苦肉の策

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ことわざ 故事成語
苦肉の策
(くにくのさく)
異形:苦肉の計/苦肉の謀

6文字の言葉く・ぐ」から始まる言葉

会議やトラブル対応の現場で、「これは苦肉の策ですが……」という言葉を耳にしたことはありませんか?
一般的には「苦し紛れにひねり出した、ギリギリの手段」というニュアンスで使われていますが、この言葉の背景には、本来もっと壮絶で、血なまぐさい命がけの物語が隠されています。

現代では少し軽い意味で使われがちな「苦肉の策」について、その衝撃的な本来の意味や由来、そして現代における正しい使い方を紐解いていきます。

「苦肉の策」の意味

苦肉の策とは、大きく分けて以下の2つの意味を持つ言葉です。

  1. 敵をあざむくために、自分の身をあえて傷つけて行うはかりごと。(本来の意味)
  2. 苦境を脱するために、苦し紛れに考え出した手段。(現代で一般的な意味)

本来は、敵を信用させるために「自分の肉体を苦しめる」という、文字通り身を削る計略を指しました。
しかし現代では、そこまでの自己犠牲を伴わずとも、追い詰められた状況でなんとかひねり出した一時しのぎの対応や、苦しい言い逃れなどを指して広く使われています。

「苦肉の策」の語源・由来

この言葉は、中国の古典小説『三国志演義』や、兵法書『兵法三十六計』にある「苦肉の計(くにくのけい)」に由来します。

最も有名なエピソードは、『三国志演義』のクライマックス、「赤壁の戦い」の場面です。
圧倒的な兵力を誇る曹操(そうそう)軍に対し、数で劣る孫権・劉備連合軍の司令官・周瑜(しゅうゆ)と、老将・黄蓋(こうがい)はある計略を企てました。

それは、黄蓋がわざと周瑜に反抗し、激怒した周瑜が黄蓋を「棒叩きの刑」に処すというものでした。
老齢の身でありながら、皮が裂け血が流れるほど激しく打ち据えられた黄蓋を見て、周囲の誰もが「二人の仲は決裂した」と信じ込み、黄蓋に同情しました。

しかし、これこそが二人が示した「苦肉の計」でした。
スパイを通じてこの情報を掴んだ曹操は、「あれほどひどい仕打ちを受けた黄蓋なら、周瑜を恨んで裏切るに違いない」と確信し、黄蓋からの「偽りの降伏」を受け入れてしまいます。
その結果、黄蓋は曹操軍の船団に接近することに成功し、火を放って曹操軍を壊滅へと追い込んだのです。

このように、自分の身を痛めつけることで敵の目を欺く捨て身の作戦が、本来の「苦肉の策」です。

「苦肉の策」の使い方・例文

現代の日常会話やビジネスシーンでは、本来の「自傷行為」という意味は薄れ、「追い詰められた末の手段」という文脈で使われます。

例文

  • 予算がどうしても足りず、苦肉の策として宣伝費を大幅にカットした。
  • 彼がとっさについた嘘は、その場を切り抜けるための苦肉の策だったのだろう。
  • 渋滞で約束の時間に間に合わないため、苦肉の策で途中から電車に乗り換えた。

使用上の注意点

本来の由来に基づき「苦肉の計」と言う場合もありますが、現代の日常用語としては「苦肉の策」が一般的です。
主要な国語辞典の多くが「苦し紛れに考え出した手段」という意味を記載しているため、現代語として使用することに問題はありません。
ただし、言葉の歴史に詳しい相手に対して使う場合、単なる「安易な妥協案」を「苦肉の策」と呼ぶと、「身を切るような覚悟が足りない」と違和感を持たれる可能性もゼロではないことは、知識として持っておくとよいでしょう。

「苦肉の策」の類義語・関連語

状況に応じた「ギリギリの手段」を表す言葉です。

  • 窮余の策(きゅうよのさく):
    追い詰められて困り果てた末に、なんとかひねり出した策。
    窮余の一策」とも言う。現代で使われる「苦肉の策」の意味に最も近く、言い換えに適した言葉。
  • 背水の陣(はいすいのじん):
    失敗すれば後がないという覚悟で、全力を挙げて物事に取り組むこと。
    具体的な「策」というよりは「状況や態勢」を指す。
  • 捨て身の戦法(すてみのせんぽう):
    自分の身がどうなってもかまわないという覚悟で挑むこと。
    本来の「苦肉の策」に近いニュアンスを持つ。

「苦肉の策」の対義語

「ギリギリの手段」や「奇策」とは対照的な、余裕のある状態や正攻法を表す言葉です。

  • 万全の策(ばんぜんのさく):
    少しの手落ちもない、完全なはかりごと。
  • 常套手段(じょうとうしゅだん):
    ある場合にいつも決まってとられる手段。ありふれたやり方。
  • 王道(おうどう):
    楽な近道や奇策ではなく、正統派のやり方。

「苦肉の策」の英語表現

英語では「絶望的な状況での手段」や「最後の手段」といったニュアンスで表現されます。

desperate measure

  • 意味:「絶望的な手段」「捨て身の処置」
  • 解説:追い詰められた状況でとられる、極端または危険な行動を指します。
  • 例文:
    The company took desperate measures to avoid bankruptcy.
    (その会社は倒産を避けるために、苦肉の策をとった。)

last resort

  • 意味:「最後の手段」「頼みの綱」
  • 解説:他に方法がない場合に最終的に選ぶ手段のことです。
  • 例文:
    Asking for a loan was a last resort.
    (借金を頼むのは、苦肉の策(最後の手段)だった。)

「苦肉の策」に関する豆知識

『兵法三十六計』における位置づけ

中国の兵法書『兵法三十六計』では、計略が6つのカテゴリーに分類されています。
「苦肉の計」は、その中の「敗戦計(はいせんけい)」の一つとして数えられています。
敗戦計とは、自軍が劣勢にある時に用いる計略のこと。
まさに、自分の身を傷つけて弱っているように見せかけ、油断した敵の懐に入り込むという、弱者の立場を逆手に取った高度な心理戦術なのです。

まとめ

苦肉の策とは、現代では「苦し紛れに考え出した手段」として広く使われていますが、本来は「敵を欺くために、わが身を傷つける捨て身の計略」を意味する言葉です。

『三国志演義』の赤壁の戦いで、老将・黄蓋が自らを犠牲にして勝利を呼び込んだエピソードは、この言葉の持つ「覚悟」の重さを伝えています。
ビジネスや日常で「苦肉の策」と言うとき、それが単なる「思いつき」なのか、それとも「身を切るような覚悟の決断」なのか、状況に合わせて使い分けると、言葉の奥行きがより深まるでしょう。

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