ことわざ 故事成語

弘法筆を選ばず

(こうぼうふでをえらばず)

真の達人は道具の良し悪しに左右されず、持てる技術を最大限に発揮するという教え。


11文字の言葉 / 「こ・ご」から始まる言葉
弘法筆を選ばず ことば
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意味

「弘法筆を選ばず(こうぼうふでをえらばず)」とは、真の達人は道具の良し悪しを問題にせず、どのような道具であっても自分の持てる技術を最大限に発揮するという意味です。
自分の失敗を道具のせいにすることを強く戒めると同時に、卓越した能力を素直に褒め称える際にも使われる、誇り高い響きを持った表現です。

  • 弘法(こうぼう):平安時代の高名なお坊さんである空海のこと。
  • 筆(ふで):文字を書くための道具。
  • 選ばず:えり好みをしない。

語源・由来

「弘法筆を選ばず」という言葉は、平安時代の初めに活躍したお坊さんの空海(弘法大師)の名を挙げたことわざです。
空海は書道の名人としても名高く、嵯峨天皇さがてんのうや橘逸勢たちばなのはやなりとともに、優れた書き手として「三筆」と称えられていました。

その空海ほどの書の名人になれば、筆の良し悪しは問題にしないというたとえです。
明治前期までは、同じ意味で「能書筆を選ばず」と言うのが一般的でした。

使い方・例文

「弘法筆を選ばず」は、自分自身の未熟さを反省する際や、他人の素晴らしい技術を称賛する場面で使われます。

  • 家庭用の包丁一本で一流の料理を作り上げる姿は、まさに弘法筆を選ばずである。
  • 道具を愚痴る前に自分の腕を磨くべきだ。弘法筆を選ばずと言うだろう。
  • 彼女は百円の筆記具でもプロ級の絵を描く。まさに弘法筆を選ばずだ。

使用上の注意点

道具を粗末に扱うことではない

この言葉は、技術があれば道具は何でもいいと勧めるものではありません。
あくまで「腕があれば道具の欠点を乗り越えられる」という意味であり、最初からあえて質の悪い道具を選ぶことが正しいと言っているわけではない点に注意が必要です。

相手への評価として使う場合

目上の人に対して「部長は弘法筆を選ばずですね」と言うと、受け取り方によっては「私が使いにくい道具を使っているように見えるのか」と不快にさせてしまう可能性があります。
基本的には第三者の実力を評するか、自分を戒める表現として使うのが無難です。

類義語・関連語

「弘法筆を選ばず」と同様に、本人の腕前こそが大切であることを教える言葉には以下のようなものがあります。

  • 能書筆を選ばず(のうしょふでをえらばず):
    字が上手な人は、筆の良し悪しにかかわらず立派な書を書く。
  • 上手は得物を選ばず(じょうずはえものをえらばず):
    腕の良い者は、どのような武器や道具であっても見事に使いこなす。
  • 名人は道具を択ばず(めいじんはどうぐをえらばず):
    優れた技術を持つ人は、どんな道具を使っても素晴らしい成果を出す。

「弘法筆を選ばず」と類義語の違い

「弘法筆を選ばず」と類義語の違いは、何を「選ばない」とするかと、名人を誰で表すかにあります。

語句選ばないもの違い
弘法筆を選ばず筆書の名人の代表として弘法大師を挙げた形。現在はこの形が一般的
能書筆を選ばず筆名人を「能書(字の上手な人)」と一般的に言う形。明治前期まではこちらが一般的
上手は得物を選ばず得物(武器や道具)書に限らず、武器や道具を使う腕前全般について言う形

対義語

「弘法筆を選ばず」とは反対に、実力がない人ほど道具のせいにすることを表す言葉として以下があります。

  • 下手の道具調べ(へたのどうぐしらべ):
    技術が未熟な人ほど、道具の質を気にしたり、準備の不備を言い訳にしたりする。

英語表現

A bad workman quarrels with his tools

直訳は「腕の悪い職人は自分の道具と喧嘩する」で、自分の未熟さを道具のせいにする人を戒めるフレーズ。

He kept complaining about the kitchen knife, but a bad workman blames his tools.
(彼は包丁に文句ばかり言っていたが、腕の悪い人ほど道具のせいにするものだ。)

道具にうるさかった、弘法大師の素顔

「弘法筆を選ばず」という言葉がある一方で、空海は実際には道具の質を重視した人物でした。
彼の詩文をまとめた『性霊集しょうりょうしゅう』などの記録には、良い書を書くためには筆をよく選ぶことが大切である、という趣旨の考えが記されています。

空海は当時の中国から最新の筆の作り方を持ち帰り、狸の毛を使った筆を職人に作らせるなど、道具の改良に非常に熱心でした。
弘仁3年(812年)6月7日には、狸の毛で作った筆4本を嵯峨天皇さがてんのうに献上しています。
実際には名人も道具を吟味することが多いため、「弘法筆を選ぶ」という言い方もあります。

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