大好きな人のことは、何をしていても素敵に見えてしまうものです。
ただの寝癖さえ「無造作ヘアでおしゃれ」に見えたり、少しわがままな態度さえ「自分をしっかり持っていて頼もしい」と感じたりした経験はないでしょうか。
このように、相手に好意を持っているがゆえに、実際よりもはるかに良く評価してしまう心理状態を、「惚れた欲目」(ほれたよくめ)と言います。
意味
「惚れた欲目」とは、惚れている相手に対しては、ひいき目で見てしまい、実際の実力や容姿以上に高く評価してしまうことを意味します。
恋をしていると、公平な判断ができなくなり、相手の欠点が見えなくなったり、平凡な点でも素晴らしい長所であるかのように錯覚してしまう状態を指します。
- 惚れた(ほれた): 恋い慕うこと。心を奪われている状態。
- 欲目(よくめ): 「自分にとって好ましい結果であってほしい」という欲望が混じった見方のこと。ひいき目。
つまり、「自分の『好きだから素敵な人であってほしい』という願望(欲)のフィルターを通して、相手を見ている状態」を表しています。
語源・由来
「惚れた欲目」には、特定の歴史的な故事や出典があるわけではありません。
この言葉の核となっているのは「欲目(よくめ)」という日本語です。
「欲目」とは、単なる「ひいき」とは少し違い、見る側の「欲(エゴ)」が反映されている点が特徴です。
「自分が選んだ相手なのだから、素晴らしい人に違いない(そうであってほしい)」という自己正当化や願望が、目の前の現実を歪めて美化して見せてしまう。
そうした人間の心理を鋭く突いた表現として、古くから使われてきました。
親子関係における同様の心理を指す「親の欲目(おやのよくめ)」も、同じ構造の言葉です。
使い方・例文
基本的には、恋愛において「相手を過大評価している状態」を指して使われます。
本人が「これは欲目かもしれないけれど…」と謙遜して使う場合と、周囲が「あれは完全に欲目だよね」と冷静に指摘する場合の両方があります。
例文
- 彼は「彼女は世界一の美女だ」と言っているが、それはさすがに「惚れた欲目」というものだ。
- 「惚れた欲目」と言われるかもしれないが、うちの夫の作るカレーは有名店の味より美味しいと思う。
- 周囲から見ればただの頼りない男だが、彼女の「惚れた欲目」には、繊細で優しい芸術家に見えているようだ。
- 欠点も含めて愛おしいと言うが、それは今だけ。「惚れた欲目」が消えた時が本当の勝負だ。
誤用・注意点
「惚れた欲目」を使う際は、似た言葉との混同に注意が必要です。
- 「惚れた弱み」との違い
よく似ていますが、意味が異なります。- 惚れた欲目:相手が実際以上に良く見えること。(認識の歪み)
- 惚れた弱み:相手のことが好きなので、無理な要求でも断れずに従ってしまうこと。(立場の弱さ)
- 「親の欲目」との使い分け
自分の子供を過大評価してしまうことは、正しくは「親の欲目」と言います。
対象が「恋人」か「子供」かで明確に使い分けましょう。
類義語・関連語
「惚れた欲目」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 痘痕もえくぼ(あばたもえくぼ):
恋していると、相手の「あばた(顔のくぼみ)」という欠点さえも、「えくぼ」という長所に見えてしまうこと。
「欲目」よりも、「欠点が長所に変換される」というニュアンスが強い言葉です。 - 贔屓目(ひいきめ):
気に入った人を優遇したり、好意的に見たりすること。恋愛に限らず、スポーツの応援やビジネスなど広い範囲で使われます。 - 身贔屓(みびいき):
自分の身内や、自分に関係の深い人を特別扱いして良く見ること。 - 恋は盲目(こいはもうもく):
恋に落ちると理性を失い、相手の欠点や周囲の事情が見えなくなること。
対義語
「惚れた欲目」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
- 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い(ぼうずにくけりゃけさまでにくい):
その人のことを憎むあまり、その人に関連するすべてのものが憎らしく見えてしまうこと。
「欲目」とは逆に、嫌悪感というフィルターですべてが悪く見える状態です。 - 公平無私(こうへいむし):
私的な感情を挟まず、公平に判断すること。
英語表現
「惚れた欲目」のニュアンスに近い英語表現をいくつか紹介します。
look through rose-colored glasses
- 直訳:バラ色の眼鏡を通して見る
- 意味:「楽観的に見る」「美化して見る」
- 解説:現実の暗い部分を見ず、すべてをバラ色(肯定的)に捉えてしまうことを表す慣用句です。恋愛に限らず使われますが、「惚れた欲目」の心理状態を的確に表しています。
- 例文:
She looks at him through rose-colored glasses.
(彼女は彼をバラ色の眼鏡で見ている。=彼女には彼が実際以上に良く見えている。)
Beauty is in the eye of the beholder.
- 直訳:美は見る人の目の中にある
- 意味:「美しさは主観的なものである」「たで食う虫も好き好き」
- 解説:誰かを美しいと思うかどうかは、見る人の主観(欲目)次第であるという意味です。
- 例文:
You might not think he’s handsome, but beauty is in the eye of the beholder.
(君は彼をハンサムだと思わないかもしれないが、美しさは見る人の目の中にあるものだ。)
心理学から見る「欲目」
心理学の世界では、この「惚れた欲目」に似た現象を「ポジティブ・イリュージョン(肯定的幻想)」と呼ぶことがあります。
これは、パートナーを「理想化」して見ることで、関係の満足度が高まり、長続きするという効果があるそうです。
「欲目」と言うと「真実が見えていない」と否定的に捉えられがちですが、実は二人の関係を円滑にするための、脳の巧みな生存戦略なのかもしれません。
まとめ
「惚れた欲目」とは、好意というフィルターを通して、相手を実際以上に素晴らしく感じてしまう心理のことです。
時には冷静な判断を狂わせることもありますが、相手の良いところを最大限に見つけられるというのは、恋ならではの特権でもあります。
「欲目」もほどほどであれば、二人の世界をより鮮やかに彩るスパイスになることでしょう。






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