「この分野なら任せてください!」と、自分の得意な話題や仕事が回ってきた途端、目の色を変えて張り切りだす。
普段はおとなしいのに、趣味の話になると急に饒舌(じょうぜつ)になって止まらなくなる。
このように、自分の得意なことを発揮できるチャンスが訪れ、待ってましたとばかりに調子に乗って行動する様子を、
「得手に帆を揚げる」(えてにほをあげる)と言います。
「水を得た魚」のように生き生きと、追い風を受けた船のようにぐんぐん進む、勢いのある言葉です。
意味
「得手に帆を揚げる」とは、自分が得意とすることを行う好機に恵まれ、張り切って事を行うことです。
言葉を分解すると、その情景がよく分かります。
- 得手(えて):自分の得意なこと。最も自信のある技や分野。
- 帆を揚げる:船が出航する、または風を受けて進むために帆を高く張ること。
つまり、「得意なこと(得手)」という「追い風」が吹いてきたタイミングを逃さず、いっぱいに「帆を揚げて」、勢いよく前進しようとするさまを表しています。
単に「得意である」というだけでなく、「ここぞとばかりに張り切る」「調子に乗って勢いづく」という、本人の能動的なアクションや高揚感が含まれるのがポイントです。
語源・由来
この言葉は、日本の航海や船にまつわる文化から生まれた言葉です。
帆船(はんせん)は、風の力を利用して進みます。特に後ろから吹く「追い風(順風)」は、船にとって最高の条件です。
この絶好の風を「得手(得意な状況)」に見立て、その風を受けて一気に加速しようと「帆を揚げる」様子を、人の行動に重ね合わせました。
また、この言葉は江戸時代から庶民に親しまれており、「上方いろはかるた」(大坂いろはかるた)の「え」の読み札として広く知られています。
(※ちなみに「江戸いろはかるた」の「え」は「縁は異なもの味なもの」です。)
使い方・例文
「得手に帆を揚げる」は、ポジティブな意味と、少し皮肉めいた意味の両方で使われます。
- 肯定的な意味:本領を発揮して活躍する、頼もしい様子。
- やや皮肉な意味:得意なことになると急に調子づく、はしゃぎすぎる様子。
文脈によってニュアンスが変わるため、前後の文脈に注意が必要です。
例文
- 彼は鉄道の話題になると、まさに「得手に帆を揚げる」勢いで知識を披露し始めた。
- プレゼンが得意な彼女は、この企画が通るやいなや「得手に帆を揚げて」準備に取り掛かった。
- 普段は無口な父だが、将棋の相手が見つかると「得手に帆を揚げて」語り出すから面白い。
文学作品・メディアでの使用例
もう三年留学の辞令を請け取ってしまえば得手に帆を揚げる才子でいらっしゃるから……
『社会百面相』(内田魯庵)
留学というチャンスを得て、待ってましたとばかりに才能を発揮しようとする(あるいは調子に乗る)人物を評した一節です。
類義語・関連語
「得手に帆を揚げる」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 水を得た魚(みずをえたうお):
自分に合った環境や、得意な活躍の場を得て、生き生きとする様子。 - 渡りに船(わたりにふね):
困っているときに、ちょうど都合の良い条件や助けが得られること。「得手に〜」よりも受動的なラッキーさが強い言葉です。 - 順風満帆(じゅんぷうまんぱん):
追い風を帆いっぱいに受けて進むこと。物事がすべて順調に進む様子。 - 鬼に金棒(おににかなぼう):
強いものが良い条件を得て、さらに強くなること。
対義語
「得手に帆を揚げる」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 陸に上がった河童(おかにあがったかっぱ):
自分に合わない環境に置かれて、力が発揮できず弱り果てること。 - 手も足も出ない:
相手が強すぎたり、問題が難しすぎたりして、なすすべがないこと。
英語表現
「得手に帆を揚げる」を英語で表現する場合、「好機を逃さない」「自分の要素(得意分野)の中にいる」といったフレーズが使われます。
in one’s element
- 意味:「本領を発揮して」「水を得た魚のように」
- 解説:element は「本来いるべき場所(魚なら水、鳥なら空)」を指します。自分が輝ける環境にいて、生き生きとしている様子を表します。
- 例文:
She was really in her element during the presentation.
(彼女はプレゼンの間、まさに得手に帆を揚げる(本領発揮)様子だった。)
seize the opportunity
- 意味:「機会を掴む」
- 解説:好機を逃さず利用する、というニュアンスを強調する場合に使います。
まとめ
「得手に帆を揚げる」は、得意分野という追い風を受けて、ここぞとばかりに張り切る様子を表す言葉です。
誰にでも「これなら任せて!」と言える分野があるはずです。そんな「得手」な状況が巡ってきたときは、遠慮せずに思い切り「帆を揚げて」、その勢いに乗ってみるのも良いでしょう。
ただし、あまりに張り切りすぎると「調子に乗っている」と思われかねないので、帆の揚げすぎには少しだけ注意が必要かもしれません。







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