意味
「痘痕もえくぼ(あばたもえくぼ)」とは、好意を持った相手のことは、欠点(痘痕)でさえも魅力的なチャームポイント(えくぼ)に見えてしまうという意味です。
恋愛中の心理状態を表すことが最も多いですが、親が子供を見る目や、贔屓の対象を無条件に肯定してしまう様子を指すこともあります。
語源・由来
この言葉の由来は、かつて日本で流行した病気の痕を、笑うと頬にできるくぼみに見立てた比喩にあります。
- 「痘痕」(あばた)
かつて猛威を振るった感染症「天然痘(疱瘡)」が治った後に、顔に残る小さなくぼみ(傷跡)のことです。当時は多くの人がこの痕に悩み、隠したい欠点として捉えられていました。 - 「えくぼ」
笑ったときに頬にできる小さなくぼみ。愛らしさやチャームポイントの象徴です。
本来であれば気にするはずの「顔の傷跡」が、恋する人には「可愛らしいえくぼ」に見えてしまいます。
この極端な対比によって、「好きになると悪いところも良く見える」という心理を強調しています。
前に「惚れた欲目には」「好いた目からは」を付けて言うこともあります。
使い方・例文
恋愛関係だけでなく、親子の情愛や、特定の人物・対象への熱烈なファン心理を表す際にも使われます。
基本的には「周りが見えなくなっている状態」を、周囲がやや呆れつつ、あるいは微笑ましく見守る際によく用いられます。
例文
- 彼が遅刻しても「マイペースで素敵」だなんて、まさに痘痕もえくぼだ。
- 痘痕もえくぼと言うけれど、親にとって我が子のいたずらは才能に見えるものだ。
- 推しのアイドルは音程の外れさえ個性に思える。これが痘痕もえくぼか。
誤用・注意点
本人に使う際は要注意
この言葉は「本来は欠点であるものが、良く見えているだけだ」という皮肉のニュアンスを含みます。
ラブラブなカップルに対して「痘痕もえくぼだね」と言うと、「相手には欠点(痘痕)がある」「あなたの目は曇っている」と指摘していることになり、失礼にあたる場合があります。
自分のことに使う場合
「私の彼への評価は、痘痕もえくぼかもしれませんが…」と、自分ののろけ話を謙遜して前置きする際に使うのは問題ありません。
類義語・関連語
「痘痕もえくぼ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 恋は盲目(こいはもうもく):
恋をすると理性を失い、常識的な判断ができなくなったり、相手の欠点が見えなくなったりすること。 - 惚れた欲目(ほれたよくめ):
好きになった相手のことは、実際以上に良く見えてしまうということ。
「欲目」とは、自分に都合よく見てしまうこと。 - 屋烏の愛(おくうのあい):
その人を愛するあまり、その家の屋根にとまっているカラスにまで愛着を感じること。
愛情が極めて深いことのたとえ。 - 愛してその醜を忘る(あいしてそのしゅうをわする):
愛していると、相手の醜い部分や欠点も気にならなくなるということ。
対義語
「痘痕もえくぼ」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い(ぼうずにくけりゃけさまでにくい):
その人が憎いと、それに関連するすべてのものが憎らしく見えること。好意があれば欠点も良く見える「痘痕もえくぼ」の正反対。 - 百年の恋も一時に冷める(ひゃくねんのこいもいちじにさめる):
長い間続いた激しい恋心も、相手のちょっとした幻滅行為で瞬時に冷めてしまうこと。
英語表現
「痘痕もえくぼ」を英語で表現する場合、以下のようなフレーズが使われます。
Love is blind
直訳は「恋は盲目」で、日本語の「痘痕もえくぼ」とほぼ同じ意味で使われる一般的な表現。
She thinks he is perfect. Love is blind.
(彼女は彼を完璧だと思っている。痘痕もえくぼだね。)
「あばた」は梵語の「腫れ物」が元か
「あばた」は、梵語(古代インドの言葉)の「アルブダ」を写した語といわれます。
アルブダはもと腫れ物や水疱のことで、仏典では、寒さで体に腫れ物ができる八寒地獄の一つ「阿浮陀地獄」の名にもなっています。
この語が、天然痘の治った後に顔に残る跡を指すようになりました。
1694年の俳諧『炭俵』には、「あばたといへば小僧いやがる」(あばたと言うと小僧がいやがる)という句があります。
このことわざにつながる言い回しは1779年の洒落本に見え、そこでは「あばた」に「菊石」の字が当てられています。
仏典の言葉とされる「あばた」は、18世紀の後半には、ほれた目で相手を見る言い回しに使われていました。















コメント