意味
「一を聞いて十を知る(いちをきいてじゅうをしる)」とは、ほんの一部を耳にしただけで、物事の全体像や本質までをたちどころに悟ってしまうという意味です。
非常に聡明で、察しが良く、洞察力に優れている人をほめるときに用いられます。
語源・由来
「一を聞いて十を知る」は、中国の思想書『論語』に由来する故事成語です。
ある時、孔子が優秀な弟子である子貢に対し、「お前と顔回とでは、どちらが優れているか」と尋ねました。
すると子貢は、「私など到底及びません。顔回は一を聞いて十を知りますが、私はせいぜい二を知る程度です」と、自分との差を認めて顔回をほめました。
日本でも古くから使われ、奈良時代の成立とみられる聖徳太子の伝記『上宮聖徳法王帝説』に「一を聞きて八を智る」とあります。
江戸時代までは「一をもって万を知る」の形のほうがよく使われ、今の「一を聞いて十を知る」は少数派でした。
使い方・例文
「一を聞いて十を知る」は、人の賢さや頭の回転の速さを高く評価し、感心する場面で使われます。
- 新人に企画の狙いを一言伝えただけで、資料の構成まで考えてきた。まさに一を聞いて十を知るだ。
- 先生が一問を解説しただけで、兄は同じ型の問題を全部解いてしまった。一を聞いて十を知る子と言われるわけだ。
類義語・関連語
「一を聞いて十を知る」と似た意味を持つ言葉には以下のようなものがあります。
- 一斑を見て全豹を知る(いっぱんをみてぜんぴょうをしる):
わずかな部分を見ただけで、全体の様子を推し量ること。「斑」はヒョウのまだら模様の一つを指す。 - 目から鼻へ抜ける(めからはなへぬける):
非常に賢く、物事の理解が早くて抜け目がないさま。 - 一を以て万を知る(いちをもってばんをしる):
一つの事柄から、他のすべての事柄を推し量ること。
対義語
「一を聞いて十を知る」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 一を知りて二を知らず(いちをしりてにをしらず):
物事の一面だけを知って、ほかの面には考えが及ばないこと。見識が狭いことのたとえ。 - 一知半解(いっちはんかい):
表面をなぞった程度の知識で、物事を深く分かっていないこと。
英語表現
「一を聞いて十を知る」を英語で表現する場合、以下のようになります。
A word to the wise is enough
意味:賢い人には一言で足りる。
察しのよい人には、くどくど説明しなくても通じるということ。
I didn’t have to explain it to him; a word to the wise is enough.
(彼に説明する必要はなかった。察しのいい人には一言で足りる。)
quick on the uptake
意味:理解が早い、飲み込みが早い。
日常会話でよく使われる表現です。
She is very quick on the uptake.
(彼女は一を聞いて十を知るタイプだ。)
顔回をめぐる孔子の返事に二通りの読み
子貢の答えを聞いた孔子は、「弗如也、吾与女弗如也」と返しました。
前半は「如かざるなり」(及ばない)で、子貢の答えを認めています。
後半の「与」を「と」と読めば「吾と女と如かざるなり」(わたしもお前も、顔回には及ばない)となり、孔子が自分を顔回より下に置いたことになります。
三国時代・魏の何晏の『論語集解』が引く古い注は、この読みを取り、子貢を慰めるために言ったのだと説明しています。
一方、南宋の朱子は『論語集注』で「與は許なり」(「與」は認めるという意味だ)と注をつけました。
この読みでは「お前が及ばないと自分で認めたのを、わたしは良しとする」となり、孔子は自分を比べていません。
師の孔子が弟子より自分を下に置いたかどうかが、「与」の一字の読みで分かれているわけです。















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