会議で対立する意見をうまくまとめたり、予期せぬトラブルにも笑顔で鮮やかに対応したりする。
そんな、水が流れるように物事を進めるスマートな立ち振る舞いは、多くの人が憧れるものです。
こうした、角がなく自由自在な様子を表す言葉として、「円転滑脱」(えんてんかつだつ)があります。
意味
「円転滑脱」とは、言葉や行動が角立たず、物事をそつなくスムーズに処理することを意味する四字熟語です。
この言葉は、以下の2つの要素が組み合わさってできています。
- 円転(えんてん):丸い玉が転がるように、角がなく滑らかに動くこと。
- 滑脱(かつだつ):何かに引っかかることなく、すらすらと通り抜けること。
つまり、人間関係や仕事において、摩擦(角)を起こさず、かつ停滞することなく、臨機応変に物事を運ぶ能力が高いことを指します。
基本的には「あの人は円転滑脱だ」のように、相手の手腕や人柄を称賛する褒め言葉として使われます。
しかし、文脈によっては「調子が良すぎる」「八方美人」という皮肉を含んで使われることもあるため、前後の文脈に注意が必要です。
語源・由来
「円転滑脱」の由来は、それぞれの漢字が持つ本来の意味に基づいています。
「円」は角がない円満な状態、「転」は動きが止まらない状態を指します。
そこに、「滑」らかで、こだわりなく「脱」する(通り抜ける、抜け出す)という意味が加わり、何事にもとらわれず、自由自在に対応できる様子を強調する言葉として成立しました。
特定の歴史的事件や物語から生まれた言葉(故事成語)ではありませんが、明治時代の文学作品などでは、世渡りのうまさや弁舌の巧みさを表す言葉として頻繁に用いられています。
使い方・例文
「円転滑脱」は、主に人の「能力」や「振る舞い」に対して使われます。
特に、司会進行、交渉、接客、チームの調整役など、高度なコミュニケーション能力や臨機応変さが求められる場面でよく登場します。
例文
- 彼の「円転滑脱」な司会進行のおかげで、重苦しい会議の空気が和らぎ、活発な議論が交わされた。
- どんなに難しいクレームが入っても、彼女は「円転滑脱」に対応し、最後にはお客様を笑顔にしてしまう。
- 組織のリーダーには、強い信念だけでなく、異なる意見を調整する「円転滑脱」な外交手腕も求められる。
文学作品での使用例 『吾輩は猫である』
夏目漱石の代表作『吾輩は猫である』には、人間社会の煩わしさと、そこから離れた心境を対比する場面でこの言葉が登場します。
歓言愉色(かんげんゆしょく)、円転滑脱の世界に逆戻りをしようと云う間際である。
ここでは、愛想よく振る舞い、角を立てずに世間と付き合う「人間社会の処世術」としての側面が描かれています。
類義語・関連語
「円転滑脱」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 融通無碍(ゆうずうむげ):
考え方や行動が何ものにもとらわれず、どのような事態にも自由に対応できること。「円転滑脱」と非常に近い意味ですが、より「心のあり方(執着のなさ)」に焦点が当たることがあります。 - 縦横無尽(じゅうおうむじん):
どの方向にも制限なく、自由自在に振る舞うこと。勢いよく動き回る様子を指してよく使われます。 - 当意即妙(とういそくみょう):
その場の状況に合わせて、即座に機転を利かせた対応をすること。 - 行雲流水(こううんりゅうすい):
空行く雲や流れる水のように、物事に執着せず自然の成り行きに任せること。
対義語
「円転滑脱」とは対照的な意味を持つ言葉は、融通がきかず、堅苦しい様子を表すものが挙げられます。
- 四角四面(しかくしめん):
極めて真面目で堅苦しく、面白みがないこと。角張っていて円滑でない様子。 - 杓子定規(しゃくしじょうぎ):
一つの基準にこだわりすぎて、応用や融通がきかないこと。曲がった柄の杓子(しゃくし)を定規の代わりにはできないことから。
英語表現
「円転滑脱」を英語で表現する場合、状況に応じていくつかの単語が考えられます。
tactful
- 意味:「機転の利く」「角を立てない」「そつのない」
- 解説:相手の感情を害さないように配慮し、巧みに物事を進める様子を表します。人間関係の「円転滑脱」に最も近い表現です。
- 例文:
He is very tactful in dealing with complaints.
(彼はクレーム対応において、非常に円転滑脱だ(そつがない)。)
smooth
- 意味:「滑らかな」「円滑な」「口のうまい」
- 解説:物事が問題なく進む様子や、人の態度が洗練されていて角がない様子を表します。
- 例文:
He has a smooth way of talking.
(彼は円転滑脱な話し方をする。)
円転滑脱についての豆知識
ちなみに、この言葉に含まれる「円」という漢字は、日本の文化において「完全」「調和」を象徴する非常にポジティブな文字です。
「円満」「円熟」など、角が取れて中身が充実している状態を表す言葉が多く存在します。
「円転滑脱」もまた、単に「要領がいい」「調子がいい」というだけでなく、経験を積んで角が取れ、人間としての器が大きくなった状態を含意することがあります。
若い頃は「四角四面」でぶつかることも多いですが、経験を重ねることで徐々に「円転滑脱」な対応が身についていくのかもしれません。
まとめ
「円転滑脱」は、物事を角立てずにスムーズに進める、洗練された振る舞いを表す言葉です。
単にトラブルを避けるだけでなく、周囲との摩擦を減らしながら目的を達成する「大人の知恵」とも言えるでしょう。
ビジネスや人間関係において、このようなしなやかさを持つことは、周囲に安心感を与え、信頼を築く一つの鍵になることでしょう。




コメント