愛猫家の方なら、猫がある特定の匂いを嗅いだ途端、うっとりとして体をくねらせ、ゴロゴロと喉を鳴らす姿を見たことがあるかもしれません。
「猫にまたたび」(ねこにまたたび)とは、まさにその強烈な反応を人間に当てはめた言葉です。
単に「大好物」というだけでなく、「効果てきめん」という意味も持つこの言葉について、その由来や正しい使い方、似ているけれど意味が正反対の「猫に鰹節」との決定的違いなどを解説します。
意味
「猫にまたたび」とは、以下の2つの意味を持つ言葉です。
- 非常に好きなものを与えられて、元気がなくなっていたものが活気づくことのたとえ。
- 効果がてきめんに現れることのたとえ。
一般的には、大好物を前にして夢中になる様子や、それによって機嫌が良くなる様子を指して使われます。また、ある対策や手段が驚くほど効果を発揮する場面でも用いられます。
江戸時代には「猫にまたたび、お女郎に小判」と続けて言われることもあり、抗えない魅力や効果の強さを強調する言葉として使われてきました。
語源・由来
この言葉は、植物のマタタビ(木天蓼)に対する猫の特異な反応に由来します。
マタタビは日本や中国などに分布するつる性の植物です。
古くから、猫がこの植物の匂いを嗅いだり食べたりすると、酒に酔ったような恍惚状態になり、身も世もなく陶酔することが知られていました。
江戸時代の浮世絵(歌川芳藤『猫鼠合戦』など)にも、マタタビを使って猫を骨抜きにするネズミの姿が描かれており、この現象が古くから人々に知られていたことが分かります。
現代の研究では、マタタビに含まれる「ネペタラクトール」や「マタタビラクトン」といった成分が、猫の上あごにあるヤコブソン器官(嗅覚器官)を通じて中枢神経に作用し、多幸感をもたらすことが分かっています。
この反応があまりに劇的であることから、大好物の代名詞や、即効性のあるもののたとえとして定着しました。
使い方・例文
日常会話では、誰かが何かに夢中になっている様子や、ある物が特定の人に対して絶大な効果を発揮する状況で使います。
例文
- 甘いものに目がない彼女にとって、限定スイーツはまさに猫にまたたびだ。
- 彼にこの資料を見せれば説得は簡単だろう。このデータは彼にとって猫にまたたびだからね。
- 不機嫌だった部長も、孫の写真を見せたら猫にまたたびで、すぐ笑顔になった。
【重要】「猫に鰹節」との違い
「猫にまたたび」と混同しやすい言葉に「猫に鰹節」があります。
どちらも「猫の好物」を使っていますが、意味は大きく異なります。
| 言葉 | 意味の核心 | ニュアンス |
|---|---|---|
| 猫にまたたび | 効果・好物 | 良い結果、喜び、夢中になる様子。 |
| 猫に鰹節 | 危険・油断大敵 | 盗まれる危険性、過ちを犯しやすい状況。 |
- 猫にまたたび:
与えると喜ぶ、効果がある。(ポジティブな文脈が多い) - 猫に鰹節:
そばに置くと盗み食いされるので油断できない。(警告や注意の文脈)
誤って「彼に機密文書を管理させるなんて、猫にまたたびだ(正:猫に鰹節)」と言わないよう注意が必要です。
類義語・関連語
「猫にまたたび」と似た意味を持つ言葉には以下のようなものがあります。
- 泣く子に乳(なくこにちち):
泣いている子に乳を与えるとすぐに泣き止むことから、効果がてきめんであることのたとえ。また、待ち望んでいたものが手に入ること。 - 女郎に小判(じょろうにこばん):
非常に好むもののたとえ。また、効き目が著しいことのたとえ。「猫にまたたび」とセットで使われていた言葉です。 - 渡りに船(わたりにふね):
困っているときに、ちょうど都合の良い助けが現れること。好物という意味はありませんが、状況が好転する点では関連があります。
対義語
「猫にまたたび」とは対照的に、「価値がわからない」「効果がない」という意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 猫に小判(ねこにこばん):
どんなに高価なものでも、その価値がわからない人に与えても無駄であること。 - 馬の耳に念仏(うまのみみにねんぶつ):
いくら意見をしても、相手がありがたみを感じず、全く効き目がないこと。 - 豚に真珠(ぶたにしんじゅ):
価値のわからない者に高価なものを与えても意味がないこと。「猫に小判」と同義。
英語表現
「猫にまたたび」を英語で表現する場合、マタタビの代わりに西洋で一般的な「イヌハッカ(Catnip)」を用います。
like catnip to a cat
- 意味:「猫にとってのイヌハッカ(キャットニップ)のように」
- 解説:誰かにとって非常に魅力的であることや、抗えないほど惹きつけられるものを指す表現です。
- 例文:
This new gadget is like catnip to a cat for tech enthusiasts.
(この新しいガジェットは、技術愛好家にとっては猫にまたたびのようなものだ。)
マタタビと蚊除けの科学
長年、猫のマタタビ反応は単なる「快楽」のためだと考えられてきました。
しかし、近年の研究(2021年、岩手大学などの国際研究グループ)により、マタタビに対する反応には蚊を寄せ付けないための防虫効果があることが科学的に証明されました。
猫がマタタビの葉に体をこすりつける行動は、成分(ネペタラクトール)を体に付着させ、感染症を媒介する蚊から身を守るための生存戦略だったのです。
「猫にまたたび」という言葉には、単なる「好き」を超えた、生き物の深い知恵が隠されていたと言えます。
まとめ
「猫にまたたび」は、単に「大好物」を指すだけでなく、沈んだ気持ちを一瞬で活気づける「特効薬」のような存在を表す言葉です。
誰にでも、疲れを吹き飛ばし、夢中になれる「自分だけのマタタビ」があるものです。
疲れたときには、この言葉を思い出して、自分にとっての「またたび」に頼ってみるのも、健やかに過ごすための知恵と言えるでしょう。









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