楽しみにとっておいた公園でのランチタイム。
袋からサンドイッチを取り出した瞬間、上空から音もなく舞い降りてきた影に、あっと言う間に獲物を奪われて呆然と立ち尽くす。
そんな風に、大切なものを不意に横から奪い取られてしまうことを、
「とんびに油揚げをさらわれる」(とんびにあぶらあげをさらわれる)と言います。
意味・教訓
「とんびに油揚げをさらわれる」とは、自分が手にするはずだったものや、大切に持っていたものを、不意に横から奪い取られることのたとえです。
単に「盗まれる」というだけでなく、相手のすばやい動きに翻弄され、抵抗する間もなくあっけなく失ってしまうというニュアンスが含まれます。
また、自分自身が油断していたり、ぼんやりしていたりしたために隙を突かれた、という戒めの意味で使われることもあります。
語源・由来
「とんびに油揚げをさらわれる」の語源は、身近な野鳥であるトビ(トンビ)の習性にあります。
トンビはタカ科の鳥で、非常に目が良く、高い空を旋回しながら地上や水辺の獲物を探します。
人間が手に持っている食べ物、特にキツネの好物であり供え物としても一般的だった「油揚げ」などを、一瞬の隙を突いて急降下し、鋭い爪でひったくっていく光景は古くからよく見られました。
このように、空中で獲物を狙っていた者に、予期せぬタイミングで大切なものを奪い去られる驚きと喪失感が、言葉の由来となっています。
かつて「江戸いろはかるた」の読み札の一つとして採用されたことで、庶民の間にも広く定着しました。
使い方・例文
自分が主導権を握っていたはずの場面や、当然手に入ると思っていたものが他人の手に渡ってしまった状況で使われます。
- 欲しかった商品を、とんびに油揚げをさらわれるように横から買われた。
- 自分の手柄を、同僚にとんびに油揚げをさらわれるように横取りされた。
- 最後の唐揚げを、妹にとんびに油揚げをさらわれるように食べられた。
誤用・注意点
この言葉は、あくまで「不意に奪われる」「あっけなく失う」という客観的な状況や、自分の「油断」を指すものです。
そのため、単に相手の実力を称賛する場面や、正当な競争で負けただけの時に使うのは不適切です。
また、自分より立場が上の人(上司や先生など)が何かを奪われた際にこの言葉を使うと、「ぼんやりしていた」という批判的な響きが含まれるため、失礼にあたる可能性があります。
類義語・関連語
「とんびに油揚げをさらわれる」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 出し抜かれる(だしぬかれる):
相手に先を越されたり、意表を突かれたりして、利益やチャンスを奪われること。 - 寝耳に水(ねみみにみず):
予期せぬ出来事が突然起こり、ひどく驚くこと。 - 足をすくわれる(あしをすくわれる):
隙を突かれて、有利だった状況を急にひっくり返されること。 - お株を奪われる(おかぶをうばわれる):
その人の得意技や専売特許だったものを、他人がより鮮やかにやってのけること。
対義語
「とんびに油揚げをさらわれる」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 先んずれば人を制す(さきんずればひとをせいす):
他人よりも先に手を打てば、有利な立場に立ち、相手をコントロールできるということ。 - 漁夫の利(ぎょふのり):
当事者同士が争っている隙に、第三者が苦労せず利益を横取りすること。
英語表現
「とんびに油揚げをさらわれる」を英語で表現する場合、以下の表現がニュアンスに近いです。
Have something snatched away from right under one’s nose
「鼻の先から何かをひったくられる」という直訳で、目の前にあったものを一瞬で奪われる様子を表します。
- 例文:
- I had the contract snatched away from right under my nose by a rival company.
(ライバル会社に、鼻の先で(とんびに油揚げをさらわれるように)契約を奪われた。)
Be caught napping
「居眠りしているところを捕まる」という意味から、油断している間にチャンスを逃したり、出し抜かれたりすることを指します。
- 例文:
- The goalkeeper was caught napping and let the ball in.
(ゴールキーパーが油断している隙に(とんびに油揚げをさらわれるように)ゴールを許した。)
まとめ
「とんびに油揚げをさらわれる」は、私たちが日常で感じる「まさか」という驚きと、一瞬の油断が生む喪失感を実に見事に描写した言葉です。
高い空から虎視眈々とチャンスを狙う存在は、現代社会のあらゆる場面に潜んでいるかもしれません。
この言葉を教訓として心に留めておくことで、手の中にある大切なものを守るための、程よい緊張感を保つことができることでしょう。




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