ほんの些細なこだわりや思い込みが原因で、物事の全体像や真実が見えなくなってしまった経験はありませんか?
「一葉落ちて泰山を覆う(いちようおちてたいざんをおおう)」は、小さな障害物が視界を遮ることで、本来見えるはずの大きなものまで見えなくなってしまうという、人間の認識の危うさを指摘した言葉です。
この言葉が持つ深い教訓と、似た意味の言葉との使い分けについて解説します。
「一葉落ちて泰山を覆う」の意味・教訓
「一葉落ちて泰山を覆う」とは、一枚の木の葉が目の前にあるだけで、巨大な山も見えなくなってしまうことのたとえです。
転じて、わずかな先入観や私心が邪魔をして、物事の本質や全体像が見えなくなることを意味します。
- 一葉(いちよう):一枚の葉っぱ。極めて小さく軽いものの象徴。
- 泰山(たいざん):中国にある巨大な名山。大きく揺るぎないものの象徴。
物理的に山が隠れるわけではありませんが、葉っぱを目に近づけすぎると視界が塞がれてしまうように、人間も「小さなわだかまり」や「偏見」にとらわれると、目の前にある明白な真理さえ認識できなくなるという戒めが込められています。
「一葉落ちて泰山を覆う」の語源・由来
この言葉の出典は、中国の春秋戦国時代の思想書『鶡冠子(かつかんし)』の「天則(てんそく)」篇です。
その中に次のような一節があります。
「一葉目を蔽えば泰山を見ず、両豆耳を塞げば雷霆(らいてい)を聞かず」
(一枚の葉が目を覆えば巨大な泰山も見えず、二粒の豆が耳を塞げば激しい雷の音も聞こえない)
小さな葉や豆粒のような些細なものであっても、感覚器(目や耳)の近くにあって機能を妨げれば、山や雷といった巨大な存在すら感知できなくなることを説いています。
ここから、「局所にとらわれて大局を見失う愚かさ」を諭す言葉として定着しました。
「一葉落ちて泰山を覆う」の使い方・例文
現代では、一つの失敗や欠点、あるいは自分勝手な思い込みに気を取られ、客観的な判断ができなくなっている状況に対して使われます。
例文
- 彼は一つのミスを気にするあまり、プロジェクト全体の進行を止めてしまっている。まさに一葉落ちて泰山を覆うだ。
- あの人の過去の噂話にとらわれて、彼の実力や誠実さが見えなくなっているとしたら、それは一葉落ちて泰山を覆うということだよ。
- 一葉落ちて泰山を覆うと言うように、目先の利益に固執して、会社の信用という大きな財産を失ってはならない。
「一葉落ちて泰山を覆う」の類義語・関連語
「全体が見えていない」という意味の言葉はいくつかありますが、何が視界を遮っているかによって使い分けられます。
- 木を見て森を見ず(きをみてもりをみず):
細部に気を取られて、全体像をつかめないこと。
※「一葉〜」は障害物(偏見など)が邪魔をするニュアンスが強いのに対し、「木を見て〜」は細部への過集中を指します。 - 鹿を逐う者は山を見ず(しかをおうものはやまをみず):
目先の利益や獲物を追うことに熱中して、周囲の危険や道理を顧みないこと。
※欲や目標への執着が原因である場合に使います。 - 群盲象を撫でる(ぐんもうぞうをなでる):
凡人が大人物や大事業の一部だけを見て、あれこれと勝手な批評をすること。全体を理解できていない点では共通します。
「一葉落ちて泰山を覆う」の英語表現
英語にも、小さなものが大きな視界を遮るという概念や、全体が見えない状況を表す言葉があります。
A single leaf before the eye blocks out Mount Tai.
- 意味:「目の一枚前の葉が泰山を遮る」
- 解説:このことわざの直訳的な表現です。”blocks out”(遮断する)を使ってニュアンスを伝えます。
blind one to the truth
- 意味:「(何かによって)真実に対して盲目になる」
- 解説:偏見や感情などが原因で、真実が見えなくなる状況を表します。
- 例文:
Prejudice can blind one to the truth.
(偏見は、人の目を真実から遠ざけてしまう。)
「一葉落ちて泰山を覆う」に関する豆知識
「泰山」の偉大さと葉っぱの対比
ことわざに出てくる「泰山(たいざん)」は、中国の山東省にある標高1,500メートル級の山です。
単に高いだけでなく、歴代の皇帝が天を祀る儀式(封禅)を行った聖地であり、中国文化において「最も尊く、偉大なもの」の象徴とされています。
「泰山鳴動して鼠一匹」など、他のことわざにも登場します。
この言葉の面白さは、その偉大な泰山を隠してしまうのが、巨大な壁や雲ではなく、たった一枚の「木の葉」であるという点です。
「障害の大きさ(物理的なサイズ)は関係ない。それをどこに置くか(目の前か、遠くか)が問題なのだ」という鋭い心理的洞察が含まれています。

まとめ – 心の目の前の葉を取り除く
「一葉落ちて泰山を覆う」は、私たちが見ている世界が、実は自分の「思い込み」という小さな葉っぱ一枚で簡単に歪められてしまうことを教えてくれます。
何かに行き詰まったり、誰かのことが理解できなくなったりした時は、目の前に小さな葉っぱを置いてしまっていないか、自分自身に問いかけてみてください。その葉を取り除くだけで、目の前に雄大な景色が広がっていることに気づくかもしれません。





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