準備の大切さは誰もがわかっていても、人はなかなか事前に動けないものです。
そして気づいたときにはすでに手遅れ——そんな人間の性をユーモラスに突いたのが、
「泥棒を捕らえて縄を綯う」(どろぼうをとらえてなわをなう)ということわざです。
意味
「泥棒を捕らえて縄を綯う」とは、事が起きてから慌てて対策や準備を始めることのたとえです。
「綯う(なう)」は糸やわらをより合わせて縄を作ることを指します。
泥棒を取り押さえてから縛る縄を作り始めるという、順序が完全に逆転した間の抜けた光景がそのまま言葉になりました。
「泥縄(どろなわ)」と略して使われることも多く、「泥縄式の勉強」のように日常的な表現としても定着しています。
語源・由来
江戸時代以前、縄はわらを手でより合わせて各家庭で作るものでした。
いざ泥棒を捕まえても、縛る縄がなければどうにもなりません。
その切迫した場面でのんびりわらを編み始めるという滑稽な情景が、準備不足への戒めとして人々の間に根付いていきました。
使い方・例文
「泥棒を捕らえて縄を綯う」は、計画性のなさや、準備不足のまま急場をしのぐ対応を批判・自嘲する際に使われます。
- 事件が起きてから対策会議とは、泥棒を捕らえて縄を綯うだ。
- トラブル後に準備を始めても、泥棒を捕らえて縄を綯うにすぎない。
- 被害が出てから警備を強化するとは、まさに泥棒を捕らえて縄を綯うだ。
類義語・関連語
「泥棒を捕らえて縄を綯う」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 泥縄(どろなわ):
「泥棒を捕らえて縄を綯う」の略語。事が起こってから慌てて準備をすること。 - 渇して井を穿つ(かっしていをうがつ):
喉が渇いてから井戸を掘り始めること。準備が遅すぎて役に立たないことのたとえ。 - 戦を見て矢を矧ぐ(たたかいをみてやをはぐ):
戦いが始まってから、慌てて矢を作り始めること。 - 難に臨んで遽かに兵を鋳る(なんにのぞんでにわかにへいをいる):
- 災難や戦争が起きてから、慌てて武器を鋳造すること。
対義語
「泥棒を捕らえて縄を綯う」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ):
失敗しないように、前もって準備をしておくこと。 - 濡れぬ先の傘(ぬれぬさきのかさ):
雨が降る前に傘を用意するように、手遅れになる前に備えておくこと。 - 備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし):
日頃から準備をしておけば、いざという時に心配することがないということ。
英語表現
「泥棒を捕らえて縄を綯う」を英語で表現する場合、以下の慣用句が使われます。
lock the stable door after the horse has bolted
直訳:馬が逃げた後に馬小屋の鍵をかける
意味:手遅れになってから対策を講じること
泥棒に入られてからセキュリティを強化するような、まさに同じ状況を描写した表現です。
(アメリカ英語では lock the barn door after the horse is stolen とも言います)
- 例文:
It is like locking the stable door after the horse has bolted.
それは泥棒を捕らえて縄を綯うようなものだ。
「縄を綯う」は、そう簡単ではない
現代人には馴染みが薄いですが、縄を綯う作業には相応の技術と時間が必要です。
両手のひらでわらを擦り合わせながら捩っていくのですが、素人がやるとすぐに解けてしまったり、太さが不均一になったりします。
ましてや暴れる泥棒を押さえながら丈夫な縄を作ることなど、物理的に不可能です。
このことわざが単なる「遅い」という戒めにとどまらず、どこかおかしみを感じさせるのは、その滑稽で実現不可能な情景が目に浮かぶからかもしれません。
まとめ
「泥棒を捕らえて縄を綯う」は、準備不足のまま事態を迎えてしまうことへの戒めです。
泥縄式の対応は焦りを生み、焦りがさらなるミスを招く。
その悪循環を断ち切るのは、平時のうちに「縄」を用意しておくという、ごく当たり前の心がけに尽きるのでしょう。







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