急激な腹痛に襲われたときや、解決の糸口が見えないほどの難題に直面したとき、人はただ静かに耐えることができず、身をよじってもがくことがあります。
そのような、あまりの苦しさに転げ回る様子を、
「七転八倒」(しちてんばっとう)と言います。
意味・教訓
「七転八倒」とは、激しい苦痛のあまり、何度も転げ回ってもがき苦しむことを指します。
肉体的な痛みだけでなく、精神的な悩みや混乱によって激しく動揺し、収拾がつかなくなる状態も含みます。
- 七・八:回数が多いことを表す。
- 転(てん):ころがる。
- 倒(とう):たおれる。
語源・由来
「七転八倒」の由来は、仏教の経典にある地獄の描写だとされています。
地獄に落ちた罪人が、あまりの責め苦に耐えかねて、地面を何度も転げ回って悶え苦しむ様子がこの言葉の起源です。
ここで使われている「七」や「八」は、具体的な数字ではありません。
「何度も」「激しく」といった強調の意味で重ねられており、執拗に続く苦しみの深さを物語っています。
なお、同じ数字を使った言葉に 七転び八起き がありますが、あちらは「不屈の精神」を説くのに対し、この言葉は純粋に「苦痛の激しさ」に焦点を当てています。
使い方・例文
身体的な激痛から、受験勉強や仕事のプレッシャーによる精神的な追い詰められ方まで、幅広く使われます。
例文
- 夜中に突然ひどい虫歯が痛み出し、朝まで七転八倒した。
- 練習メニューが厳しすぎて、部員たちはグラウンドで七転八倒している。
- 難解な数学の証明問題に、彼は一晩中七転八倒しながら取り組んだ。
- 資金繰りの悩みで、経営者は七転八倒の苦しみを味わっている。
文学作品での使用例
『吾輩は猫である』(夏目漱石)
猫が餅を食べてしまい、口にくっついて取れなくなったパニック状態を滑稽かつ哀れに描写する場面で登場します。
苦悶の極、七転八倒して、あがけるだけあがいたが、やはり餅は落ちない。
誤用・注意点
「七転八倒」は、本人が心底困り果て、もがき苦しんでいる様子を表します。
そのため、単に「忙しい」という程度の状況や、「一生懸命に遊んでいる」といったポジティブな場面で使うのは適切ではありません。
また、「七転び八起き」と混同し、失敗しても立ち上がるという意味で使うのは明確な誤用です。
「七転八倒」には「起き上がる」というニュアンスは含まれず、あくまで「苦しみもがいている最中」の描写であることを理解しておきましょう。
類義語・関連語
「七転八倒」と似た、強い苦しみや動揺を表す言葉には以下のものがあります。
- 悶絶(もんぜつ):
あまりの苦しさに気を失いそうになること。 - 身悶え(みもだえ):
苦しさや悲しさで、体をよじってもがくこと。 - のたうち回る(のたうちまわる):
苦しみに耐えかねて、転げ回ること。 - 阿鼻叫喚(あびきょうかん):
凄惨な状況で、泣き叫び、救いを求めるむごたらしい様子。
対義語
「七転八倒」とは対照的な、穏やかで何事もない状態を指す言葉です。
- 平穏無事(へいおんぶじ):
変わったこともなく、穏やかで安らかなこと。
英語表現
「七転八倒」を英語で表現する場合、身体的な苦痛か、精神的な苦悩かによって言葉を使い分けます。
Writhe in agony
「苦痛でもだえ苦しむ」という、身体的なのたうち回りを表す直訳に近い表現です。
「激しい痛みで身をよじる」ニュアンスが強くなります。
- 例文:
He was writhing in agony from a sudden stomach cramp.
(彼は突然の胃痛で、七転八倒していた。)
Toss and turn
「(悩みや痛みで)一晩中寝返りを打つ」という意味です。
布団の中で悶々とし、苦しんでいる様子を表現する際に適しています。
- 例文:
I tossed and turned all night thinking about the exam.
(試験のことが気になり、一晩中七転八倒した。)
まとめ
「七転八倒」は、地獄の責め苦に由来するほど、深刻で逃げ場のない苦しみを象徴する言葉です。
人生には、自分の力だけではどうにもならず、もがき苦しむしかない時期が訪れることもあるかもしれません。
しかし、その激しい揺れ動きこそが、事態を打開しようとする生命力の現れであるとも言えるのではないでしょうか。
言葉の重みを正しく知ることで、自分や他人の直面している苦しみを、より深く理解する一助になることでしょう。





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