意味
「艱難汝を玉にす(かんなんなんじをたまにす)」とは、人は苦難を乗り越えることで初めて立派な人間として磨かれるという意味です。
苦しんでいる最中の人を励ます言葉としても、乗り越えた人を評する言葉としても使われます。
ただし他人の苦労を軽く扱う響きにもなりうるため、当人に向けて使う場面は選ばれます。
- 艱難(かんなん):困難に出会って苦しむこと。
- 玉(たま):磨き上げられた宝石。立派な人物のたとえ。
語源・由来
「艱難汝を玉にす」は、漢文を読み下したような形をしていますが、そのままの句は漢籍に見当たりません。
ただし北宋の張載の『西銘』には「貧賤憂戚、庸玉汝於成也」とあり、貧しさや憂いが人を玉のように磨いて大成させるという、発想と字句の近い言い方が見えます。
言葉そのものは、英語のことわざ Adversity makes a man wise.(逆境は人を賢くする)、あるいは同じ意味のフランス語のことわざを訳したものと考えられています。
明治の初めに西洋の書物が次々と訳された時期に、漢文の調子を借りて日本語へ移されたのです。
明治七年(1874年)の教科書『小学読本』にこの語が取り上げられ、広まる足がかりになったといわれます。
使い方・例文
「艱難汝を玉にす」は、苦しい時期を人の成長と結びつけて語る場面で使われます。
- あの三年があったから今がある。艱難汝を玉にすだ。
- 倒産を経て彼は一回り大きくなった。艱難汝を玉にすである。
- 「艱難汝を玉にすと言うが、今はただ苦しいだけだ」
類義語・関連語
「艱難汝を玉にす」と同じく、苦労が人を育てることを表す言葉には以下のようなものがあります。
- 若い時の苦労は買ってでもせよ(わかいときのくろうはかってでもせよ):
若いうちの苦労は、あとで必ず身になるという教え。 - 可愛い子には旅をさせよ(かわいいこにはたびをさせよ):
大事な子ほど手元に置かず、外の苦労を経験させよということ。 - 雨降って地固まる(あめふってじかたまる):
もめ事のあとは、かえって前より安定するということ。
「艱難汝を玉にす」と「雨降って地固まる」の違い
どちらも困難のあとに良い状態が来ることを言いますが、良くなる対象が違います。
「艱難汝を玉にす」は当人の人間としての中身を、「雨降って地固まる」は関係や状況のほうを指します。
| 語句 | 良くなるもの | きっかけ |
|---|---|---|
| 艱難汝を玉にす (かんなんなんじをたまにす) | 人の中身 | 苦労全般 |
| 雨降って地固まる (あめふってじかたまる) | 関係や状況 | もめ事のあと |
英語表現
Adversity makes a man wise
この日本語のもとになったとされる、逆境が人を賢くするという言い回し。
They say adversity makes a man wise.
(艱難汝を玉にす、と言います。)
『侏儒の言葉』の皮肉「思慮深い男は玉になれない」
小説家の芥川龍之介は、短い警句を集めた『侏儒の言葉』(1923〜1927年)で、この言葉を取り上げています。
友人「S・M」から聞いた言葉として並べた一節に、「艱難汝を玉にするとすれば、日常生活に、思慮深い男は到底玉になれない筈である」とあります。
苦労が人を磨くのなら、日ごろ用心深く暮らして苦労を避けている人ほど、磨かれる機会がないことになります。
「艱難汝を玉にす」を文字どおりに受け取ると、慎重に生きる人ほど磨かれないことになる、という矛盾を突いた皮肉です。










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