人前でスピーチをしている最中、予想もしなかった鋭い質問が飛んでくる。
一瞬の静寂の後、少しも慌てることなくユーモアを交えて完璧に回答し、会場をどっと沸かせる。
そんな鮮やかな対応を、「当意即妙」(とういそくみょう)と言います。
意味・教訓
「当意即妙」とは、その場の状況や相手の意向を瞬時に察し、即座に機転を利かせた対応をすることです。
- 当意(とうい):
その場の状況や相手の考えに、ぴったりと適合すること。 - 即妙(そくみょう):
即座に(即)、人間業とは思えないほど優れた振る舞い(妙)をすること。
単に反応が速いだけでなく、その中身が知的で優れており、周囲を感服させるようなニュアンスが含まれます。
機転を利かせた巧みな受け答えや、アドリブの利いた行動を称賛する際に使われます。
語源・由来
「当意即妙」という言葉の由来は、仏教の「禅」の教えにあると言われています。
師匠が弟子に対して発する、理屈では答えられないような鋭い問いに対し、弟子が間を置かずに本質を突いた回答を返すことを指していました。
この「当意(相手の意図に当たる)」と「即妙(即座に優れた答えを出す)」という二つの言葉が組み合わさり、現代のように「機転の利いた素晴らしい対応」という意味で一般に広まりました。
江戸時代以降、滑稽本や落語などの世界でも、登場人物の小気味よい切り返しを表現する言葉として定着していった歴史があります。
使い方・例文
「当意即妙」は、日常会話や公の場での受け答え、トラブルへの対処など、機知に富んだ行動全般に対して使われます。
例文
- 彼の当意即妙な冗談のおかげで、重苦しかった会議の雰囲気が一気に和んだ。
- 先生の当意即妙な教え方は、生徒たちの興味を惹きつけて離さない。
- 司会者が当意即妙にアドリブを入れたことで、番組の進行は滞りなく進んだ。
- どんな意地悪な質問にも当意即妙に答える彼女は、クラスの誰もが憧れる存在だ。
文学作品での使用例
『吾輩は猫である』(夏目漱石)
迷亭が珍野先生(主人)に対して、とある大法螺を吹いた後、主人がそれに対して皮肉混じりの返答をした場面で使われています。
主人はこの当意即妙の答えを聞いて、なるほどと感心した。
誤用・注意点
「当意即妙」は基本的にポジティブな評価として使われます。
しかし、あまりにもスラスラと答えすぎると、状況によっては「調子がいい」「口先だけだ」とネガティブに受け取られる可能性もあります。
※目上の人に対して「あなたの対応は当意即妙ですね」と言うのは、相手の能力を評価する(採点する)ような響きがあるため、避けたほうが無難です。
「お見事なご対応で感服いたしました」などの表現に言い換えるのが良いでしょう。
類義語・関連語
「当意即妙」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 臨機応変(りんきおうへん):
状況の変化に応じて、適切な処置をとること。 - 機転が利く(きてんがきく):
その場に応じた素早い判断や対応ができること。 - 頓才(とんさい):
とっさの場面で働く、優れた知恵や才能のこと。 - 知恵が回る(ちえがまわる):
頭の回転が速く、うまく立ち回ることができること。
対義語
「当意即妙」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 頓珍漢(とんちんかん):
物事のつじつまが合わず、的外れな言動をすること。 - 支離滅裂(しりめつれつ):
バラバラでまとまりがなく、筋道が通っていないこと。 - 二の句が継げない(にのくがつげない):
驚いたり呆れたりして、次に言う言葉が出てこないこと。
英語表現
「当意即妙」を英語で表現する場合、以下のフレーズが適しています。
ready wit
「準備のできた知恵」から転じて、即座に働く機転や機知を意味します。
- 例文:
She has a ready wit.
(彼女は当意即妙の才がある。)
quick-witted
頭の回転が速く、すぐさま気の利いたことを言える性質を表す形容詞です。
- 例文:
He is quick-witted enough to deal with any trouble.
(彼はどんなトラブルも当意即妙に処理できるほど機転が利く。)
知っておきたい豆知識
「当意即妙」の「妙」という漢字は、もともと「少女」と書くことから、若々しくしなやかで、言葉では言い尽くせないほど素晴らしい状態を指します。
禅の世界では、理屈(ロゴス)を超えた直感的な正解を導き出すことを「妙」と呼び、非常に高く評価しました。
現代でも、あらかじめ用意された正解を述べるより、その場で生まれる「ライブ感」のある言葉のほうが人の心を動かすことがあります。
知識を詰め込むだけでなく、目の前の状況を柔軟に楽しむ心の余裕こそが、当意即妙な振る舞いを生む秘訣と言えるかもしれません。
まとめ
「当意即妙」とは、その場の空気を感じ取り、知性とユーモアをもって鮮やかに応える、コミュニケーションの理想形とも言える言葉です。
それは単なる技術ではなく、相手への深い理解と、予期せぬ事態を楽しむ柔軟な心から生まれるもの。
日常生活の中で、ふとした瞬間に気の利いた一言を添えることができれば、人間関係はより豊かで魅力的なものになることでしょう。





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