意味
「苦肉の策(くにくのさく)」とは、苦しい状況を切り抜けるために、自分を犠牲にしてまでひねり出した手段という意味です。
本来は、敵をあざむくために自分の身をあえて傷つけて、相手の信用を得るための計略を指しました。
現代では意味が広がり、そこまでの自己犠牲を伴わなくても、追い詰められた末になんとかひねり出した「最後の手段」や「苦し紛れの対応」という意味で一般的に使われています。
語源・由来
「苦肉の策」の語源は、中国の軍事兵法書『三十六計』や、古典小説『三国志演義』に登場する「苦肉の計」にあります。
最も有名な由来は、西暦208年の「赤壁の戦い」でのエピソードです。
孫権軍の司令官・周瑜(しゅうゆ)と老将・黄蓋(こうがい)は、圧倒的な兵力を持つ曹操軍を打ち破るため、一芝居を打ちました。
黄蓋はわざと周瑜に反抗し、見せしめとして激しい棒叩きの刑に処されます。
黄蓋が刑を受けたという知らせは、呉に潜り込んでいた曹操側の間者の密書で届きます。
それを読んだ曹操は、二人の仲が完全に裂けたと信じ込み、黄蓋の「偽りの降伏」を受け入れてしまいました。
油断して近づいた黄蓋の火攻めにより、曹操軍の船団は壊滅。
このように、わが身を傷つけることで敵を欺く捨て身の作戦が、この言葉の起源です。
使い方・例文
追い詰められた末の選択や、余裕のない状況で妥協案を出すような場面で使われます。
本来の「自分を傷つける」という重い意味だけでなく、日常的な「窮地の策」として定着しています。
例文
- 予算が足りず、規模を縮小して開催することにした。苦肉の策だった。
- 主力が欠場し、急きょ守備重視の布陣に切り替えたのは苦肉の策だ。
- 在庫処分のため大幅値下げに踏み切る。これも苦肉の策と言える。
類義語・関連語
「苦肉の策」と似たニュアンスを持つ、追い詰められた時の表現です。
- 窮余の策(きゅうよのさく):
追い詰められて困り果てた末に、なんとかひねり出した手段。
現代で使われる「苦肉の策」に最も意味が近く、窮余の一策とも言います。 - 背水の陣(はいすいのじん):
一歩も引けない絶体絶命の状況に身を置き、決死の覚悟で挑むこと。 - 捨て身の戦法(すてみのせんぽう):
自分の身を顧みず、覚悟を決めて勝負に出ること。
対義語
余裕がある状態や、小細工のない正攻法を指す言葉です。
- 万全の策(ばんぜんのさく):
少しの抜かりもない、完璧な計画。 - 王道(おうどう):
奇策に頼らない、正当で無理のない進め方。 - 常套手段(じょうとうしゅだん):
同じような場合にいつも決まって使われる、ありふれたやり方。
英語表現
「苦肉の策」を英語で表現する場合、状況の切迫度に合わせて以下のフレーズが使われます。
desperate measure
意味:絶望的な手段、捨て身の処置
追い詰められた末にとる、なりふり構わない行動を指します。
The company took desperate measures to stay afloat.
(その会社は生き残るために、苦肉の策をとった。)
last resort
意味:最後の手段
他に方法がない場合に、最終的に頼る策のことです。
Asking him for help was my last resort.
(彼に助けを求めるのは、私にとって苦肉の策だった。)
芥川龍之介『或日の大石内蔵助』と「苦肉の策」
芥川龍之介の短編『或日の大石内蔵助』(1917年)には、「苦肉の策」と同じ意味の「苦肉の計」が出てきます。
討ち入りを果たして細川家に預けられた内蔵助の前で、細川家の家来・堀内伝右衛門が、京都での内蔵助の遊興は敵の目を欺くための計略だったと褒める場面です。
地の文は伝右衛門の見方に沿って、「島原や祇園の花見の宴も、苦肉の計に耽っている彼には、苦しかったのに相違ない。」と書きます。
しかし内蔵助自身は、その遊興を存分に楽しんだ記憶を思い出しており、「佯狂苦肉の計」を褒められて苦い顔をします。









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