える」という点で共通していますが、与える試練の重さと親のスタンスに決定的な違いがあります。
| 語句 | 試練の重さ | 親のスタンス |
|---|---|---|
| 可愛い子には旅をさせよ | 成長を促すための苦労 | 帰ってくることを前提に見守る |
| 獅子の子落とし | 生死を分けるほどの極限状態 | 乗り越えられない者は非情に見捨てる |
対義語
「可愛い子には旅をさせよ」とは対照的に、苦労をさせず大切に守り育てることを表す言葉には以下のようなものがあります。
- 掌中の珠(しょうちゅうのたま):
手のひらの中にある宝石のように、片時も離さず非常に大切にしているもののたとえ。 - 箱入り娘(はこいりむすめ):
家の中に大切にしまっておくように、外に出さず世間の苦労をさせずに育てられた娘。 - 温室育ち(おんしつそだち):
厳しい環境を知らず、手厚い保護の下で大切に育てられ、世間知らずであること。
英語表現
Spare the rod and spoil the child
直訳は「鞭を惜しむと子どもはダメになる」で、子どもを甘やかすと将来のためにならないという意味を表す表現です。
「旅」ではなく「鞭(しつけの厳しさ)」をたとえに用いていますが、子どもを甘やかさないという点で共通しています。
My grandmother always said, “Spare the rod and spoil the child.”
祖母はいつも「鞭を惜しむと子どもはダメになる」と言っていました。
英国貴族の大陸旅行に経済学者スミスが苦言
17世紀後半から19世紀前半のイギリスでは、貴族の若者が数か月から数年かけてフランスやイタリアを巡る「グランドツアー」が流行しました。
古代ローマの遺跡やルネサンス美術を見て回り、フランス語やダンス、剣術を身につけるのが目的で、たいていは家庭教師が付き添いました。
経済学者のアダム・スミスも1764年から1766年にかけて、スコットランドの若い公爵の家庭教師としてトゥールーズやジュネーヴ、パリに滞在しています。
ところがスミスは、のちに『国富論』(1776年)でこう書いています。
若いうちに外国へ出た者はたいてい、出かける前よりうぬぼれが強く、だらしなく、遊びにふけり、勉強にも仕事にも身が入らなくなって帰ってくる、と。
理由は、親の目の届かない所で、人生でいちばん大切な数年を遊んで過ごしてしまうからです。
子を旅に出せば鍛えられるとは限らないと、付き添った当人が書き残したわけです。














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